第437話15-26連合緊急会議

 15-26連合緊急会議



 あたしたちは何だかんだあってボヘーミャに戻っていた。




 「ご先祖様、今度見つけたらただではおきませんわ!!」


 「エルハイミのご先祖様ってある意味凄いわね‥‥‥」


 『でもあれでよかったのかしらねぇ』


 結局あの後ご先祖様は見つからず、ファイナス市長も最古の長老たちがあの状態なので公表も出来ず悩みに悩んだ末に当面「緑樹の塔」に住んでもらう事となった。


 エルフの村には世界の大事が起こっているので長老たちは世界の情勢を見極める為に当面外界に行くと言う事にしているが要は子育てが忙しいので帰れない訳だ。


 ただ、メル様は状況の重大さが分かっているようで何らかの方法でご先祖様に連絡をつけると言っていた。

 すぐにでもつけてもらいたいと言ったら、うまく行くかどうかわからないと言われたが。



 うーん、嘘は言ってなさそうだし仕方ないのでそちらは任せるとしよう。


 

 「エルハイミ、そろそろ‥‥‥」


 ティアナはそう言って重い腰を上げた。

 これから連合の緊急会議が始まる。


 師匠の考えで最悪に備え英雄やそれに準じる力のある者たちには声をかけ、もし会議で良く無い事態になってもあたしたちだけでも世界の破滅を阻止するために動くつもりだった。


 あたしたちは連合の緊急会議を始めるのだった。



 * * *



 「つまりこのままではジュメルの野望が成立してしまいあの伝説の『狂気の巨人』が復活してしまうと言う事ですな?」


 「ティアナ将軍、これはどう言う事なのだね? みすみすジュメルに『女神の杖』を奪われるとは?」


 「君の妻である『雷龍の魔女』の手元に置けば安全ではなかったのかね?」



 緊急会議では各国の代表がすぐには集まれないので以前同様大使や代行人がこの会議に出席している。


 議題は現状説明とそれに対する各国の協力要請だが話が進む前にやはり責任問題でごちゃごちゃ言い始めた。



 「責任については申し訳なく思っております。しかし今は一刻を争う時、どうか今一度機会をいただきホリゾンに攻め入ってでも『狂気の巨人』復活を阻止させていただきたい! 今の我々であればそれが可能なのです!」



 あたしやシコちゃん、シェルの魔法、ショーゴさんやクロさん、クロエさんに加えコクの戦力、そして北のティナの町にある零号機とイオマのおかげで修理の終わった初号機。


 これらの力がその猛威を振るえば例え聖騎士団やジュメルの魔怪人、巨人の軍団が来ても敵ではない。

 事実上の世界最強の戦力が有るのだ。




 「だが、それでもジュメルだけでなくホリゾン帝国をも抑える事が出来る保証はない。」



 どこかの大使がそう言い始める。


 「またティアナ将軍の言葉を信じ今度こそ取り返しのつかない事になってしまっては責任問題どころでは無いでしょう?」


 「全くです、私も本国を説得できる自信なぞ有りませんぞ?」


 「むしろ下手な進言をすればこちらの責任を問われてしまいますしな‥‥‥」


 否定的な発言が次々と上がって来る。

 そして遅れて風のメッセンジャーもどんどんと入って来る。


 その内容はここに居る参席者同様で否定的な考えや自己にかかる責任に対する言及。

 前向きな考えなど最後には皆無になり只々ティアナを攻める発言が増える。


 「そもそも何故にホリゾン帝国と敵対する必要があるのですか? 我々の敵はジュメルでは無いのですかな? 確かにホリゾン帝国はジュリ教を国教としているがジュメルを国教とする訳では無いでしょうに?」


 「確かに、ガレント王国には申し訳ないが表面だって対峙しているのはガレント王国だけですしな」


 「ジュメルにはまだしもホリゾン帝国に手を出すと言う事は連合としてホリゾン帝国を敵国として参加国が認証した事となりますしな」


 「ティアナ将軍、今までの君の功績は素晴らしいモノだった。しかしいささか疲れたのではないだろうか? 今回の『女神の杖』強奪についてもその疲れのせいでは無いのだろうか?」



 最後にどこの大使だか代理人だかが発言する。

 それを皮切りにどんどんと意見が上がって来る。



 「確かに今までの功績は目を見張るものがありますな。しかし今回の件を鑑みると確かにお疲れでは無いでしょうか?」


 「ティアナ将軍、いや、ティアナ殿は少しお休みになられた方が良いのではないかな? 連合軍は現在各国を巡視していて小規模のジュメル拠点を着々と殲滅できているとの報告もあるしな」


 「おお、それですぞ。その連合軍をガレント王国に派遣してその強奪された『女神の杖』を持つ者をとらえる方が良いのではないですかな? ガレント王国内でとらえられればホリゾン帝国にとやかく言われる筋合いも有りませんしな」


 「全くだ。それであれば問題には成りませんな。彼らはティアナ将軍不在でもやっていけるだけの実力がありますしな」



 ちょっとマテ、何だそれは?

