第361話13-18知らせ

 13-18知らせ



 あたしたちは今ティナの町の冒険者ギルドに来ていた。




 「エルハイミさん! 噂は本当だったんだ! よく無事で!!」


 ギルドマスターたちに挨拶して大広間に戻ってきたら「風の剣」のライさんがあたしたちに声をかけてきた。



 「お久しぶりですわ、ライさん。お元気でしたかしら?」


 「そりゃあ、おかげさまで元気でしたよ。でもよかった。ティアナ殿下もこれで一安心ですね?」


 「ライ殿、その節は世話になりました。私もエルハイミが戻ってきてうれしく思っています」


 そう言ってティアナはあたしを見る。

 そんなあたちたちの様子を見てレコナさんが驚く。



 「エ、エルハイミさん! その左手の指輪って!?」


 「レコナ、殿下の左手にも!?」



 レコナさんが気付き次いでマーガレットさんも気づく。



 「あら? 人間のそれって確か『結婚指輪』って言うのよね?」



 「ファム、久しぶり!」


 ファムさんもまじまじとあたしたちの左手を見ているとシェルがやって来た。


 「シェル! よかった! 本当にあなたも無事だったのね! ファイナス長老から聞いたときはみんな驚いたけど、どうやら無事のようね?」

 

 「まあ、無事と言うかなんというか‥‥‥ そ、それよりファムちょっとこっち来て! 二人で話が有るの!」



 そう言ってシェルはファムさんを連れて向こうへ行ってしまった。

 多分あの事を話すつもりなんだろう。



 「それで、もしかしてお二人は‥‥‥」


 「ええ、エルハイミは私の正式な妻になりました」



 きゃーっ!!



 ティアナのその言葉にとたんに騒ぐ二人。

 しかしライさんは相変わらず何が起こっているかよく理解できていない。


 「エルハイミさんが指輪しているって事は結婚したと言うのだろうけど、殿下が指輪しているのはエルハイミさんと何の関係が? それに正式にエルハイミさんが妻になったって?」


 「ばかっ! ライ! あなた本当にそう言うの鈍いんだから!」


 「ティアナ殿下とエルハイミさんはそう言う関係って事よ」


 マーガレットさんとレコナさんに言われライさんはだんだんと理解して「あーっ!」とか言いながらあたしたちを指さす。


 「お、女同士で!? ただ単に仲良かっただけじゃないのか!? そんな、元々エルハイミさんにアタックしようとしていたのに!!」



 ライさん、それ無理!


 全然タイプじゃないし、あたしは男に、ティアナ以外には興味ありませ‥‥‥

 そう言い切ろうとした時にシェルとファムさんがあたしを見てニンマリしているのに気付いた。



 あうっ!



 あ、あれは仕方なかったのよ!

 う、浮気じゃないわ! 

 事実シェルには唇以外奪われてないもの!

 く、口づけはこの世界にもあるスキンシップよ、スキンシップ!!




 「どうしました、エルハイミ?」



 びくっ!



 「い、いえっ! なんでもないですわ!! それよりティアナ、後で私も重要なお話が有りますの‥‥‥ そ、その、仕方ないこととは言え、怒らないで欲しいですわ‥‥‥」


 「私があなたの事で何か怒る様な事は有りませんよ?」




 そう言ってくれたティアナだったがその晩シェルとの事を包み隠さず話したら朝まで許してもらえず体にいろいろと叩き込まれてしまった♡

 

 


 

 * * * * *



 「うう、腰がですわ‥‥‥」


 「お姉さま、まさか昨日の晩も‥‥‥」


 あたしたちは朝食を取りながら今日の予定について話していた。


 今日は近隣の村を視察に行くつもりだった。


 このティナの町にずっといる訳にはいかないけど時間が有ればここはあたしたちの家なので戻って来たい所だ。

 行政とかはエスティマ様に任せてもそれ以外の手伝えることは色々としたい。



 「じゃ、あたしは今日は蚕の方を見てくるからね」


 シェルは果物を食べながら別行動を宣言する。

 どうやらファムさんも一緒に行くようだ。



 「主よ、すまんが俺はエスティマ様とやらねばならんことが有る。同行出来んが良いか?」


 「かまいません。ジルが代わりにいろいろ説明してくれるそうですから」


 ゾナーは朝食を取りながら書類をめくっていた。

 なんだかんだ言ってエスティマ様の補佐をしながら事実上このティナの町を運営してくれている。



 「こんな辺境に何が有るでいやがりますか?」


 「クロエ、口を慎まんか! 主様に失礼だぞ」


 クロエさんとクロさんはコクの食事に従事しながらそんな事を言っている。



 「クロエ、クロ。長きにわたり迷宮にいましたがお母様と共に久方の外の世界です。当時といろいろ変ったこともあるでしょう。そう言った下界の事も理解するのは必要な事ですよ?」


