第378話14-3迷宮で
14-3迷宮で
「【明かり】よ!」
あたしは『空から落ちた王宮』が迷路になり始めている内部で【明かり】の魔法を使って照らし出した。
『ああ、やっぱり何がどうなっているか全くわからないわね? あたしが知っている事は全く役に立ちそうにはないわね? もっとも、あの時はこの王宮が出来上がったばかりだったけどね』
シコちゃんはそう言ってため息をついている。
迷路のようになっているこの通路はかろうじて柱が上の瓦礫を押さえて通路の様になっている。
もしこんな所で大騒ぎしたら天井が崩れてくるのではないだろうか?
「とにかくまずはこの最深部に有ると言われている宝物庫を目指します。魔法王ガーベルの話では王宮の中心部、宝物庫は空から落ちたくらいでは壊れる事は無いそうです。そしてその真下辺りに地下迷宮の入り口となる場所が有るだろうとの話。そこまで行ったらシェルの出番ですよ?」
ティアナはそう言ってこの迷路を歩き始める。
「うーん、確かに土の精霊力は感じるから大丈夫でしょうけど、エルハイミに魔力もらわないとそんなに深く掘れないわよ?」
「勿論魔力供給しますわ。だから頑張ってもらわないとですわ」
「エ、エルハイミに入れてもらえる‥‥‥ あの熱くて濃いやつがあたしの奥にどくどくと‥‥‥(ぽッ)」
おいこらシェル!
言い方っ!!
あたしが慌てているとティアナはすまし顔で「魔力の話ですよね?」と言ってくる。
「も、勿論魔力の話ですわ! 魔力以外何もありませんわっ!!」
焦るあたしにティアナは「分かってます」とだけ言って更に奥に進んで行く。
‥‥‥本当に分かっているのだろうか?
「でも外に待たせた皆さん本当に大丈夫でしょうか? セレさんやミアムさんも心配ですね、お姉さま?」
「いえ、いっそそのまま‥‥‥ では無くて、イパネマさんもいる事だし大丈夫でしょうですわ。イオマも先ほどのイパネマさんの攻撃魔法見たでしょう?」
そう、先ほどこの「空から落ちた王宮」の中に入る前に拠点となる場所を入り口付近に作った。
しかし設営の途中で今度はロックキャピタラーの群れが襲ってきたのであたしが悲鳴をあげながら【炎の矢】で燃やしていると別の所から別のロックキャピタラーが襲ってきた。
しかしそれをイパネマさんは同じく【炎の矢】を一気に数十本出して迎撃した、しかも一人で。
それはイオマと同等かそれ以上。
アンナさんに届かないくらいの力量とあたしは見ている。
もっとも、アンナさんはその後に心眼なんて反則技が有るけどね。
そんな訳でティアナの見越した通りイパネマさんがいればその人たちは大丈夫だろう。
最悪はアイミがいるし。
アイミは耳をぴこぴこして一緒に来たがっていたけど流石に迷宮の様な狭い所には入れない。
なのでティアナにも言われてイパネマさんと一緒にセレやミアムを守るように言われている。
耳をだらーんとしてうなだれる巨大なアイミが可愛いと思ってしまったのはここだけの話だ。
「ふむ、黒龍様、主様お下がりください。虫共が来たようです。クロエ、壁は壊すな、天井が崩れる」
そう言ってクロさんはずいっと前に出る。
「虫なんて面倒でいやがりますね? ショーゴも手伝えでいやがれです!」
「分かっている。主よ、ティアナ将軍よ下がってくれ。雑魚は俺たちが片付ける!」
ショーゴさんがそう言った途端瓦礫の隙間から蜘蛛たちがわらわらと現れた。
「うわっ! パラライズスパイダーじゃないですか! 面倒な!!」
イオマがそう言って嫌そうに【防御魔法】を唱える。
パラライズスパイダー、名前の通り毒を持ちその糸に絡められるとしびれて動けなくなる。
それほど強い魔物ではなのだけど問題はその数と糸の面倒さが有る。
あたしがそう思っていると前衛の蜘蛛たちが一斉に糸を吐きだした。
しかし事前にイオマが張っていた【防御魔法】にその糸は阻止されショーゴさんが切り込む。
前衛を切り払ったらバックステップですぐに戻ってくるとクロさんがドラゴンブレスを吐き出した。
「【絶対防壁】!」
あたしはすぐにあたしたちの周りにドーム状の【絶対防壁】を展開する。
案の定、クロさんのドラゴンブレスはパラライズスパイダーたちを燃やすがついでにその糸も焼き払う。
