第268話10-10重なる二つの影

 10-10重なる二つの影



 あたしたちは改めてクロさんたちの強さを認識しながら次の詰め所へと向かう。



 この二人がいればリッチのもとまで難なく行けるのではないだろうか?

 そんな事を考えながらあたしたちは次の詰め所へと着いた。

 そしてショーゴさんがその扉を開く。



 『おおっ? 本当に来たよ』


 『そうだね、これであたしたちも暇つぶしが出来そうだわ!』



 見ると部屋の中には小柄な二つの影。

 それは楽しそうに、踊るようにしている。



 『ようこそ僕らの宮殿へ』


 『暇つぶしに来てくれてありがとう、愚かな人間たち』



 よくよく見るとこの二人は同じ顔をした悪魔だった。

 黄色い髪に同じ顔、似た様な服装に金色の部分プロテクターを身にまとっている。

 しかし一人は男の子、もう一人は女の子の双子のようだった。


 

 「ふん、今度は私が行かせてもらいますです」



 クロエさんはそう言ってずいっと前に出る。

 

 『ふうん、君が相手?』


 『あら、あたしにはかなわないけどきれいな子ね、壊し甲斐があるわ』

 

 二人は嬉しそうにくるくる回りながら踊っている。 

 クロエさんならこんな奴ら簡単に倒せそうだ。


 「さあ、ぶちのめしてあげるでいやがります!」


 そう言ってクロエさんが動こうとしたその時だった!


 

 『僕らはぶちのめすなんて野蛮なことしないよ?』


 『ふふっ、そうねあたしたちはこの声であなたたちを壊してあげる』



 そう言うか否やいきなり二人は歌い始めた!

 その歌声は洗礼された響きを持つ美しい声で既に飛び込んでいたクロエさんを包み込む。

 そしてクロエさんは悲鳴を上げる。 



 「くぅぁぁあああああぁぁぁぁっ!!」



 クロエさんは飛び込んだがその場で耳を押さえて崩れ落ちてしまった!?


 「うっ、こ、これは!?」


 「はうぅぅうっ! あ、主様ぁ!!」


 クロさんやコクまで耳を押さえてその場にしゃがみこんでしまった?

 これは一体どういう事??



 『ふふふ、あははははっ! 今の声は竜族には心底嫌な声だよね!』


 『じゃあ、次は人間ね!』



 そう言った二人は今度は重低音響く歌声に変わり歌い始める。

 すると今度はあたしたちにその声が作用を始めた。


 

 どんっ!


 ががががっがががっががあっがっ!!!!



 まるでラジオの選局が上手く行っていないかのような不快な声色があたしたちを襲う。

 あたしやイオマ、ショーゴさんは途端にその歌声に耐えきれなくなって耳を塞ぎその場でしゃがみこんでしまった。


 『まだまだ行くよ~!』


 『次はエルフね!』


 そしてまたまた声音を変えて歌いだす。


 「ふぎゃぁぁあああぁっ!!」


 シェルは長い耳をだらーんと下げてあたしたち同様耳を塞ぎしゃがみこむ。

 あたしたち全員この歌声に対して一歩も手出しできずその場にうずくまる。


 『あははははっ!』


 『ふふっ、ね? 野蛮なことしなくてもあなたたちを壊してあげるわ!』


 そう言って二人はさらに歌声を響かす。

 何とも言えない不快感が襲い意識が遠のきそうになる。


 コクたちでさえそれには抗えないようであたしたち同様動く事すらできなくなっている!?

 


 「エルハイミ! この声何とかしてよ!!」


 「シェル! 風の精霊で音を消せませんの!?」


 「リッチの結界のせいで風の精霊がいないわよ!!」



 シェルはあたしとやり取りするけど肝心な風の精霊がいない。

 だからこの声を押し消す事が出来ない!!


 

 ん?

 歌声を押し消す??

 音は音波、その波を乱せば影響が減る?



 あたしはすぐに衝撃波を作って二人に打ち込む!



 『おおっ? 僕たちの声を乱すつもり?』


 『でも残念、あたしたちの声はただの歌声じゃないわ、魔力の乗った歌声はそんな衝撃波だけじゃかき消せないわよ!』



 そう言って二人はさらに歌声を高めた!



 くううっ!

 これはきつい!!



