第十五章

第412話15-1新型魔晶石核


 15-1新型魔晶石核



 「ティアナ‥‥‥」


 「エルハイミ‥‥‥」



 あたしは期待に瞳を潤ませながら愛しい人を待ちそっと瞳を閉じる。

 ティアナがあたしの両腕を押さえ引き寄せる。


 もともとティアナの方が背が高いのであたしはついっと唇を上に向けて待つ。


 今は二人っきりの時間。

 そしてここは我が家のあたしたちの部屋。


 シコちゃんはセレたちに預けたから邪魔者はいない。


 

 後はティアナがキスしてくれるのを待つだけ!





 ばんっ!


 

 「ほぇ?」


 あたしはいきなりの事に思わず変な声を出してしまう。

 そして音のした扉の方を見るとコクが立っていた。



 「お母様! 約束を忘れたとは言わせません! おっぱい二回いただきに来ました!!」



 「ちょ、ちょとぉ、コクっ、ですわぁっ!?」


 「エルハイミ、これは!?」


 どうやらコクはしっかりと約束を覚えていたようだ。

 そしてまさかのこのタイミングで乗り込んできた?


 「コ、コク、今好い所だったのですわよ!? あ、後ではだめですの??」


 焦るあたし。

 しかしコクはづかづかと近づいてきてあたしに抱き着く。


 「駄目です! もうお腹ペコペコです!! 赤お母様にばかりおっぱいあげてないで私にもください!!」


 「コ、コク、これはですね‥‥‥」


 ティアナはせっかくの所コクに邪魔されたが何とかあたしから引き離そうとしている。



 「駄目です! もう我慢できません!! そうだ、ついでだから赤お母様からもいただきましょう!! お覚悟!!」



 そう言ってコクはあたしとティアナをベッドに押し倒す。



 うそっ!?

 かなり強い力であたしたちは押し倒されたぁ?



 「さあ、いただきますよ!!」


 「コ、コクぅぅっ!!」


 「ほんとに二人とも魔力を吸われてしまうのですのぉっ!?」


 あたしたちの部屋に悲鳴が上がったのだった。


 

 * * * * *



 「で、一体何が有ったのよ?」


 シェルはあきれ顔であたしたちを見ている。

 げっそりしたあたしとティアナはみんなのいる食堂に来ていた。


 「い、一体どんなプレイをしたのですかエルハイミさん!?」


 「ティアナ様、何が有ったのです? そんなにお疲れのご様子で!?」


 『あー、二人とも大概にしなさいよね。いくら休養とは言え羽目外し過ぎ‥‥‥ って、何でコクがお肌テカテカなの?』



 あたしとティアナの間にいるコクはにこにこ顔でお肌テカテカになっている。



 「昨晩はとても美味しかったです。流石お母様と赤お母様。濃厚なだけでなく味わい深い魔力でした。お陰様で久々にお腹いっぱいになりました!」


 そう昨日は本当にあたしもティアナもコクに魔力を吸われたのだった。

 二人とも保有魔力のほとんどを吸われてしまった。



 しかしどう言う事だろう?

 今まではあたし一人分で満足していたはずなのに。



 「コク、昨日のあれは一体どう言う事ですの? ティアナの魔力まで吸い取ってしまうなんて。今までそこまで魔力を吸い取ったことは有りませんでしたわ」


 「お母様、出来れば赤竜の所に行く前に最低一回は脱皮をしたいのです。今のままの私では赤竜の足元にも及ばない。だから可能な限り魔力を吸ってこの体を成長させたいのです」



 は?

 成長って??



 「コ、コク、そろそろ脱皮しそうなのですの!?」


 「はい、その兆候が出て来ました。最近背中がムズムズしますので」



 そ、そうするとコクって今まで以上に魔力を必要とする訳?

 そ、そんなぁ!

 その都度あたしとティアナの魔力が吸い取られるの!? 


