第376話14-1ガルザイルの地下迷宮

 14-1ガルザイルの地下迷宮


 

 「師匠、それでは行ってまいります」



 あたしたちは見送りの師匠にそう言って首都ガルザイルに飛ぶ。


 「あなたたちの事ですから問題は無いと思います。しかし慢心は心に隙を作ります。十分に注意なさい」


 「はい、わかりましたわ。それでは行ってまいりますわ」


 あたしはそう言ってゲートを起動させる。

 そして一瞬で首都ガルザイルに着くのであった。



 * * * * *



 「まずは陛下に挨拶と報告をします。それから建設中の駐屯地施設を確認してバックアップの人員を選考します」


 「ティアナ将軍、私は今回バックアップなの? 私は冒険者の経験もあるから迷宮とかも大丈夫なのだけど?」


 イパネマさんはティアナにそう言って憂鬱そうな表情をする。

 それは大人の女性でティアナの凛々しい雰囲気の相対、甘くつややかなしっとりとした色香が漂っている。


 「ファイナス市長の推薦です。あなたの実力を疑うわけではありませんが今回のバックアップも重要なのです。むしろあなたのような方にバックアップ部隊を守ってもらいたいくらいです。『中央都市』の『空から落ちた王宮』はそれほど危険な場所なのです」


 ティアナはセレとミアムを見ながらそう言う。

 それはティアナなりの二人への気遣いなのだろう。


 

 ……

 ちょっと妬けるけど仕方ない。

 あの二人の戦闘力なんて護身すら危ういレベルだし、それに魔法だってほとんど使えない。



 ただあの二人の秘書としての能力はあたしも評価する。

 ティアナの為とは言えほぼほぼ完ぺきに予定を組み資料を作成し、根回しをし、そして報告書も一目で見てわかるようにまとめ上げている。


 今まであたしたちの周りにはいない人材だ。

 ティナの町ではそれをあたしがやっていたけど正直その辺お仕事ぶりはあたし以上だ。



 「仕方ないわね。わかりました。今回はティアナ将軍のかわいい子猫ちゃんたちを守ってあげますわ」


 そう言ってイパネマさんはセレとミアムの顎に軽く指を這わせ「ちゅっ」っと離れた所でキスする音を立てる。



 「「!?」」



 セレとミアムは逆毛で慌ててティアナの後ろに飛び退く。



 「イ、イパネマさん! そう言う冗談はやめてください!」


 「そうです! 私たちはティアナ様以外に興味はないんですから!!」



 「あら、残念。私は女の子たちが好きなのだけどね? 大丈夫、手は出さないわよ? 安心してね♪」



 いや、イパネマさんにそんなことされたら普通の女の子でも落ちちゃうんじゃないかな?


 改めて見るイパネマさんは女であるあたしが見てもとても女性としての魅力に満ちていた。

 紫のつややかな長い髪、色白なのにほんのりと上気したような肌、肉厚の唇は生前写真で見た事のあるマリリン・モンローのようでものすごい色香を発している。


 もしあたしにティアナがいなかったらイパネマさんに食べられちゃっていたかもしれない。


 それほどこの女性は魅力的なのだ。



 「エ~ル~ハ~イぃ~ミ~っ!」


 「お姉さまっ!」


 「お母様? また悪い病気ですか?」



 あたしがイパネマさんを見ているとシェルやイオマ、コクがあたしにつっかかかって来る。


 『ほんとエルハイミも女が好きよね? あんた男には興味ないの?』


 『シコちゃん! なんで私が男なんかに興味を持つのですの!? 私にはティアナがいますわ! それに奇麗な人を見るのは別にいいじゃないのですの?』


 最後にシコちゃんにまで念話で突っ込みを入れられる。

 


 ほんとだよ?

 あたしはティアナだけがいればいいんだよ?

 確かに奇麗な人やかわいい子は見ちゃうよ?

 でも手なんか出さないし、見るだけで‥‥‥ そ、そりゃぁちょっとは妄想するけど、それだけだよ!?



 「ま、まあそう言う事ですからイパネマさんには今回バックアップの方をお願いします」


 ティアナはそう言って陛下に挨拶に行きますと言いながらあたしの腕を取って歩き出す。

 そして歩きながら小声でこういう。



 「駄目よ、エルハイミは私のなんだから!」


 「はえっ? ティアナ??」



 しかしその顔はいつも通りの将軍の顔に戻っていた。



 * * * * *



 陛下に挨拶も終わり例の連合会談の話もおおむね理解を得られた。


 そしてあとで陛下個人にご先祖様、魔法王ガーベルの帰還を告げた。

 勿論大いに驚かれたが既にマザーライムの事も有りガレントに来られる折は盛大にもてなさなければならないとか言っていた。


 あたしはつくづく思う、あたしたちのいない時にご先祖様は来てもらいたいものだと。

 どうせ連ちゃんで宴会続きになるのだろうから‥‥‥


 * * * 


 さて、そんな事を思いながら馬車で揺られる事半日くらいの所に今建設中の連合軍駐屯所が建設されていた。



 「あれ? 何あれ闘技場?」


 シェルが馬車の上からそう言ってくる。

 つられて窓からそれを見ると確かに楕円形の闘技場の様になっている。


 「周りには宿舎や事務所、それに馬宿もあります。闘技場は訓練や連合軍のセレモニーをする時に来賓と観客を入れられるようになっています」


 ティアナはミアムからもらった進捗状況についての資料を見ている。

 

 「ずいぶんとお金をかけていますね? よく各国がこんなのを認めましたね?」


 イオマはふえぇ~とか言いながら近づく闘技場を見ている。


 「この施設は全てガレントの出資です。ここで連合軍は鍛えますからね」


 無表情のティアナはその時一瞬だけ口元に笑いを見せる。



 って、怖いんですけど、ティアナ!