が、いつの間にかあたしたちの周りに貼っていた蜘蛛の糸にも引火して回り全体が燃える。
「なにこれ? いつの間に周りに糸を張っていたのよ?」
「パラライズスパイダーのいやらしい所ですわ。弱い割に相手をじわりじわりと捉えるのには長けていますもの」
そう、こいつらは弱いくせにねちねちとこういった技を使って数で押して来る。
しかし今回は相手が悪かった。
こちらには竜の化身や炎の上級精霊さえ従える者たちがいる。
流石にドラゴンブレスを食らって半分くらいを焼き払ったらこの蜘蛛たちは慌てて逃げて行った。
「終わりましたね? 先に進みましょう」
ティアナは平然とそう言って先に進み始めている。
あたしたちはティアナに続いて先へ行くのだった。
* * *
「ありゃ? 分かれ道?」
しばらく歩いていくと細くなった道と並んで歩いても問題が無いくらい大きな道へとの分かれ道が有った。
シェルは分かれ道まで先に行って様子をうかがう。
エルフは森で生活していたために夜目もよく効く。
ほとんど暗闇でも見渡せる特性が有るのでこう言う時はシェルが先に様子を見に行くのだ。
「うーん、両方とも先になんかありそうね? あ、細い道の先には何かうずくまっている。 太い方は‥‥‥ あれたぶんゴーレムか何かじゃない?」
どうやら細い方は魔物か何かっぽい。
そして太い道はゴーレムがいるとするとそちらが宝物庫っぽい気がする。
「では道の太い方を進みましょう。みんな気を付けて」
ティアナがそう言って太い方の道へ進み始める。
その後をあたしたちはぞろぞろとついて行くけどシェルだけは分岐点でしばらく立ち止まっている。
「どうしたのですわ? シェル?」
「うーん、細い道の方のあのうずくまっているのって何なのか気になったのよ。ま、いっか。いこ」
そう言ってあたしと一緒にゴーレムであろう物体の方に行く。
「ふむ、やっと少しは手応えのある者がいたか。ミスリルゴーレムのようだな」
クロさんはそう言ってあたしたちの前にたたずんでいるゴーレムを見る。
これだけ長い間に表面の汚れ一つ無い銀色のボディーはこの空間で異様さを感じる。
そしてそれは特殊な素材で作り上げられたクリーチャーであることを物語っている。
「たまには私が相手しますでいやがります。黒龍様は下がってくださいです」
クロエさんはそう言って腕をぶんぶん回しながら前に出る。
まあクロエさんなら問題無いだろう。
クロエさんに接近にゴーレムが反応して動き出す。
そして当たり前かの様にクロエさんにその拳を叩きつけた!
「っと、こんなもんでいやがりますか?」
しかしクロエさんはその拳を魔力のこもった腕ではじき直撃をかわす。
「やはりゴーレム、芸が無いでいやがります」
そう言って右手をゴーレムに突き刺しコアを握りつぶす。
とたんにミスリルゴーレムの瞳の輝きが消えその場に膝をつく。
「こんなのでは肩慣らしにもならないでいやがります」
そう言ってクロエさんはこちらに戻ってくる。
まあ、予測通りなので誰も驚かない。
『汝見事なり。守護者を葬るやその力量に免じ我が問いに答える事を許そう』
いきなり聞こえた来た声はゴーレムの後ろとあたしたちの後ろ、両方から聞こえてきた。
「あー、やっぱりそうか。あたしたちの様子見てた感じだもんねぇ」
シェルはポリポリと頭を掻きながら弓を引っ張り出した。
そして対峙するその先にはライオンに人の顔がついたスフィンクスだった。
「お姉さま、ミスリルゴーレムの後ろ、スフィンクスです!!」
見れば倒れたミスリルゴーレムを乗り越えこちらからもスフィンクスが来ていた。
『さあ、我が問いに答えよ、答えられねばこの先の扉は開かぬ』
何がうれしいのかスフィンクスは嬉しそうに笑いながらそう言ってくる。
どうやら宝物庫の守護者のようだ。
「スフィンクスですか? 我らはこの先に用事が有ります。道を開けなさい」
ティアナにそう言われたスフィンクスはにたりと笑ってこう言い始めた。
『ならば我が問いに答えよ。朝に四本昼に二本そして夜に三本の足になるものは何であるか答えよ』
えーと、これって「人間」で良かったのよね?
