第439話15-28義勇団
15-28義勇団
「どうでもいいでしゅがおなかすいたでしゅ!!」
あたしたちはゲートをくぐりガルザイルに着いた。
そして着いたと同時にいきなりセキがしゃべりだした!?
「エ、エルハイミ!! セキが、セキがしゃべりました!! ああっ! セキ! 分かりますか? 私がお母さんですよ!!」
ミアムが抱っこしていたのをティアナはいきなり奪い取りセキを覗き込む。
セキは真っ赤な髪の毛でくりくりした黒に赤が混じった瞳でティアナを見ている。
「おかあしゃん? なんでもいいでしゅ、おなかすいたでしゅ!!」
何かコクの時よりはっきりと喋っているような?
あたしは思わずコクを見る。
「どうやらお母様と赤お母様の二人から魔力をもらっているのでかなりの速さで成長をしているようですね?」
コクは特に興味もなさそうにそう分析する。
「セキ、今おっぱいあげますからね!」
そう言っていきなり上着を脱ぐティアナ。
あたしたちは慌ててそれをやめさせる。
こんな人目の有るところで何始めんのよティアナ!
どうもセキがらみだと理性を失ってしまいそうなティアナだ。
よくよく見ればお目目ぐるぐるになっている。
あたしたちはとりあえず陛下に謁見する前にティアナとセキを落ち着かせるために控えの部屋に行くのだった。
* * *
「まさか私まで魔力を吸われる羽目になるとは‥‥‥」
「ですからお母様は指からでも魔力を吸わせればいいでしょうに。お母様のおっぱいは私のです!」
「いいなぁ、コクちゃんもセキちゃんもお姉さまのおっぱいもらえて。私も欲しいです!」
あたしがぼやいているとコクがセキに対して相当な事を言っていてイオマも欲望を垂れ流す。
そこへシェルがやってきて話に割り込んでくる。
「む、胸だけが全てでは無いわよ! でも、あたしだってエルハイミの子供が出来ればちゃんと出るわよ! エルハイミ安心して、あたしだって出るからね!!」
いや、何を安心して何を出す気よ!?
そもそもあたしの子供って何っ!?
『しかし本当に良く魔力を吸うわね? 太古の竜ってみんなこうなの?』
シコちゃんが興味深くセキを見ている様だ。
「赤竜は特に貪欲に食事をする習性がありましたからね。本来なら物的な食事はしなくてもいいのに好んで血肉を食らっていましたから。通常は古竜あたりから周辺のマナから魔力を吸い取れるのですが」
イオマに魔力回復のポーションをもらいながらコクの話を聞く。
気休め程度にしか魔力は回復しないけど飲まないよりはマシだしこのオレンジ味は結構好きだ。
何と言うか生前の駄菓子屋の安っぽいジュースのような味がくせになる。
「ふふっ、いっぱい飲んで眠ってしまいましたね? 可愛い‥‥‥」
ティアナはものすごくご満足の様な顔をしてセレに一旦セキを預け自分もポーションを飲む。
服を着て身なりを整えてから陛下に挨拶に行かなければならない。
と、あたしは有ることに気付く。
「コク、コクたち太古の竜は周辺から魔力を吸い取れるのですわね? と言う事はコクもその気になれば出来るのですね?」
「ななななな、何をおっしゃいますお母様! コクはほら、まだまだ幼い幼竜です! まだまだお母様のおっぱいが必要なんです!!」
なぜかびっしりと汗をかきながら明後日の方向を見るコク。
見た目だってもう十歳くらいなのにいまだにあたしのおっぱいを欲しがる。
むう、この娘は‥‥‥
「そ、それよりお母様は早い所この国の王に挨拶に行かねばならないのでしょう? ささ、早い所いきましょう!!」
慌てて外で待つショーゴさんやクロさんを呼びに行ってしまった。
あたしは軽いため息をついてティアナと共に陛下に挨拶に向かうのだった。
* * * * *
「それでティアナよ、本当に行くつもりか?」
「はい、お父様。私たち以外に動く訳にも行きませんでしょう?」
謁見の時ティアナがティナの町で休養に入る旨を報告したがアコード陛下はその後にティアナをこっそりと書斎へと呼んだ。
勿論あたしたちにも来るよう言われているのでみんなここに居る。
「最悪の場合は、確かにホリゾン帝国に勝手に入る事も出来んし、正面切って戦争している暇など無いだろう。そんな事やっているうちにジュメルに『狂気の巨人』を復活させられてしまうからな。しかしそれでもティアナ、お前たちだけではな。正直心配だ」
人払いしている事も有ってアコード陛下はかなり砕けた感じで本音を話す。
「だからこそ少数精鋭で動くのです。それに師匠が全世界に英雄、それに準じる者、志が有る者をこのガルザイルに呼んでいます。それは万が一に備え必要な事になりましょう」
ティアナはそう言って父親であるアコード陛下を見る。
アコード陛下は一瞬優しい目をして息を吐く。
「全く、おてんばな娘を持つと気苦労だけは無くならないな。お前にはアテンザ同様静かに幸せになってもらいたかったのだがな。せめて孫の顔くらいみたかったぞ?」
最後は皮肉を言っているつもりなのだろう。
しかしアコード陛下、それは禁句ですってば!!