 「す、すみません、黒龍様!」


 「さすが黒龍様ですな、慈悲深い。下々の些細な事をご理解なさろうとする。このクロ感服いたしました」




 いや、そんな大げさな事じゃないでしょう―に?


 当時と違ってみんな簡単な魔法がつかえたり妖精や亜人たちが隣の世界に隔離されたり、人間が主体の国づくりになっていたのはジマの国で知っているでしょうに?

 


 「お母様のやる事です、きっと我々の思いつかないような素晴らしい事をされているのです!」



 いや、瞳をキラキラさせて期待の眼差しで見られても‥‥‥



 「でも、ここってものすごく寒い地域なんですよね、お姉さま? いまは季節的にも暖かいから感じませんが『雪』ってのが五メートルも積もるって聞いたんですけど?」


 「ああ、それは本当だ。おかげで寒さで義手の動きが当時はあまり良く無かったのだがな」


 ショーゴさんがイオマに答えながら少量の朝食を終える。

 もともと人の部分が少ないショーゴさんは栄養摂取も最低限で済んでしまうので小食だ。


 「ともあれ準備が出来たら出発ですわ!」


 あたしのその声にみんなは行動を開始するのであった。



 * * * * *


 

 「ジル、あれは一体何なのですの‥‥‥」


 あたしたちは近場の牧場を見ていた。

 見渡す限りの平原に沢山の獅子牛や豚、ヤギに鶏まで動き回っている。

 そして村どころか町に匹敵する建物がひしめいていた。


 「ああ、エルハイミねーちゃんの言う『牧場開拓』ってのを『風の剣』のファムさんに手伝ってもらったんだよ。どうすれば精霊力を衰えさせずにこの牧場を運営できるか指導してもらったんだ。農地も同じく手伝ってもらったんで冬場以外の作物もたくさん取れるようになったよ」


 ジルはしれっと言うが、これってすごい事だ。

 

 牧場で出た堆肥を上手く農場で使い、そして草原だけでは足らない動物たちの食料も、農園のあまりものとかで補充できている。

 聞いた話しでは蚕のさなぎや人工湖で捕れた魚のあまり部分も良い堆肥になるそうで、その循環はこの二年で順調に進んでいるそうだ。



 「あっちの西の山から見つかった鉱石もドワーフの人が来てくれたおかげで製鉄できるようになって、農器具とかも鉄製のクワやスキが出来たからすごく効率が上がったってゾナーさんも驚いていたよ」



 そう言えば資料で製鉄までできるようになったって書いてあったけ。



 「おかげで最近は狩りにも行ってないよ。ちょっとつまらなのだけどいつでも肉が喰えるってのは良いよね?」


 ジルはそう言ってシェルにもらった弓を引っ張ってみて「びんっ!」と音を立て離す。


 前にシェルが自分で使っていた物らしいけど、ジルはとても喜んでいた。

 エルフの弓はものすごくバランスが良くて矢さえ良いものが作れれば今まで以上に獲物が狩れるそうだ。




 「お姉さま、これってすごいですね、あたしのいた村じゃこんな放し飼いしてたらすぐに魔獣の餌食ですよ」


 「イージム大陸は人が住むには厳しい土地でしたからね。しかしこのウェージム大陸は本当に豊かです」


 コクは目を細めその光景を見ている。




 ガレントは未だに世界の穀物庫と言われるほど穀物の生産量が多く他国への輸出もしている。

 確かに北のここだってやり方次第だろうけど豊かになる要因はあった。



 あたしはそんなのどかな風景を楽しんでいた時だった。


 「エルハイミ! 大変だよ!! ユグリアが、ファイナス市長たちがジュメルの攻撃を受けているって!」


 「!?」


 慌てて早馬に乗ってやって来たシェルは着くと同時にそう叫ぶ。

 あたしたちは顔を見合わせすぐに馬車に乗り込む。


 「ジュメル!」




 ティアナはそう言ってユグリアの方、南方を睨み付けるのだった。

   

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