第329話12-17遺跡調査

 12-17遺跡調査


 あたしはみんなとネミルさん、そしてソラリマズ陛下とその近衛兵を連れて近郊の遺跡にやって来ていた。

 

 ここは水上都市スィーフから馬で半日かからない所。

 記録では水害を押さえるために作られた神殿らしいが、何故か祀っているご神体が大蛇と言う事になっている。


 「なんで蛇が神様あつかいになっているんですか、お姉さま?」


 「古文書ではここに住んでいた白い大蛇が怒ると雨を降らせると言う事でそれが水害の原因になったそうですわ。だから大蛇のご機嫌を取って雨が降らない様にしていたらしいですわ」


 「蛇がねぇ~ そんなもんなんで信じたかね?」


 イオマもあたしもシェルも首をかしげる。 


 言われは分からないでも人は困難になると何かにすがりたくなるものだ。

 魔法王国時代ならいざ知らず人の力だけで生きていくにはつらい時代だったのだろう。

 古代魔法王国崩壊後百年くらい後に出来た神殿らしい。



 まあ、そうすると確実にここには何も無いだろう。



 「コク、メル教に何か動きはありましたかですわ?」


 「はい、少々お待ちください主様」



 そう言ってコクはあたしたちから少し離れた場所にクロさんとクロエさんを連れて一旦消える。

 そしてしばらくしてから戻って来た。



 「主様、メル教はどうやら側近の連中を数人たぶらかし近々『大布教会』なるモノを企んでいるとのことです」


 「『大布教会』ですの? 何ですのそれは?」


 「すみません、そこまでは‥‥‥ すぐに調べさせます、ベルトバッツよ、すぐに調べてまいれ!」


 『御意でござる』


 今回は声だけしてそのまま静かになった。

 まあ、陛下たちもいるし変に姿を現さなくてもこれでもいいんじゃないの?


 あたしがそんな事を思っているとネミルさんが話しかけてきた。


 「エルハイミさん、どうやらイリナたちも何か掴んだようです。知らせの魔晶石が反応しました。城に戻ったら私の部屋に」


 「わかりましたわ、ネミルさん。ところでここはどうしましょうですわ?」


 ネミルさんは古文書を引っ張り出しここの神殿について記されていることを読み上げた。


 

 それはこんな話だった。


 

 ―― 遠い昔、一人の青年がいた。


 その青年はこの神殿の近くで漁をしていたがここで一匹の白い大蛇に遭遇した。


 大蛇は自分の縄張りで人間が勝手に漁を始めた事に怒ったがその青年を見るとずいぶんと気に入り夫婦となるならばここでの漁を許した。


 青年は実は結婚したばかりで妻もいたがお腹の中にすでに子供がいて稼がなければならなかった。


 青年は大蛇と夫婦になる事を了承して昼間にはこの近くで漁をして、そして夜には人の町へと帰って行った。

 白蛇はそれが気に入らなくなり上半身だけを美しい女性の姿に変え青年に昼夜問わずここにいてもらおうとした。

 青年は驚いたが上半身だけ美しいその白蛇に心惹かれた。

 しかし青年は夜には町にいる妻のもとに帰らなければならなかった。

 

 何度懇願しても夜にだけは人の町に帰ってしまう青年に白蛇は苛立ちある日そっと青年の後を追って町に行ってしまった。

 そしてそこで仲むつまじき様子の青年とその妻の様子を見てしまった。

 

 怒り狂った白蛇はその妻をお腹の子供ごと飲み込んで逃げ去ってしまった。

 しかし白蛇の気持ちは収まらず泣き続けその涙は大雨を呼んでこの町に水害を引き起こしたらしい。


 以来、ここの白蛇の怒りを治める為に人々は社の神殿を建ててその白蛇を祭ったそうだ。




 これがここの遺跡の成り立ったり理由らしい。


 うーん、ますますなにもなさそうだわね。

 しかし来た手前少しは調査しなければならない。 

 あたしは仕方なしに感知魔法を使ってこの遺跡や周辺を見てみる。


 すると‥‥‥


 なんか神殿の下に変な反応が‥‥‥

 

 「ネミルさん、何か神殿下に変な反応がありますわ」


 「神殿の下ですか? はて、記録では特に何も無いのですが?」


 「エルハイミ、魔力ちょうだい。土の精霊に干渉して掘ってみましょう!」


 シェルがそう言ってあたしの隣に来る。

 その眼は好奇心で輝いていた。


 

 うーん、まあついでだから調べて行こうかな?

 あたしはシェルの背中に手をついて魔力を注ぐ。



 「あんっ! 相変わらず熱くて濃いわね、気持ちいいぃ」



 どうもあたしが魔力を注ぐたびにみんな変な事言うのだけどこれってどう言う事?

 今度イオマにも試してみようかな?


 そんな事を考えていたらシェルが既に土の精霊を呼び出していた。


 「さあ、行くわよみんな! 手を貸して!」


 そう言って土の精霊たちを数体一度に使役して神殿の下を掘っていく。

 あたしは感知魔法を使ってその何かまで指示して穴を進めさせる。


 と、それにたどり着いたようだ。

 見ると白いそれは大きな丸い塊のようだった。


 「なにこれ? エルハイミ、ちょっと見てみて」


 「何なのでしょうね? これは‥‥‥ 卵? いえ、ちょっと卵とは違うようですわね??」


 あたしものぞき込んでみるけど何なのだろう?

