第415話15-4ジルの村
15-4ジルの村
魔鉱石が思いの他採掘できているという朗報はあたしたちにとってうれしい誤算だった。
「お姉さま、概算出ました。これだけあれば十分に素体のメインフレームが組み立てられます。あとは教えてもらった『エルリウムγ』の精製方法で【創作魔法】をフル活用して行けば行けそうですよ!」
イオマは嬉々としながらチェックシートに記載していく。
「エルリウムγ」のおかげで初期想定よりも重量が十二パーセント軽くなり魔力伝達効率も三割増しで行えるとの事。
更に基礎フレームとしての強度が大幅に上がったおかげでかなり無理な動きも出来そうだという。
「問題はこれだけの量の魔鉱石をどうやって運ぶかですが」
「あら、それは問題ありませんわ。私たちの持っているこのポーチに入れれば十分に運び出せますわ」
ボルバさんの悩みにあたしは即答する。
あたしは自分のポーチをポンと叩く。
「ボルバさん、大丈夫だよ。エルハイミねーちゃんたちのポーチは『エルフの魔法の袋』と同じやつだからかなりの物が入れられるよ」
ジルはボルバさんにニコニコしながら言う。
ボルバさんは頭を掻きながら「それなら問題無いな」と言ってその後の採掘についてティアナに聞く。
「ティアナ様、そうするとまだまだこの鉱石は必要と言う事ですね?」
「ええ、そうなります。これが上手く行けば『ガーディアン計画』自体が進行するでしょう。自国防衛に加え連合軍での試作機運用の為には数体分の素材が必要になります」
ティアナはボルバさんに答えながらあたしを見る。
今回の素材確保が出来れば連合軍でも試作機を運用テストしたい。
そしてもう一つ問題も出てきた。
「ティアナ、やはりここは採掘場として秘匿しなければなりませんわね?」
あたしのその言葉にティアナは無言で頷く。
それもそのはず、希少鉱石の採取が出来る所などそうそう無い。
埋蔵量がどれだけあるか分からないけどここの鉱脈だっていつまで続くか分からない。
となればガレントとしては十分にそれを確保したいところだ。
「ジル、ここに居る鉱夫はどのくらいですか?」
「うーんと、確か三十人くらいだよ」
「今までの鉱石の運搬方法は?」
「あの崖の道を背負っていくか、谷下の道まで降ろして別口の人たちに運搬してもらうかのどちらかだね」
ティアナはここの現状をジルに確認する。
そして最後にここの周知度について聞く。
「ここはティナの町では知られているのですか?」
「いや、知ってるのはせいぜいゾナー様やエスティマ様、それと数人くらいだよ。まだここは開拓されて半年も経っていないし、もともと休憩の山小屋を作ろうとした時にたまたま近くで鉱石らしきものが見つかってこの中腹の広場に拠点を築いたのが始まりだしね」
そうすると秘匿することは十分にできると言う事だ。
「ジル、ここの事は今後が有ります。エスティマ兄さまには私からも進言します。ここの採掘場は秘密の場所となるでしょう」
「わかったよティアナねーちゃん。どちらにせよここはあの崖の道か谷下の道まで下りなければ往来は出来ないところだしね。ここは山の幸が有るおかげで自給自足も出来るし何とかやって行けるだろう」
ジルはそう言いながらボルバさんを見る。
ボルバさんはにかっと笑って「国の為になるならそれでいいだろう。ただたまにはうまい酒を飲ませてくれ」といって笑った。
うーん、ここの鉱夫の人たちには悪いけど今は仕方ない。
魔鉱石何て物が取れる場所自体滅多にないのだから。
と、あたしはせめてここでの生活が快適になる手伝いが出来ないかと思う。
「ジル、ここでの飲み水や住居の改善、わずかながらでも畑などの農作物育成は出来まして?」
「まだやった事は無いけど、どうだろう? みんな採掘が忙しいからそこまで考えた事が無いよ」
「でしたら私が手伝える事をしますわ!」
あたしはそう言ってまずはこの足場となる所をぐるりと確認し、敷地面積を増やすために近くの石を使ってロックゴーレムを作成し整地を始める。
向こうの崖側も土台を作りロックゴーレムで固めさせそのロックゴーレム自体を素材に土台を補強する。
ついでに居住区もロックゴーレムを使ってしっかりとした建物に作り替え貯水槽や上下水道、魔法を使えれば沸かせるお風呂なんかも作っておく。
仕事場も効率を上げる為に鉱石を【創作魔法】を使ってレールを作り出し、トロッコも作って運搬が楽になる様にしたり作業ヘルメットを作ってやってその頭に光りの魔法をかけるとヘッドライトの様になる様にしたり、つるはしも超高硬度圧縮金属にして丈夫なものにしたりと二日間をかけていろいろを変えていった。
* * * * *
「なあジルよ、ここってあの採掘場だよな‥‥‥」
「ボルバさん、間違いないよ」
シェルが花壇に水くれをしている様を見てボルバさんは呆然としたようだった。
「ジル、ここに植えた種は一年草だけど食べれる野菜になるわ。向こうに腐葉土づくりの場所もエルハイミに作ってもらったから生ごみが出たらそこに捨てて上からこの木の葉をかけておけばだんだんと腐って肥やしになるわ」
そう言って昨日近くの山で見つけてきた苗木とその葉をジルに見せる。
シェル曰く殺菌作用が強い葉っぱで傷薬にもなるそうだ。
それを花壇に植えている。
見渡せばここは既に小さな村が出来上がっていた。
広場は石畳にしてそこを中心に十数軒の家を建て、日当たりのよさそうな所は崖を切り開いて小さいながらも畑を作り、将来家畜も少しは飼えるようにそれ用の場所も作っておく。
畑はまだまだ痩せていてすぐには作物は作れないだろうけどシェルの腐葉土とかが徐々に肥やしになれば作物も作れるだろう。
崖側に小さな畑と酪農用地、居住区がと広場が有って村の一番奥に採掘置き場や器具置き場、そして鉱山の入り口が有る。
あたしたちが来た時の掘っ建て小屋数軒から見違えるほどのモノになった。
「もう何かを言う事自体が馬鹿らしくなるわね‥‥‥」
「お姉さまですもの」
「エルハイミ様、噂以上のお方だったな‥‥‥」
「そう? こんなのエルハイミねーちゃんたちなら日常茶飯事だったよ?」
イパネマさんは飽きれ、イオマはいつも通り。
そんな二人の横でボルバさんはため息をついていた。
ジルは新しく出来上がった村を見て満足そうだった。
「ジル、もしよければここはあなたが中心となって面倒を見てもらえますか? 当面ここの魔鉱石はガレントにとって最重要品となるでしょうから」
ティアナにそう言われてジルは瞳をぱちくりしている。
「ゾナー様たちに聞いてみないとなぁ」
「そこは私から話します。お願いできますか?」
「うーん、分かったよ、ティアナねーちゃんの頼みだもんな。魔鉱石の採掘は任せてくれ!」
ジルはそう言って大きくうなずく。
「そうなるとここはさしずめ『ジルの村』ですわね?」
「『ジルの村』‥‥‥ いいわね、ジル頑張りなさいよ!」
シェルにもそう言われジルは赤くなりながらももう一度大きくうなずくのだった。
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