第308話11-19ドワーフの国


 11-19ドワーフの国



 あたしたちはさっくりとロックワームを片付けドゥーハンさんと別れる。

 この後ドゥーハンさんはイッカの町に戻りロックワームが片付いた事、それと軍の調査隊を受け入れる準備がある。



 「まあ、お前さんの事だからこの先も問題無いだろうが、達者でな」


 「ええ、ドゥーハンさんもお元気で。それと、お母様に何か託けは?」



 一瞬ドゥーハンさんは嫌な顔をするがすぐに苦笑してあたしに向かって言った。


 「元気ならそれでいい。エルハイミと言う娘がこれだけ元気なんだ、幸せなんだろ?」


 一瞬複雑な表情をする。

 あたしもふっと笑って答える。


 「おおむね元気ですし、幸せですわ。今は連絡が取れなかった私も元気だと言う事を知ったでしょうからきっとまた、あらあらあら~とか言ってますわ」


 それを聞いたドゥーハンさんは大声で笑った。


 「ユリシアらしいっ! エルハイミ元気でな!」


 「はいっ、ドゥーハンさんもですわ!」



 ドゥーハンさんは手を振りながら歩いていってしまった。


 英雄ドゥーハン=ボナバルド、気さくなおっさんだった。

 最悪あれが父親になっていたかと思うと微妙だったけど、悪い人ではない。

 なんかまたそのうち会いそうな気もする。

 あたしたちはしばらくドゥーハンさんの背を見ていたがやがて目的地のドワーフの国へ向かうのだった。



 * * * * *



 ドワーフの国、オムゾンはドドス共和国の南方にある山岳地帯の大洞窟にある。

 ここは全てのドワーフの故郷であり、女神戦争の後に天秤の女神アガシタ様がドワーフたちをまとめた場所でもある。



 そしてあたしたちは今その大洞窟の前に立っていた。




 「久しいのぉ、百年ぶりくらいか? どうやら変わりは無いようじゃな」


 オルスターさんはそう言って嬉しそうに目を細める。

 そしてあたしたちの馬車はゴトゴト言いながらその洞窟に入って行った。



 * * *



 「止まれ! お前たち、ドワーフの国に何用だ?」



 洞窟に入ってすぐの所に城壁が有った。

 頑丈そうな城壁の門はドワーフの衛兵で固められていた。



 「百年ぶりに帰ってきたオルスターだ。連れの連中は儂の仲間じゃよ」



 「オルスターだと? おお、オルスター!! 久しぶりじゃの!!」


 「ソイスターか? 久しぶりじゃのぉ!! 元気じゃったか!?」


 見ると鎧に身を包んだ長いひげのドワーフが嬉しそうに馬車を降りたオルスターさんと抱き合っていた。


 

 「なんじゃ、お前さん人間の王とかに付き合うと言ってずっと帰ってこんかったが、どうしたんじゃ?」


 「おお、あやつは人の人生を全うしてな、その子もその取り巻きの子たちも立派になったのでな。わしの役目も終わったと思い今度はこの嬢ちゃんをデミグラス王に合わせようと思ってな」


 そう言ってオルスターさんはあたしを呼ぶ。

 あたしは馬車から降りてオルスターさんの知り合いと言われるソイスターさんに挨拶をする。



 「初めましてですわ。エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ」



 一応正式な挨拶をする。

 するとソイスターさんはあたしの頭のてっぺんからつま先まで見てからオルスターさんに言う。


 「こりゃまたずいぶんとべっぴんさんのお嬢ちゃんじゃな、見た所魔導士かの?」


 「はい、ガレント王国がティアナ姫の伴侶として仕えておりますわ」


 「ガレントじゃと? またずいぶんと遠い所から来なすったもんじゃ。オルスターの知り合いなら問題無いじゃろう、通るが良い」


 あたしはにこやかにお礼をしてまた馬車に戻る。

 オルスターさんはソイスターさんにひょっと酒瓶を渡す。


 「土産じゃ、イザンカの酒じゃぞ!」


 「なんじゃと!? それは馳走じゃな! ありがたくもらっておくぞ!」


 ソイスターさんはそう言って手を振ってくれた。

 あたしたちの馬車は門を抜けいよいよドワーフの王国、オムゾンへと入って行くのであった。



 * * *



 「うへぇ、やっぱ土臭い!」



 シェルが嫌そうに顔をしかめる。

 確かにちょっと湿っぽいけどそんなに土の匂いがするかな?


