第20話 先回り
「やっと着いた……」
「もう限界……早く寝たい……」
夜通し山中を歩き続けた剛士達は、無事に国境を越えて隣国の街へと辿り着いていた。冒険者のように、事前準備も無しで魔物がうろついている山中での野宿は危険すぎたため、夜を徹して移動したために全員が疲労困憊だ。
新たに訪れた街は、昨日剛士達が抜け出したものと規模はあまり変わらない。待ちの入り口には入場待ちの行列が出来ているし、中に入る者達から同じように税金を取っているようだ。
以前と違い、今の剛士達はそこそこ小金持ちだけあって、今更人頭税ぐらいで困る事はない。全員分をさっさと支払った彼等は、拠点となる宿を決めて旅の疲れを癒やしていた。
「はぁ~……サッパリしたわ」
「私、お風呂のある宿に泊まったの初めてかも。凄いんだね」
リーフとナディアの二人は早速長風呂で汚れた体を綺麗にし、今はソファでくつろいでいる。風呂付きの宿ともなるとそこそこ値が張るので剛士は反対したのだが、今回はリーフが強硬に主張したためこの宿に決まったのだ。
「それじゃ、そろそろ今後の作戦会議を始めるぞ。あんまりのんびりしてるとあっという間に路銀が尽きるからな」
「良いけど、まだファングが戻ってきてないでしょ。あいつの偵察が終わってからの方が良くない?」
「作戦会議って言っても、結局また宝くじビジネスを始めるつもりなんでしょ? なら何を話し合うのよ」
ホームルームを始める教師よろしく手を叩いて注目を集めた剛士に、ナディアとリーフは一応目だけ向けて話を聞く体勢だ。現在この部屋には剛士、リーフ、ナディア、フラガの三人と一本が居る。ファングは二人が風呂に入っている間街の状況を調べてくると言って宿を出て行っていた。ちなみにフラガは街に入る時、剛士の上着をぐるぐる巻きにして見えなくされていた。抜き身の剣を手にして街には入れなかったからだ。
「まあ、リーフの言うとおりこの街でも宝くじビジネスを始めるんだが、一応形だけでも会議をしておかないとな。お前らは何か意見あるのか?」
剛士の言葉に彼女達は顔を見合わせて首を振るだけだった。
「……やっぱり無いか。じゃあこの街でも宝くじを――」
と、剛士が突っかけた時、ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえたと思ったら、何者かが勢いよく部屋の中へと入ってきた。
「た、大変だ! 大変だぞ剛士!」
部屋に飛び込んできた人物――偵察に出ていたファングは、息も絶え絶えと言った状態だ。
「いきなり何だ? 大変だけじゃ状況がさっぱりわからん。落ち着いて説明しろよ」
剛士から差し出された水を一息に飲んで深呼吸したファングは、「はあ~……」と深いため息を吐いた後、落ち着きを取り戻した。
「大丈夫なのか?」
「……ああ、すまない。しかし剛士よ。俺の話を聞けば落ち着いてなどいられなくなるぞ?」
「ファング。この世の中、大抵の事は冷静に対処出来るんだぜ? まして俺は領主に命を狙われた事もある。こう見えても色々と修羅場をくぐってるんだ。今更狼狽える事なんて無いね」
「ならかまわんが。落ち着いて聞いてくれよ。実はさっき――」
胸を張る剛士にファングは語り始める。剛士達が宿でくつろいでいる間、ファングは買い食いがてら街の状況を観察しようと色々見て回っていた。露店や商店などの店員は毎日様々な人々と接触するため、意外と情報通だったりする場合がある。ファングはそんな彼等と話をすることで、自分達が始める商売のネタが無いかを探そうとしていたのだ。何件かの屋台を回った時、その屋台の親父に何か面白い話が無いかと聞いたところ、最近この街で流行っているある博打があると教えて貰ったのだ。
「流行ってる博打……? まさかな……」
嫌な予感がしつつ、博打が行われていると言う会場まで来てみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。広場を埋め尽くすほど集まった群衆の視線の先。どこからでも見える位置に備え付けられた舞台の上では、司会の男が何やら賑やかに話ながら鉄かごから転がり出てくる玉の番号を読み上げている。
そして番号が一つ読み上げられる度に、周りに居る群衆が自分の手元にある紙と見比べて一喜一憂としてるのだ。つまりこの広場は、剛士が流行らせた宝くじの当選発表の場とかしていたのだった。
「マジかよ……こりゃ一大事だぞ」
自分達がやるはずだったビジネスを先回りで始められている。慌てて宿に戻ったファングが剛士達に報告したと言うわけだ。
「どどどど、どうなってんだよそりゃ!? 俺の商売が真似されてるってのか!? 先にやられたらこれからどうやって金を稼げば良いんだ!? 破産だ! お終いだ!」
「うるさいわね! ちょっと落ち着きなさいよ!」
さっきまで自信満々だった余裕など見る影も無く剛士は狼狽えまくっていた。今までのように剛士とリーフだけだったら、この状況を招いた責任をお互いになすりつけあい、不毛な口喧嘩からの取っ組み合いに発展していたのであろうが、幸い今は彼等以外にも人材がいる。
危機の度にいちいち狼狽えていては命がいくつあっても足りない冒険者二人組は、素早く意識を切り替えて剛士をなだめに入る。フラガに至っては自分の食い扶持以外興味がないのでだんまりだ。
「もう宝くじを他人が始めてるってんなら、今から俺達が参入するのは厳しいな。それこそ街のゴロツキを雇って嫌がらせされるかも知れん。俺達だけじゃ戦力不足だし、諦めた方が良いぞ」
「だね。こうなったら別の商売を考えた方が賢いよ」
「くっそー! 特許庁でもあれば連中を訴えることも出来るのに! 人のアイデアをパクりやがって!」
もともと宝くじ自体が剛士の発案で無いので彼の抗議は的外れだろう。ちなみに、早口言葉で有名な東京特許許可局と言う組織は実在しない。特許を管理しているのは特許庁だ。
「特許庁ってのが何だかわからないけど、何かいい案は無いのか? その本に色々と書いているんだろ?」
「そ、そうだな。ちょっと調べてみるか」
言われて、剛士はチートマニュアルをパラパラと捲り始める。
「資金があまり無いから物作りはなるべく避けたい。農業改革みたいな成果が出るまで時間がかかるものも駄目だ。となりゃ、また博打関連が手っ取り早いんだが……」
ブツブツ言いながら真剣な表情で本を捲る剛士を他の三人はそれぞれの理由で黙って見つめている。金儲けに関して真剣になった剛士は一応信頼できるとリーフはわかっているし、残りの二人は突然変わった雰囲気に飲まれて口を出せないでいた。三人が息を潜めて見守る中、剛士は突然ニヤリとして顔を上げる。
「……何か思いついたの?」
「まあな。上手くいけば宝くじと同様に儲けられるぜ。色々と仕込みは必要だけどな」
一人で笑う剛士に戸惑いながら、三人は彼の言葉を聞くべく耳を向けた。
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