 もしかして師匠仕込みの訓練?

 あれって相当きついよ?



 「それに剣聖ロクドナル殿にも協力をお願いしています。ですので心眼が開けなくても相応の実力はつけます」



 あー。

 連合軍の皆さんご愁傷様です。

 あたしは思わず手を合わせ合掌するのだった。


 

 * * *



 「これはこれは殿下、いや、ティアナ将軍。今日こちらに到着でしたかな?」


 「ロクドナル卿、ご苦労様です。どうですか皆の様子は?」


 あたしたちはさっそく闘技場に入ってみる。

 ここは既に完成していて連合軍の兵士たちがロクドナルさんの指導の下訓練を受けている。



 「流石に師匠仕込みの訓練は慣れないのでしょうな、皆魔力切れでこの有様です」



 見ればすでに死屍累々。

 魔法使いの人たちが回復魔法をかけまわっている。


 しかしそれでも気絶している人がいる所を見ると魔力切れを起こしているのだろう。

 そんな人の所へは救護班がマジックポーションを持って行って飲ませている。



 あー、あれオレンジ味のやつだ。

 申し訳程度の回復でほんのちょびっと魔力回復するやつだ。

 懐かしい。



 「しかし、この有様ではまだまだですね? これは第何軍ですか?」


 「すべて第一軍です」



 するとティアナは将軍モードにもかかわらずため息をつく。



 「そうなるとまだまだ鍛えなければいけませんね? 今まで魔道具に助けられ胡坐をかいていたようです。かまいません、そのまま続けてください」


 「御意」



 あー、これは当分皆さん生傷だけじゃすまないかな?

 仕方ないのであたしはここにいる人全員に一気に【回復魔法】をかける。

 そしてちょっと匂うので【浄化魔法】もついでにかける。



 「!?」



 ん?

 なんかイパネマさんが驚いている?



 「エ、エルハイミさん、今の【回復魔法】と【浄化魔法】ね? すごい、こんなにたくさんの人に一度に魔法をかけられるなんて!」



 「すごいでしょう! お姉さまですもの!!」


 「あー、そう言えば凄いんだっけ? いつもの事なんですっかり忘れてたわ」


 「お母様は我々竜族の魔力量をも超えますからね! そう言えば赤お母様も相当でしたね? 人間にしては一体どうなっているのやら?」



 イオマやシェル、コクもそんな事言っているけど、確かにあたしにしてみれば些細な事ではある。

 ティアナはあたしを見てふっと笑ってくれる。


 「いつもは私がしていますが、エルハイミがいると助かります。ありがとう」

 

 「妻としての役目ですわ。ティアナはもっと私に頼っていいのですのよ?」


 ティアナはそう言うあたしに「ありがとう」とだけ言ってロクドナルさん含め数人の幹部を呼び集める。

 そして今後についての方針を話し始めた。




 『しかし、人間て不思議よね? 鍛えれば鍛えただけ強く成れるんだから? あたしたちには理解できない領域が有るのねぇ』



 シコちゃんはティアナたちが話している間にあたしにそう語りかけてくる。



 あたしはふと思う。


 この世界の人間は女神と同じく「始祖なる巨人」の肉体から出来ている。

 だからその能力は鍛えれば鍛えただけ増すのではないだろうか?


 現にあたしやティアナの魔力量はシコちゃんの話ではご先祖様、魔法王ガーベルをも超えているらしい。


 それに英雄の魂を持たないアンナさんやロクドナルさん、ドゥーハンさんだって心眼を使えば一時的には英雄に匹敵する力がつかえる。



 それはその昔絵本で読んでもらった一撃で竜を切り裂き、常人ではありえない身体能力を発揮し、魔法だって超極大魔法を扱える。  


  

 ほんとこの世界の人間ってすごいのかもしれない。



 『なんかこのまま成長したら女神の領域に届くかもしれないわね? アガシタ様も昔そんな事言てたわね‥‥‥』


 『え?』


 シコちゃんがとんでもない事言う。

 しかしシコちゃんは頭を振る雰囲気で付け加える。


 『成長が出来たとしても寿命が追い付かないか。 でもエルハイミ、貴女なら‥‥‥』


 『まさかですわ。シコちゃん私は女神様なんかに成りたいわけではないのですわよ? ただティアナの横にずっと一緒にいたいだけですわ』


 『ま、貴女らしいわね』


 シコちゃんはそのまま黙ってしまった。

 そして話が終わったティアナがあたしたちに宿舎を見回ると言ってついて来るように言う。



 ガルザイルの地下迷宮に有ると言われる『女神の杖』。

 なんとしてもそれも手に入れなければならない。




 あたしは先行くティアナの姿を見ながらそう思うのだった。


  

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