 「シェルさんは耳だけじゃなく鼻も良いんですね?」


 「あなたたちは何ともないの? まあ、あたしの場合鼻と言うよりも大地の精霊の影響も強いんだけどね」



 精霊使いであるシェルは俗称四大元素に関して特に敏感だ。

 つまり、地、水、火、風の四つの元素について特に敏感だ。

 

 いつもは人の町や森なんかが多いシェルだ、洞窟の中と言えばそのまま大地の精霊の影響もあるだろう。

 だから土臭いなんて感じるのかな?



 「ふん、この穏やかな温かみが分からんか? やはりふらふらしているエルフにはこの良さは理解出来んじゃろうて」


 「なによ! 換気もしないんじゃみんなかびちゃうわよ!」



 ああ、また始まった。

 ほんとエルフとドワーフって仲悪いわね。



 ただ最近思うのは本気で嫌っているわけでは無く口喧嘩友達みたいなところがあるのよね~

 実際何かある時はお互いにサポートし合っていたりする訳で。


 そんないつものやり取りを聞きながらあたしはこのドワーフの王国を見る。



 まず最初に驚かされるのはこの大洞窟がホントに不思議な空間になっているって事だ。


 どう考えてもおかしいのは洞窟のある山よりも天井が高そうだと言う事。

 見れば数十メートルはゆうに有る。

 はっきり言て山の高さ越えてると思うんだけど。



 そして中の広さもおかしい。



 だってコクがいた迷宮じゃないけど横の壁が見えないのよね。


 だだっ広い空間に石やレンガ、泥で作り上げた家が立ち並びそこかしこで鉄を打つ音が聞こえる。

 家々には魔法の明かりがともっていて暗い洞窟のわりに歩くには苦労しそうにないほど明るい。


 そしてここの住人は当然ドワーフ。


 初めて見る女性のドワーフや子供のドワーフたち。

 あたしは初めて見るその光景にしばし見入ってしまった。




 「お姉さま、まさかドワーフの女性にまで手を出すつもりじゃないでしょうね?」



 イオマが外の様子を熱心に見ているあたしに近寄ってくる。

 

 「そんな訳ないですわ!! 私は初めて見るドワーフの国が珍しくって見入っていたのですわ!」


 「うーん、流石にお姉さまでもドワーフの女性には食指が動きませんか?」


 全く、最近のイオマはあたしを何だと思っているのだろう?

 まるであたしが見境なしに可愛い女の子に手を出しているような言い方で。


 

 「流石にエルハイミもドワーフじゃ駄目って事か?」


 「何を言う、お前さんたちのようなヒョロヒョロよりドワーフの女の重厚さや豊満さは男心をくすぐるんじゃ。特にエルフのその洗濯板ではだれも振り向かんじゃろうて!」


 「なんですってぇ!! デカけりゃいいってもんじゃないわよ!!」


 「ふん、それでは赤子に乳さえやれんじゃろうに!」


 きーっ!! とか言ってシェルは怒っている。

 なんかいつもより怒り方が本気っぽいな?

 もしかして胸が小さいの本気で気にしているの??



 「私は主様のおっぱい位が一番いいです。吸いやすくて」



 コクまで参加してきたっ!?



 「私のも吸ってもらいたいです、お姉さまぁ~」



 こらイオマ、なんてこと言ってるのよ!

 あたしはそこまでやってないからね!!

 マッサージで止めてるわよ!



 「主様は鬼畜でいやがりますからね、私のお尻まで奪っていやがりますからね」



 クロエさんまでっ!?

 しかもそれってあたしじゃないわよ!?

 あたしはクロエさんを助け出したのよ!?





 なんか納得のいかないいじられ方しながらあたしたちの馬車はドワーフの城へと行くのであった。

 

 

 

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