意外と有名な問題を普通にしてくるのね。
「お母様、この質問の答えは『人間』ではありません。この答こそかのデイメルモ様の『至高の拷問』中上位の攻め、『嵐の騎馬』に違いないのですっ!」
いや、コク、それは無いって‥‥‥
両腕を組んでドヤ顔でふんすと鼻息荒く言い張る幼女コクにあたしは思わず突っ込みを入れた。
「コク流石にそれは無いでしょうですわ‥‥‥」
『な、なんとっ! デイメルモ様が編み出した『嵐の騎馬』を知るものがおったのか!? くっ、我に負けだ。お、おのれぇ‥‥‥』
いやいやいやっ!
なにそれっ!?
答え「人間」じゃないの!?
「流石黒龍様でございます。このクロ感服いたしました」
「黒龍様、ステキです!」
クロさんもクロエさんもコクの周りでコクを絶賛している。
「何あれ? コクの知っているものだったの? 『嵐の騎馬』って何?」
シェルはあたしに聞いてくるけどあたしだって知らないわよ!
と言うか、知りたいなんて言ったら実践されそうで嫌なんですけど‥‥‥
「お姉さま、その『嵐の騎馬』って何なのでしょうね? 気になります」
「イオマはやってみたいのですか? 少々刺激が強いですよ? こちらの世界に戻ってこれるかどうか。したいのならベルトバッツを呼びますが?」
「いやいやいやっ、やめなさいですわコクっ! そんな事しなくていいですわ!!」
何それこわっ!
しかもベルトバッツさんだったらウッドゴーレムの体を手に入れてから更に疲れ知らずだからとんでもない事になっちゃいそうよ!?
確かに気にはなるけど今はそっと触れないで先に行かなきゃ。
あたしがそう思った時だった。
『ふむ、この問いに答えられるとはな。では次は我が問いぞ! 全てを終わりにする滅びの言葉とは何ぞや?』
えー?
もうこの王宮落っこちてるよ?
いまさらそんなの言っても影響ないだろうけど、きっとあの有名な言葉だよね?
「まさかここであの女神最大の攻め『至高の拷問』の力ある言葉を!? それは正しく【進撃の巨〇】ですねっ!?」
『な、何とぉっ! 貴様何者だ!? その言葉を知っておるとはぁ!! あ、しまったぁ!! 魔法が発動したぁっ!! やめてよして、やめてよしてぇ!! そこはいれちゃダメなのぉっ!!』
コクが力ある言葉を発した途端スフィンクスの周りに触手が群れだしてスフィンクスを飲み込む。
うわぁーっ!!
それはそれはモザイク無しでは見せられない状況でスフィンクスは滅びに向かってしまっている。
あたしは思わずコクの目を手でおおう。
「コクにはまだ早いですわ! 見ちゃだめですわ!!」
「うわーっ、お姉さまあんなところにも!」
「す、すごいわね‥‥‥」
「ああっ! 主様あれでいやがります、あれを私のおしりに‥‥‥」
こらこらこらっ!
あんたたちもそんなもの何時までも見てないで次行くわよ!!
『全く、ガーベルの趣味だわね‥‥‥』
シコちゃんは飽きれてそう言う。
それと同時に向こうの方で扉が開く音がした。
「ど、どうやら宝物庫の扉が開いたようですね‥‥‥ 先を急ぎましょう」
ティアナにそう言われあたしはコクの目を押さえたまま急いで宝物庫へ向かうのだった。
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