第471話16-25散り行く者たち

 16-25散り行く者たち



 『お母様、皆に伝達終わりました! 今より一斉攻撃に入ります!!』



 コクからそう念話が入り、上空の黒龍たちと赤竜の幼竜は「狂気の巨人」に対して攻撃を始めた。



 「探せ! 最後の一本を!!」


 ご先祖様がそう言って魔晶石を持ち出す。

 それをあたしやティアナによこして言う。



 「いいか、広範囲で【感知魔法】を発動する。なんとしても『女神の杖』を探し出すんだ!」



 そう言ってご先祖様自らも魔晶石を使って【感知魔法】を発動させる。


 確かに魔晶石を使えば自身の魔力は使わなくて済む。

 あたしやティアナも一斉に魔晶石を使って【感知魔法】を発動させる。



 「どこですの!?」

 

 「『狂気の巨人』復活後半日です、そう遠くへはいけないはず‥‥‥」



 もしあたしたちの来た方角だったら鉢合わせしているはず。

 しかしそれが無かったと言う事は‥‥‥


 あたしは別の方角を感知してみる。

 すると知っている感覚が!?



 「いたっ、ですわ!! 北側それほど離れていませんわ!!」



 確かにこの感じは「女神の杖」。

 あたしのその言葉にティアナもご先祖様も同じ反応を示す。


 「よし、そいつをとっ捕まえにいくぞ! ついてこい、エルハイミ、ティアナ!!」


 ご先祖様はそう言ってそちらの方へ走り出す。



 あたしはシェルに念話を飛ばして「女神の杖」を持ったものがいる方向を教える。


 『わかった! ショーゴも呼んで合流する!!』


 シェルはそう答えて念話を切る。

 あたしたちはご先祖様を先頭に反応の有った方へ行くとその先に数人フードをかぶった者たちが!?



 「まだ魔法は使うな! 【術式攪乱】!!」



 ご先祖様はあたしたちの知らない魔法を発動させる。

 あたしたちに気付いたフードをかぶった人物たちは慌ててあたしたちに魔法をかけようとする。

 

 しかし先ほどのご先祖様の魔法が効いているのか、彼らの魔法は発動を乱されことごとく失敗している!?



 「やっぱりか! おいティアナ、エルハイミあいつらはダークエルフだ! しばらく魔法は使えん! 剣を抜け!! 行くぞ!」



 そう言ってご先祖様は瞳を金色に輝かせ幅の広い大剣で一気に切り込んでいく。



 「なっ!? お前はティアナ将軍!?」


 聞いた事のない女の声がそう言う。

 するとティアナは驚いたように吠えた。



 「貴様かぁっ! カルナハマっ!!」



 そしてガレント流剣技九の型、九頭閃光を使う。


 「ガレント流剣技九の型、九頭閃光!!」


 しかし狙ったその相手の間に割り込んだフードの人物に全ての攻撃を弾かれる。


 

 そんな!

 あの技をしのぐなんて!!



 「カルナハマ様、お逃げください。こいつらの相手は私がします」


 そう言いながらその人物はフードを脱ぎ捨てる。

 それはダークエルフの戦士。

 全身に短刀を沢山身に着けた異形の戦士。



 「ダークエルフの戦士だと? 珍しいな、だが!」


 ご先祖様が大剣を振るう。

 しかしそのダークエルフは器用に短剣を使いご先祖様の剣を受け流す。



 「ノムン! くっ、ロミ逃げるよ!!」


 「逃がすか! カルナハマ!! セレの恨み今ここで貴様を切り捨ててくれる!!」



 ティアナはどうやら彼女を知っている様だ。

 セレとか言っているからもしかして取り逃がしたと言っていた十二使徒の一人?



 あたしは注意深く周りを見ながらシェルに念話を飛ばす。


 『シェル急いでですわ! 私たちは一刻魔法が使えなくなってしまっていますわ。『女神の杖』を持ち出したのはどうやら十二使徒、そしてダークエルフたちがいますわ!』


 『なんですって!? エルハイミが魔法使えなきゃどうしようもないじゃないっ! 分かった、もうすぐ着く! それまで持ちこたえて!!』


 あたしは護身用の短剣を引き抜き身構える。



 あー、ロクドナルさんに稽古つけてもらったけど実戦には全く自信が無い。

 こんな事ならもう少し鍛えておくべきだった。

 魔法が使える様になるまで自分の身くらい守れるようにしなければ。




 キンっ!



 音のする方を見るとご先祖様とノムンと呼ばれたダークエルフの戦士が戦っている。



 「なかなかやるが所詮はダークエルフの力、弱い!!」


 「だが、行かせん! わが身が滅びようと『狂気の巨人』が動き出すまでは!!」



 ノムンは短剣を投げ飛ばしながら口に含んでいた針のようなものを飛ばす。

 しかしご先祖様はそれを知っていたかのように簡単にかわし大剣に力を込める。



 「ダークエルフにしてはなかなかだったが、時間が無いんでな。悪いが使わせてもらう、目覚めよ『雷鳴剣』!!」


 ご先祖様がそう言うと幅広の大剣は真ん中からバックりと割れてその間に魔晶石の様な宝石の輝きを見せる。

 そしてその宝石から一気に雷が発せられ大剣自身を取り囲む。



 「むんっ!」



 気合と同時にご先祖様はその剣を振る。

 すると周辺に雷を放ちながらノムンを捕らえる。


 「ぐぅぎゃぁぁああああぁぁぁぁっ!!」


 剣を避けても周りにまとう雷までは避け切れずノムンは感電してその場で黒焦げになり倒れる。



 「ノムン兄さん! く、カルナハマ様早く逃げて!」


 「ロミっ! くそう、こうなったら!」


 ティアナの剣をロミと呼ばれているダークエルフの女性が何とか捌いていた。

 ご先祖様はそのまま他のダークエルフたちを切り伏せている。


 「【転送魔法】!」


 カルナハマは持っていた『女神の杖』をどこかに飛ばそうと【転送魔法】を使う!?