 第一軍から第三軍を鍛えてその実力を底上げしたのはティアナだぞ?

 それにあたしたちが危険な「女神の杖探索」を行っている間にも人々をジュメルの魔の手から守るために巡視させて各国でこれ以上の被害を食い止めようと思案したのはティアナだぞ?

 それをティアナ不在でもやっていけるだって?

 

 冗談ではない!



 「どうだろう、ティアナ将軍には少し休んでいただき各国にいる連合軍を急ぎガレントに戻しガレント内でその者たちを捕らえるというのは? これなら今の連合軍でも出来る事でしょう?」


 「幸いなことに第一軍は現在補給の為ガレントに戻っておりますしな! 他の二軍、三軍も急ぎ戻らせればすぐでしょう?」


 「良いですな。それではティアナ将軍には少々お休みいただき、連合軍にはガレント王国内での『女神の杖』強奪者を捕らえさせその後は今まで通り各国を巡視させジュメルを殲滅してゆけば我々の国元も安泰と言う事ですな! 国内の小規模の問題駆除が出来るのであれば他国間同士でのいざこざも無くなりますしな」


 口々にそう言い始め最悪な事に対しての備えを考慮しない。

 更にその考えを持つティアナを排除しようとまでしている。



 「そんなですわっ! ティアナの言う通り今準備をして万が一にはホリゾンにまで乗り込まねば取り返しがつかなくなりますわ!!」


 「エルハイミっ! やめなさい!! 失礼した。我妻の勝手な発言、平にご容赦いただきたい」



 あたしが思わず口にしたその言葉に各国の大使や代行者はあからさまに嫌な顔をした。

 そしてティアナはそんな彼らに頭を下げた。



 「まあまあ、『雷龍の魔女』殿も連日の『女神の杖探索』でお疲れなのでしょう。ティアナ将軍ともどもしばし休息を取られればよろしいでしょう」


 「そうですな、わざわざホリゾン帝国に『無慈悲の魔女』は出向く必要もありませんしな。かの国ではエルハイミ殿は大いに恐れられておりますしな。あの『巨人戦争』でエルハイミ殿の名を知らぬ者はおりますまい」


 「全くですな。そのエルハイミ殿が連合軍に参席していただけるのはうれしい限りですが、連合軍自体がホリゾン帝国と事を荒立てる必要もありませぬしな」



 なっ!?

 どう言うつもり?

 ここに居る人たちは事なかれ主義なの?

 本当に取り返しがつかなくなってしまうと言う瀬戸際なのに!?




 「しかし本当にガレント内で捕らえられるのでしょうか?」


 

 今まで静かにしていた師匠がいきなり発言する。

 その声に各国の代表たちは注目するがすぐに口々に言い始める。


 「優秀な連合軍ですぞ? 問題無いでしょう」


 「それより学園長殿には学園内の問題を早急に対処願いたいものだ。聞けば『女神の杖』強奪の隙を与えたのは学園の関係者であったと聞きますぞ?」


 「それは本当ですかな? であればまずは学園内の問題解決に尽力していただかなければいけませんぞ?」



 ここでもやはり問題をなすりつけそれ以上の事を言わせないつもりだ。



 「現在学園内での安全を考慮して学園関係者の身元調査を行っております」



 マース教授の私物の中からジュメル信者のペンダントが出てきた。


 自分からジュメルの信者となる者はペンダント等の信仰者である証を身に着ける。

 または無理やり体に入れ墨を入れられジュメルの従事者であることを強要される、そう最下層信者として奴隷のように扱われるセレやミアムの様に‥‥‥



 「とにかく連合軍は早急にガレント王国内でその『女神の杖』強奪者を捕らえホリゾン帝国に戻る事を阻止してもらえばよろしいでしょう。その後は今まで通り巡視をしてジュメルを徐々に殲滅していけば事は終わる」


 「これでやっと安心出来ますな」


 「いやはや、『女神の杖』さえ取り戻せればジュメルの連中もこれ以上勝手に我が国で遺跡を徘徊する必要もなくなりますしな」


 「ははは、全くですな」



 ティアナは机の下であたしの手を強く握る。


 「ティアナ‥‥‥」



 緊急会議は最悪の状態で閉会した。


 指針はとにかくガレント王国内で連合軍が『女神の杖』強奪者を捕らえる事。

 将軍職であるティアナは当面休養する事。

 勿論その妻であるあたしも同様、連合軍で勝手に動かないで欲しいとの事だ。


 そして師匠もまずは学園内の問題解決と再発の防止を優先させられている。

 

 責任問題については今までの功績も有、特に言及は無かったものの事実上その役職の効力停止に近い。

 何時まで休養を取れとかそう言った話は全く無くそのままずっとおとなしくしていろ、つまりもう余計な仕事はするなと言う事だ。


 「ジュメルはまだまだ完全に殲滅できていないというのにですわ‥‥‥」




 閉会後あたしは悔しさにそうつぶやくもティアナはただあたしの手を強く握るだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る