 

 「ああ、黒龍様が成長成される! 素晴らしいでいやがります!!」


 「うむ、我らにしてみれば真うれしい限りでありますな。黒龍様のご成長は」


 コクの給仕をするクロエさんやクロさんは大喜びでいる。


 「子供は沢山食べて成長するものだ。コクも早く大きく成れるといいな」


 ショーゴさんにそう言われたコクは大きく頷きこう言う。


 「はい、だからお母様、またおっぱいくださいね!」


 満面の笑みそう言うのだった。



 * * * * * 



 「シェルねーちゃん、今日イオマねーちゃんが来るって聞いてたんだけど、いつ来るんだ?」


 「さあね、あたしも詳しくは知らないわよ。それよりジル、弓の引きが甘い!」


 シェルとジルは庭先で弓の稽古をしている。

 ジルは人間としてはかなりの弓の腕前だがエルフのシェルにしてみればまだまだらしい。

 

 「矢を放つまでは息を止める事! そうしないと放つ瞬間にぶれるのよ。放つと同時に息を吐く。気合と共に矢を押し出す気持ちでね」


 シェルの指導の下ジルは的となっている小さなリンゴを射抜く。



 すこーんっ!



 「すごいですわね、あんな小さな的に当てられるなんてですわ」


 「まだまだだめね。豆二つ分もずれた。確実に当てられれば狩られる動物も一瞬で絶命して痛みを感じないわ。そこまで出来無ければ彼らが可哀そうよ。だから狩人は命をつむぐ代償として可能な限り彼らを一瞬で葬らなければだめよ」


 シェルのその言葉にジルは苦笑する。


 自然の摂理は弱肉強食。

 森の守護者と言われるエルフだって多少は肉を食べる。

 だからエルフたちは必要最低限の狩はするけどその命の代償として最高の技で動物たちを仕留めるというのだ。


 


 「相変わらずのようですね?」



 声の聞こえた方を見るとアンナさんがルイズちゃんを抱いて立っていた。


 「お姉さまっ! 会いたかったぁっ!」


 そう言ってアンナさんの後ろから出てきたイオマはあたしに抱き着く。


 「うわっきゃぁっ! イオマ、いきなり抱き着いては危ないですわ」


 「へへへっ、だって久しぶりのお姉さまなんですもの。すんすん? あれなんかコクちゃんの匂いがする?」



 どきっ!?

 イオマ、あなたは犬か!?



 昨日はティアナとこれからと言う所で邪魔が入りコクにあたしもティアナも魔力をそれはそれは盛大に吸われた。

 コクの話ではもうじき脱皮しそうだから魔力が沢山ほしいらしい。

 分からないではないがもう少しタイミングを考えて欲しいものだ。



 「イオマ来たの? って、ずるい! エルハイミに抱き着いてる!! あたしもっ!」


 「うわきゃっ! こらっシェル! あなたまで抱き着かないっ、ですわっ!!」



 きゃっきゃっ



 「相変わらずですねエルハイミちゃん。殿下は?」


 「ティアナは今執務室ですわ。ゾナーと話が有るとかで」


 実は前回戻って来た時にゾナーからホリゾンに密偵を忍ばせこむことに成功したことを聞いていた。

 そしてティアナは近況のホリゾン帝国の状況を聞いていた。

 勿論ガレント本国のアコード陛下の耳には入っているだろうが密偵の話はわずかな者しか知らない。

 ゾナーとしてはここティナの町が最前線だ、可能な限り相手の動向は掴んでおきたい。



 「ところでお姉さま、これ見てください! やっと出来ましたよ百連結型の新型魔晶石核!!」


 イオマは懐からあの『丁』の字型の新型魔晶石核を取り出した。

 そしてあたしは驚く。

 その存在感が半端ではないからだ。


 「イオマ、これってすごいですわね? 何と言うか、ものすごい魔力の本流を感じますわ」


 「やはりエルハイミちゃんだとそうですか‥‥‥」


 アンナさんがそう言う。

 あたしはアンナさんを見て首をかしげる。


 「どう言う事ですの?」


 「この新型魔晶石核は優秀ではあるのですが並の魔術師では到底取り扱えるものでは無くなってしまったのです。親和性がものすごく高いかエルハイミちゃんの様に高レベルの魔導士でなければならないのです」


 「つまり適合者で無いと動かせないって事なんですよ」


 アンナさんの説明にイオマが付け足す。

 どうやらせっかくの新型魔晶石核でもいろいろと問題が有るようだ。



 「まずは殿下にもお話をしましょう。エルハイミちゃん、殿下に会わせてください」





 アンナさんにそう言われあたしたちはティアナのいる執務室に向かうのだった。

  

 

  

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