 するとソラリマズ陛下もやってきて覗き込む。


 「エルハイミ殿、何ですかなこれは? 卵のようにも見えますが?」


 「そうですわね、何なのでしょう? とりあえずこれを運び出してみましょうですわ」


 あたしはそう言って巨大なその卵のようなものを念動魔法で持ち上げて地上にまで運び出した。

 地上に運び出されたそれは見れば見るほど何かの卵に見えるけど表面の素材は卵では無い様だ。



 「主様、これは【冬眠の秘術】では無いですか? リザードマンなどの爬虫類族は何らかの理由で眠りにつく時に使う秘術です」


 またしてもコクがあたしたちの知らない事について教えてくれる。

 流石は太古の竜、まだまだあたしたちの知らない事を知っている。

   

 あたしはそれが秘術で眠りについている何かと聞き興味を持つ。

 この神殿が建てられる前からそこに埋まっていた事になるからだ。

 そうすると二千年近く前のモノになるはずだ。


 「主様、この者を起こしましょうか?」


 コクがあたしを見ながらそう言う。

 掘り出してしまったし、また埋めるわけにもいかないのでコクにお願いする事となった。



 「それではこの者を起こします」



 そう言ってコクはその卵のようなものに手をつき魔力を送る。

 すると一瞬卵淡く光って全体にひびが入りぴきぴきと音を立てながら割れ始める。


 あたしたちはそれを固唾を飲んで見守る。



 そして卵から出てきたのは真っ白な髪の毛の上半身裸の美しい女性が‥‥‥

 と思ったら下半身が白い蛇?



 「ふあぁぁああぁぁっ、誰じゃわらわの眠りを妨げるのは?」


 「おや、これは珍しい。ラミアのようですね?」



 なんと、卵の中にはラミアがいたっていうの!?

 言葉は通じるみたいだし陛下もいるから大事にはしたくない。

 あたしは身構えながらそのラミアに質問する。


 「あなたは何者なのですの? 何故神殿の地下に眠っていたのですの?」


 するとそのラミアは目をこすりながらあたしを見る。


 「ん~、汝は何者じゃ? わらわは‥‥‥」


 そう言ってだんだんと目が覚めていろいろ思い出してきたようだ。

 ただでさえ白い肌なのに顔色が青ざめてくる。


 「ちょっとマテ、汝ら! あれはわらわのせいではないぞ! あの男が浮気しまくって孕ませた女がわらわに驚いて逃げ出し足を滑らせ沼で溺れたのはわらわのせいではないぞ!! それに町に水を呼んだのはわらわでは無いぞ! あの男が間違って水門壊したからじゃ!! わらわは無実じゃぁ!!」


 そう言って逃げ出そうとするのをクロさんとクロエさんがしっかりと捕獲する。



 「黒龍様の前だ、少しはかしこまらんか!」

 

 「全く、これだから下級種族はかなわないでいやがります」



 捕まったラミアは命乞いしながら何故この神殿の下に眠っていたのかを話した。



 

 要はあの伝説はその青年に都合の良いように改ざんされて今に伝わっていたらしい。


 もともとの夫婦はその青年とラミアで田舎の出のその青年は嫁がもらえなくこの近くで漁をしていたらしい。

 そこにたまたま住んでいたこのラミアと出会い、一方的に求愛され押し切られた感じで夫婦になったのだがラミアのおかげで漁は前よりずっとよくなり羽振りが良くなった青年は町に遊びに行き知り合った女性を孕ませてと、さんざんだったらしいが濡れ衣を着せられたラミアはここに逃げ帰ってしばらく人目を避ける為に【冬眠魔法】を使って眠っていたらしい。

 それを知った青年は良いように話を変えそのままラミアに罪を着せここに埋めて社の神殿を建てさせたのだろう。




 「しかしそうすると伝承から既に二千年以上、貴女の事は古文書で記されていますが今現在貴女をどうこうするつもりはありませんよ? 陛下、この者は言葉が通じわれらスィーフに仇成す事は無いでしょう」


 ネミルさんがそう言うとソラリマズ陛下も何と言って良いのか分からないような顔になる。

 

 「ま、まあ、我が国に影響がなければかまわん。逃がしてやれ。もともとこの辺はラミアが多い地域だ一匹増えた所で影響も無かろう」


 そう言ってそのラミアは逃がしてもらう事となったが、去り際にとんでもない事を言う。


 「助かったのじゃ。しかしこの近辺にはわらわと同じようなものが沢山いたと聞く。もしやその辺の遺跡とやらもわらわの様な者が沢山眠っておるやもしれんのぉ」



 「え?」



 あたしは思わずネミルさんを見る。

 するとネミルさんは記録されている古文書を見る。


 「カエル女、ミミズ女、ウンディーネの恋‥‥‥」


 ネミルさんも頭を抱え始める。

 どうやらこの近辺の調査はしない方が良いのかもの知れない。


 あたしは明後日の方を見る。



 世の男どもときたら‥‥‥

  

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