第459話16-13皇帝ゾルビオン
16-13皇帝ゾルビオン
「シェルその後はどうですの?」
馬車に揺られながらあたしたちは帝都エリモアに向かっている。
「う~ん、なんか色々と情報が入り乱れている。エリモアにはエルフが数人いるみたいでみんなの情報が食い違っているわ」
「まさか情報攪乱ですか?」
エルフのネットワークはファイナス市長が中心となって風の上級精霊を使い世界中にいるエルフたちに情報の配布と収集をするネットワークだ。
あたしたちが作り上げた風のメッセンジャーも確かに優秀だけどエルフのネットワークにはかなわない。
シェルはファイナス市長から飛ばされてくる情報を受け取りその内容を確認している。
「駄目ね、皇帝ゾルビオンが重大発表をするってのがファイナス長老のまとめた結果ね。まだ詳しい内容は分からないけど同時に全エルフに大事に備えなさいって連絡が来た。これって『魔人戦争』以来だってエルフの間では大騒ぎになっているわ」
シェルは最後にファイナス市長がまとめた結果を教えてくれる。
ファイナス市長は情報をもらうとすぐにでも近くのエルフを使って事実確認をするのでその情報は精度が高く信憑性が高い。
「やはり帝都にまで行かなければわかりませんか」
ティアナは帝都の方向を見てそうつぶやく。
しかし一体どんな重大発表をするというのだろうか?
皇帝ゾルビオン。
ゾナーの話では完全にジュメルに洗脳され操られているという事だ。
だとすればこの発表はジュメルとしての考えとなる。
「ティアナ様、どちらにせよ私たちにとって良い話では無いでしょう」
「やはり風のメッセンジャ―を持ってくればよかった」
セレやミアムはそう言いながらみんなに飲み物を渡している。
一刻も早く帝都に向かう為に馬車を止めずに食事も簡単に済ませる為だ。
風のメッセンジャーは連合軍の所有物だから勝手には持ってこれないのだけどね。
「はい、エルハイミさん」
そんな事を考えていたらミアムがあたしに飲み物を渡してきた。
「エルハイミさん、それでも一応お礼を言っておきます。ビスマスを倒してくれて」
「ミアム?」
「あれは私たちが死んでも殺したい男でした。これでやっとセレもあの悪夢から解放される」
ミアムはそう言って携帯食を渡してきた。
過去にどう言った事があるかは詳しくは聞かないけど彼女らなりに整理がついたのだろう。
あたしに対しても以前の様な態度が減って来た。
そして心なしかティアナ以外にも笑顔を見せる時がある。
この子たちも前に進んでいるんだ。
あたしはもう一度腰に手をあててそこに何も無いのを確認してから前を見る。
「なんとしても『女神の杖』を取り戻さなければですわ」
誰とに無くそう言うあたしだった。
◇
「見えてきた、あれが帝都エリモアだ」
バルドさんはそう言って行ったん馬車を止めさせる。
そしてあたしたちに馬車を降りるよう言う。
ここから別行動でエリモアに潜入するのだ。
「ダリル、ロム。後は頼むぞ」
「はい、バルド様」
そう言ってダリルさんとロムさんは帝都に向かう。
それを見送ってからバルドさんはあたしたちに川の方から忍び込むために案内を始める。
「先にダリルたちが拠点の仲間と接触します。そして唯一守りの薄い水門から手引きをしますからその隙にそこから侵入をしましょう」
どうやらダリルさんたちを先にやったのはあたしたちの手引きをさせる為のようだ。
あたしたちは頷きバルドさんについて行く。
そしてエリモアの外にある小さな集落に着いた。
「ここは主に川魚を取る村です。ここから船で帝都に忍び込みます」
そう言って小さな小屋へと入って行く。
小屋には特に何も無く簡単な家具が置かれていた。
「ここは村人から借りている建物です。川で荷運びをする為の物置として借りていますので怪しまれる事は無いでしょう。特にこの時期は川が凍る前に我々が毛皮運搬などにも使っておりましたから」
「そうすると近くに船が有るのですね?」
「はい、この建物の裏が船着き場です。ダリルたちには夕刻最後の水門を開く時に手引きをしてもらいます。水門を守る部隊長は我々の同志です。最終であれば一番手薄な時。容易に入り込めましょう」
バルドさんはそう説明してくれた。
あたしたちはその時まで一刻の休息をとるのだった。
* * * * *
「そろそろ水門ですね? 大丈夫でしょうか?」
「ティアナ様お静かに。動かないようお願いします」
夕刻まだ茜色の世界にあたしたちの船がゆっくりと水門に近づく。
船頭をするのはバルドさん。
変装していていかにもという格好をしている。
船の荷台にかけられたシートの下にあたしたちは静かに潜んでいる。
そして船に衝撃が伝わり水門出の検問が始まった様だ。
ここから聞いていると荷物は何かとか商業ギルドの通行手形がなんだとかやり取りをしている様だけど予定通り荷物検査もされないで通れるようだ。
再び船が動き出し城壁内に入れたようだ。
「ここまで来ればもう大丈夫です。荷下ろしの船着き場までもうしばらく我慢してください」
バルドさんはそう言って船を操る。
と、その時だった。
『親愛なる我が領民よ、我は皇帝ゾルビオンなり』
「!?」
いきなり低い男の声が鳴り響く。
これは拡声魔法か何かだ!
『我が帝国は女神ジュリ様の教えを守りこの極寒の地で生きる為に戦い続けた。世の国々はそのジュリ様の教えをないがしろにしあまつさえはジュリ教自体を敵視し迫害を行っておる。しかし数こそ少ないジュリ教が今まで途絶えることなくジュリ様の教えを守り続けられたは何故か!? それはジュリ様の教えが正義であるからだ!』
「こ、これは!?」
ティアナは思わず顔をあげる。
『我が帝国は女神ジュリ様の教えを守る為、正義を貫く為世に散らばるジュリ教を救済する為これより聖戦を行う! 形骸した他国の軍など恐るるに足らぬ、あえて言おう、カス同然であると!! これら軟弱な軍隊が我ら帝国軍を、聖騎士団を抜くことはできないと、我は断言する。我が帝国とその領民がジュリ様の教えを広めこの世に秩序と平和をもたらすであろう。立てよ領民よ! 我らホリゾン帝国は明日の未来の為に立たねばならぬ、我が帝国に、そして女神ジュリ様に栄光あれ!』
うおおおぉぉぉぉぉっ!!
ここからではない。
隠れていても分かる。
街中が歓声を上げているのだ。
あたしはぞっとする。
この中にはジュメルの本当の姿を知らない住民がどれほどいるのか。
そしてこの国の人間は、この帝都の人間はそれほどまでに盲目に操られているのだと。
『これより一ヵ月後、女神ジュリ様のお力が世界を、愚かな者たちを焼き尽くす。我ら帝国に、女神ジュリ様にたてつく愚か者どもをこの世から消し去るのだ! そして我らは母なる女神ジュリ様のもとへ召されるであろう! あとわずか、我が家臣たちよその力、帝国の、いや、女神ジュリ様の為に尽くすがよい!!』
うおぉおおおおおぉぉぉぉっ!!!!!
街全体が歓喜に震えた。
「傀儡の皇帝が何を言う! 偽善に擬した戯言で領民を騙す者が何を言うか!?」
ティアナは震えながらそう言う。
「あれが敵なのですわ‥‥‥」
あたしは只々ティアナの手を握る事しか出来なかったのだった。
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