 ひゅんっ!


 どすっ!!

 ボンっ!!




 「ぐはぁっ!!」



 しかし何処からか飛んで来た矢に片腕を貫かれ爆発させられる。

 そして空中に浮かんで今にも転送される所だった「女神の杖」が地面に転げ落ちる。



 「シェル!」



 「待たせた! それよりショーゴ! あいつを!!」


 「おうっ!」



 シェルが放った矢のおかげで何とか間に合った。

 そしてショーゴさんはそのまま飛び込みなぎなたソードを振るう。



 ざしゅっ! 



 その一撃は片腕を吹き飛ばされたカルナハマの首を空中に飛ばす。



 「カルナハマ様! ぐあぁっ!」



 それに注意を捕らえたロミはティアナの剣に捕らえられその場に倒れる。




 「ティアナ! 『女神の杖』をですわ!!」

 

 「ええ、、分かったわ!」



 ティアナは「女神の杖」を拾い上げる。



 「ぐふっ、く、くっくっくっくっ、やった。 お、お前たちの負けだ‥‥‥ ぐっ」


 「女神の杖」を拾い上げたティアナにロミは血を吐きながらそう言って動かなくなった。



 「なんですの? 『女神の杖』は取り戻しましたわ?」



 「畜生、間に合わなかったか!」


 ご先祖様の声にあたしは理解した。

 「女神の杖」は取り戻せた。

 しかし「狂気の巨人」は動き出している。


 慌てて後ろを振り返ると鎖を引きちぎりルド王国に張られていた城壁を崩しながら「狂気の巨人」が動き出していた。



 「ま、間に合わなかったの? そんな、あの化け物が動き出したって言うの!?」


 シェルは見上げながら叫ぶ。

 

 上空ではコクたちが「狂気の巨人」を押し戻そうとしているが全くと言っていいほど効いていない。


 足元を見れば集まったみんなが攻撃を仕掛けているけどやはり全くと言っていいほど効いていない。



 「くそっ、ライムもいねえ、魔法騎士団もねえ、何処までできるかっ?」



 ご先祖様は魔剣を握りしめ構える。


 

 「エルハイミ、私も初号機で出ます! 何とかやつを魔法陣まで押し戻すのです!!」


 「ティアナ」


 ティアナはそう言ってポーチからキャリアーハンガーごと初号機を引きずり出し乗り込む。


 「ティアナ、あたしも行く!!」


 マリアが初号機に一緒に乗り込んで天高く飛び立って行った。



 「全く、エルハイミ、お前らは面白いモノばかり作るな。これが終わったら俺にもあれを見せろよな?」


 「ええ、いくらでもお見せしますわご先祖様。それで策はあるのですの?」



 「残りの魔晶石を全部お前に渡す。それで可能な限りゴーレムを作りあいつの足にしがみつかせろ。その間にこの剣と俺の全魔力使ってどでかい一撃喰らわせてやる。うまくいけば押し戻せるくらいはできるだろう。そうしたらエルハイミ、お前が【無限虚無牢獄】の魔法を使え。やり方は簡単だ、『女神の杖』に魔力を流し込み全ての杖とリンクして扉を開け。あとは魔法陣の術式がやってくれる。流し込む魔力を出し惜しみするなよ」



 そう言ってご先祖様は剣を地面に突き刺し両手をかざす。


 長々とした呪文の詠唱を始めた。



 あたしはすぐに魔晶石の魔力を使ってロックゴーレムたちを作り上げ「狂気の巨人」の足に張り付かせる。


 五、六メートル級のゴーレムを可能な限り。

 その数はゆうに数百を超える。



 「あれだけのゴーレムだというのに!」


 ショーゴさんは唸る。

 ラグビーのスクラムの様にどんどんと足元に固まっていくゴーレムたち。

 しかしそれをものともせずに歩みを進める「狂気の巨人」



 上空ではティアナの初号機やコクたちが少しでも歩みを止めようと奮戦している。

 あたしのゴーレムに気付いたみんなも足元に【氷結魔法】や【拘束魔法】、【茨の戒め】等の可能な限りの足止め魔法や攻撃で動きを止めようとしている。




 「くっ! だめですわ!! ご先祖様、早くですわ!!」



 「よし、行くぞ! 全員退避させろっ!!」


 あたしは念話や声を拡声する魔法を使ってみんなに退避するように言う。

 それを見たご先祖様は長々と詠唱を終わり剣のつばに両手を載せる。

 


 「せめてぶっ倒れろよ! 【爆裂核融合魔法】!!」



 【爆裂核魔法】の様に白い光が収束したと思えば小さな球体は周辺にプラズマをまとい「狂気の巨人」の上半身に飛んでいく。


 そして次の瞬間!




 カッ!!




 どがぁぁああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁあああぁぁぁんっ!!!!




 「狂気の巨人」の上半身をまばゆい光が包み大爆発を起こす。

 それはまるで火山の噴火かと思うようなモノ。

 衝撃波だってかなりのものだ。





 あたしたちははるか上空で大爆発を起こしたそれを見るのだった。 

 

     

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る