第411話14-36我が家

 14-36我が家

 

 

 あたしたちはボヘーミャに戻りサフェリナでの事を師匠に報告していた。



 「そうですか、ジュメルが『女神の杖』を‥‥‥」


 「師匠、我々もガルザイルに戻りすぐにでも残りの『女神の杖』回収に向かいたいと思います」


 ティアナは師匠にそう言うが師匠はコクを見る。


 「黒龍、赤竜はあなたと同じ太古の竜と聞きます。その実力は伝説の中に有る通りなのでしょうか?」


 「異界の者、ユカ・コバヤシよ。あの者は我と同じ力を持つ者。伝説の話は知らぬが並大抵の事では奴は倒せぬ。たとえジュメルであってもそれは同じだろう」



 赤竜。


 伝説の中では「女神戦争」で黒龍と共に女神を焼き殺したと言われている存在。

 ガレント王国とミハイン王国の間に有る活火山が住処とされている。

 

 黒龍とは違い性格は荒く人の言葉が分かるくせして残虐を好む。


 そして縄張り意識が強く勝手に赤竜の狩場に入ると有無を言わさず攻撃を食らうらしい。

 しかし狩場を出ると追っては来ないので人の通る道が今ではその狩場の領域を判断する物差しになっているとか。



 「師匠、それでも私たちはジュメルの企みを阻止しなければなりません。我々『女神の杖探索隊』は赤竜のもとへ行こうと思います」


 ティアナはそう言って師匠が出してくれた茶を一気に飲む。



 ことっ



 ティアナが置いた湯の意の音が響く。

 すると師匠は今度はあたしを見る。



 「エルハイミ、あなたはアガシタ様に会いそしてその力を扱えるようになったのですか?」



 仮面に隠れているけど師匠はじっとあたしを見る。

 多分、師匠は気づいているだろう。


 

 「正直な話、まだまだ完璧に使いこなせていませんわ。これはみんなにも聞いて欲しいのですが、あの力を使っている時の私は今の私ではありませんの。もう一人の私ですわ」



 「はぁ? エルハイミじゃないエルハイミって事? 何それ?」


 「やはりそうでしたか、お母様とは違う雰囲気の理由は」


 「おっかないエルハイミって事?」


 「エルハイミ?」


 シェルは全く気付いていなかったようだけど流石にコクは分かっているみたいだ。

 マリアの言う通りあのあたしはおっかない。

 ティアナはあのあたしと会話しているけど普段の口調とは全く違うしティアナに対する態度も違う。



 あたしの意思が強く無ければもう一人のあたしが好き勝手やってしまう状況だ。



 「現状あの私になって私の意思で押さえられるのは最大で三十分と見ていますわ。それにその間少しでも気を許すともう一人の私にすべて飲み込まれ何をするか分かりませんわ。意識は有ります。しかし自分を制御できなくなる恐れが有るのですわ」


 あたしのその言葉にみんな驚きを示す。



 「やはり人の手に余る力はそうそう簡単には御せませんね。エルハイミ、あなた自身はそのあなたを克服できるのですか?」


 「私の魂の幾つもある枷が外れれば多分‥‥‥ しかしどうやって外していくかは私の成長次第だとアガシタ様は言っていましたわ」



 何度もあの力を使ってあたし自身が強くならなければならない。

 もう一人のあたしに飲み込まれない様に。



 「ふむ、しかし主の事だ、きっと乗り越えられるのだろう?」


 「エルハイミさんの力の理由ってそうだったのね‥‥‥ しかも女神アガシタ様とまで会っていた何て‥‥‥」


 ショーゴさんは腕を組んで壁に寄りかかったままそう言う。



 なんかプレッシャーかかるなぁ~。



 イパネマさんにはあたしの秘密の一端を今回話したけど流石に驚いている。

 あっちで難しい顔しているアラージュさんは既に頭の上にクエスチョンマークを沢山浮かばせていながら事有るごとにカーミラさんに聞いている。


 今回珍しくセレとミアムは何も言わず大人しくティアナの後ろに控えてる?




 こぽこぽこぽ‥‥‥



 師匠が急須でお茶を注いでくれる。




 「ティアナ、まずはこれでも飲みなさい。そしてエルハイミと一度ティナの町に戻りなさい。そこで少し休んだ方が良いですね」




 「はぃ?」


 「師匠、それはどう言う事ですか?」


 師匠は入れ終わったお茶を飲みながら一息つく。

 そしておもむろに話し始めた。


 「今までの事であなたたちの焦りは理解します。しかしレイムのおかげでヨハネス神父は今動けないとの話。黒龍の話でも赤竜は一筋縄ではいかないでしょう。『海底神殿』の件から見ても赤竜を圧倒する力が無ければジュメルもそうそう動きはしないでしょう」