 しかし声に魔力をのせているって?


 なら、こちらも歌声に魔力をのせて対抗できればこの声を乱せる!?

 だったら!


 あたしは大きく息を吸い込み生前カラオケで十八番だった歌をあたしの美声に魔力を乗せて歌いだす!

 この歌はあたしも大好きだった曲、カラオケでこの歌を歌うとみんな涙したものだ。

 中には感極まって失神するほど!


 いくわよ!!



 「ぼえぇぇぇぇええええぇぇぇぇえっ~!!」



 『うわっ!!』


 『きゃあぁつ! なにぃっ!?』


 あたしの美声にあの二人も驚いているようだ。

 あたしは構わず歌を続ける。



 「ぼぼぇぇええええぇぇぇぇえぇ~~っ!」



 「ちょっと! エルハイミぃ!!」


 「お、お姉さまぁっ!」


 「主様ぁ~っ!」


 「くっ、あ、主よ!」


 「ぐぅうぅっ、主様これほどまでとはっ!」


 「うがぁああぁぁぁっ! 主様いい加減しやがれですっ!!」


 どうやらシェルもイオマもコクもあたしの歌声に驚いているようだ。

 ショーゴさんやクロさんクロエさんまでも驚いているみたい。


 

 『あ、ありえなぁいっ!!』


 『い、いやぁっ! ひどすぎぃっ!!』


 

 とうとう二人は歌うのをやめて耳を塞いでしゃがみこんだ!

 どうよ、あたしの美声はっ!


 あたしの歌は更に調子を増していきいよいよさびの部分になる。

 いい感じよ!

 久々に歌うこの歌は自分でもわかるほど高揚していて絶好調になっていく!



 「ぼぉぅぇえええええぇぇえぇぇぇええぇぇっ~~~!!!!」



 『うわぁっ! だ、駄目だぁっ!!』


 『やぁだぁぁあああっ! もうだめぇっ! ごめんなさぁあぃいいいぃっ!!』



 ばしゅっ!

 ぼしゅっ!!



 いきなり二人は衣服と金ぴかのプロテクターを残し煙となって消えてしまった。


 

 バサッ!

 からーん!

  

 

 そして二度とあたしたちの前に姿を現さなかった。



 「ふう、どういう訳かあの二人が消えましたわ」


 

 「え、エルハイミぃ、今のは一体どういう事よ‥‥‥」


 プルプル震えながらシェルがあたしのそばにふらふらとやってきた。

 どうしたのだろう、ずいぶんと顔色が悪い?


 「私が得意としている歌に魔力をのせて相手の歌声に対抗したのですわ!」



 「お、お姉さまあれ歌だったんですかっ!?」


 「主様、何かの技か魔法じゃなかったのですか!?」



 シェルもイオマもコクまでも何を言っているのだろう?

 どう考えてもみんなが感動するような歌のはず。

 それなのにみんな青い顔をして今にも嘔吐しそうな感じだ??


 「主様、もう二度とあの歌を歌うんじゃないでいやがります!」


 心底げんなりしてクロエさんがあたしにそんな事を言った。


 

 はて?

 どういう事だろうか?



 「主よ、その歌声は凄まじ過ぎる。危うく俺たちまで気を失い事切れる所だったぞ」


 「確かに素晴らしく強力な音響兵器です。主様がこんな隠し玉を持っているとは知りませんでした。しかし出来ればこれは我々のいない時にお使い願いたい。我々もこれには耐えかねます」

 

 ショーゴさんやクロさんも何か凄いこと言っている!?



 なにそれっ!?

 どういう事よ!!!?




 「え、えーと、私の歌声ってもしかしてですわ‥‥‥」 

 

 「うん、エルハイミすっごい下手、しかもあの重低音は殺人的よ!」


 シェルに言われあたしは思いっきりショックを受ける。

 重低音の所って一番いいさびの所じゃない!?


 「さて主よ、おかげで窮地は脱した次へ急ごう」


 そう言ってショーゴさんは歩き出す。

 それにつられて他のみんなも歩き出すがあたしだけ白くなって固まっている。



 そ、そんなぁ、あたしの歌って音痴だったの!?

 じゃあ生前のみんなの反応って‥‥‥





 あたしはみんなに遅れしばし固まっているのであった。  

     

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