「それならお父様ご安心を! セレ、セキをここへ!! ご覧ください、私たちの娘を! この赤い髪! 目元鼻筋は私に、口元やくせっ気は我妻エルハイミにそくっくりでしょう!!」
「なに?」
アコード陛下はセレが抱きかかえていた赤ん坊を覗き込む。
しばし凝視していたが頭から生えている角を見る。
「なあ、ティアナよ。お前たちが子供をもうけたというのは驚きで喜ばしい事ではあるがこの子は何故角が生えている?」
「個性です!」
「いや、よくよく見れば竜の様な尻尾もあるのだが‥‥‥」
「個性です!!」
「なあティアナ、お前たちが子供作るのは難しいのは知っているがそこにいる黒龍と同じでこの赤子は報告にあった赤竜だよな?」
「ちゃんと私たちが魔力を与え育てております! どうですかセキのこの可愛らしさは!!」
「い、いやまあ、可愛いは可愛いのだが‥‥‥」
困った表情でこちらを見るアコード陛下。
しかしこうなってはもう遅い。
ティアナの「セキ可愛い」オーラ―に押されまくる陛下。
うーん、マース教授ルイズちゃん可愛いいとかぶって見えてくる。
こうなってくると孫認定しない限り永遠とティアナにセキの可愛さを解かれるであろう。
一応お王家の血筋に関わる事だからアコード陛下も公には認められないだろうけど。
認めたらドラゴンニュートが王位継承権を持ってしまう。
『アコード、その子は赤竜でティアナとエルハイミの子供よ。公には出来ないけど素直に孫としてあげなさいって。大丈夫、後はエスティマが頑張ればいいだけの事だからね』
仕方なしにシコちゃんが助け舟を出す。
それを聞いたティアナはここに来て初めて理解したらしく、小さく笑ってアコード陛下に言う。
「お父様、この子はガレントの名をつけませんよ。ただセキは私とエルハイミの子供と言うだけです。お父様やお母様に子供の顔を見せられなかったせめてもの償いです」
「ティアナお前‥‥‥ そうだな、セキか。いい子に育てばよいな」
そう言ってアコード陛下はセキの頭をなでてやる。
それを見てティアナはもう一度優しく笑う。
「お父様、後はお願いします。師匠が集めた勇者たちを」
「わかった。だがティアナ、無駄死にだけはするなよ」
ティアナは静かに頷くのだった。
* * * * *
あたしたちは連合軍の駐屯所に来てた。
「ティアナ将軍!」
アラージュさんやカーミラさんが出迎えてくれる。
「どう言う事ですか!? ティアナ将軍が休養を取らされるとは? それに我々だけで『女神の杖』を強奪したジュメルの者を捕らえよとは!?」
連合軍には既に風のメッセンジャーで通知が来ているはずだ。
それを分かっていながらアラージュさんやカーミラさんは聞いてくる。
「すべては私の至らなさが招いた結果です。会議での決定は既に下され私はティナの町で期限の無い休養を取ります。アラージュ、カーミラ、連合軍を、後の事を頼みます」
ティアナにそう言われアラージュさんやカーミラさんは言葉を失う。
しかしロクドナルさんは違った。
「殿下行かれるのか? できれば私もご同行したいのだが」
「ロクドナル、あなたは剣聖です。ガレントにとって必要な人間。この国を守ってください。それに万が一の時は‥‥‥」
ティアナにそう言われロクドナルさんも今度は何も言わない。
長い付き合いのロクドナルさんだ、ティアナが何を考えているかは分かっている。
無言で剣を抜き自分の前に掲げティアナに対して敬意を示し「必ずや!」とだけ言ってまた剣を鞘にしまう。
剣に誓いを立てたのだ。
それを見てティアナは小さく息を吐く。
まるでここでの心残りが無くなったかのように。
「アラージュ、カーミラ、そしてロクドナル。最後にお願いします。師匠がここへ勇者やそれにつらなる者、志の有る者を集めています。彼らは連合とは関りの無い義勇の者。彼らの手助けをしてやってください」
やがてここへ義勇の者が集まるだろう。
彼らは連合軍ではない、義勇団だ。
だから誰それに束縛はされない。
ティアナのその最後の望みに対してアラージュさんもカーミラさんも直立して右手を左胸の前に持って来る。
「世界平和に為に心臓を差し出します!」
そう言ってティアナの最後の望みを、命令を受けるのだった。
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