 そこまで言って一旦お茶を飲む。



 そしてあたしとティアナを見てほほ笑む様に言う。


 「急がば回れ、ひと時の休息を入れる事も重要です。今のあなたたちには休息が必要でしょう?」


 確かにあたしはティアナに再会してからと言うものいろいろと忙しかった。

 せっかくの挨拶回りもなんだかんだ言って行く所々でいろいろ有った。



 次の「女神の杖」を回収するには赤竜を何とかするしかない。



 ここで一旦休息を入れて考えをまとめるのも良いかもしれない。

 それにティナの町郊外の村も見終わっていない。


 「師匠‥‥‥」


 「物事は性急すぎても良い結果が出ない時が有ります。少しばかり休んで頭を冷やすことも必要でしょう? ティアナ、あなたはもう少し周りをよく見た方が良いでしょう」


 師匠にそう言われティアナははっとしたように周りを見る。


 周りを見ればセレやミアム、アラージュさんやカーミラさん、イパネマさんはだいぶ疲れがたまっている様だ。   

 あたしやティアナ、シェルやショーゴさんにコク、クロさんクロエさんを基準に考えてはいけない。

 師匠はそれを言っているのだろう。


 

 「急がば回れ‥‥‥ その言葉どういう意味があるのでしょうか、師匠?」


 「事を成すには遠回りでも時間をかけてでもじっくりと取り組みなさいと言う事です。赤竜は強い。今までのようには行きませんよ」


 師匠にそう言われたティアナは大きく息を吐く。



 「わかりました。師匠の言う通りかもしれません。ガルザイルに戻り報告の後一旦ティナの町で休養を取りましょう」



 そう言って立ち上がり師匠に頭を下げる。

 

 師匠は何も言わずお茶をすすっている。

 あたしたちはティアナに続いて部屋を出て行ったのだった。



 * * * * *



 「イオマも元気そうで何よりでしたね、お母様」


 「ええ、そうですわね。そう言えばアンナさんの所でもうじき新型魔晶石核試作機が出来上がりティナの町に持ってきて稼働実験が出来ますわ。イオマも来るとの話ですしね。あとはここで第一軍から第三軍までの予定を組めば終わりですわね」


 あたしたちはガルザイルに戻り郊外の連合軍駐屯所にいる。

 第三軍も順調に訓練が終わり編成の改定も終わっていつでも動ける。


 国内を巡視していた第一軍や第二軍も既に帰還済み。

 途中小規模のジュメルのアジトを壊滅させたそうだ。


 ティアナは連合軍の各幹部を呼び指示を出す。



 「ご苦労様です、ルジェイド、ガラ、ルノマン。 さてこれより連合軍は各国の巡視に入ります。すでに連合参加国には連絡を入れてあります。第一軍から第三軍は分散をして巡視を開始します」


 

 そう言ってカーミラさんを呼ぶ。


 「カーミラ、予定表をここへ。それとアラージュ、各国への親書は?」


 「ティアナ将軍、こちらに」


 「こちらも準備が整っています」


 カーミラさんとアラージュさんはティアナに言われた予定表と親書を持ってきた。

 そしてティアナは各幹部にその予定表と親書を渡す。


 それらを受領した各幹部はティアナの前に整列して左胸に右手を当て一斉にこう言う。

 


 「「「「「世界平和の為我が心臓を差し出す!」」」」」



 びしっと誓いの言葉を言ってみんなティアナ将軍を見る。

 ティアナも同じく左胸に手を当て言う。



 「ジュメルを滅ぼす為我が心臓を差し出す!」


 こうして連合軍の各国巡視が始まったのだった。



 * * * * *



 「ふう、やっと着きましたわ。こちらは変わりありませんの?」


 「ああ、主たちが慌てて出て行った後は何も変わらんよ」


 ゾナーはそう言ってあたしたちを出迎えてくれた。



 あれ?

 そう言えばエスティマ様の姿が見えない?

 あたしがティアナのモノになったのでへそでも曲げているのかな?



 「ゾナー、兄様はどうしました?」


 「エスティマ様は用事でコルニャに行かれている。アテンザ様と話が有るとかでな」


 そう言ってゾナーはニヤリと笑った。


 エスティマ様の嫌そうな顔が思い出される。



 「しかし兄様が直接出向くとは?」


 「ああ、何せ仕入れるものが多い。今現在この辺で物流が盛んなのはコルニャ位だからな。アンナ殿の『ガーディアン計画』に必要な部材の買い入れが難儀でな。試作機を早急に組み上げなければならない。当然ガルザイルからの物資を待っているのでは間に合わないのさ」



 そうかぁ、機体の生産は直接こちらでするのか。

 確かにそんなでかいモノはボヘーミャじゃ組み立てられないもんなぁ。


 

 「わかりました。ゾナー、しばらく世話になりますよ」


 「他人行事だな。ここは主の家だぞ? 気兼ねする必要はない。いつでも好きに使ってくれればいいさ」





 ゾナーのその言葉にあたしは自分の家、我が家に戻って来たのだと実感するのだった。

   

 

 

 

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