第266話10-8眠りに誘う者

 10-8眠りに誘う者


 「受けよ我がドラゴン百裂掌!!」


  

 クロエさんの打ち出した無数の掌はヤギ頭の悪魔を襲う!

 ヤギ頭の悪魔はその無数の掌を片手ではじく。


 そして二人の影が交差してクロエさんがヤギ頭の悪魔を通り越した。


  

 「ぐっ!」



 そう言ってクロエさんはその場に跪く?

 見るとクロエさんの左腕に一筋の赤い傷が出来ていてそこから流血を始めた!?



 『ふはははははははっ! なかなかの技だがまだまだ甘い! その程度の掌では我を倒すことなど夢のまた夢だ!』



 クロエさんに振り返ったヤギ頭の悪魔は高笑いをしながら矛を構える。


 

 『ドドメだ! ‥‥‥ぐぼっ! な、なんだと!?』



 だがヤギ頭の悪魔はいきなり吐血してその場に跪く。

 見れば胸に大きなくぼみが出来ていてそれが大きなダメージを与えていたようだ。



 「ふん、悪魔風情が私に傷をつけるとはほめてやがります。しかし私の掌はお前の心臓を確実に打ち抜いたでいやがります」



 そう言ってクロエさんは傷ついた腕に自分で回復魔法をかけて傷口を塞ぐ。

 そしてそのままヤギ頭の悪魔の近くまで歩いて来る。


 

 「さあ、ドドメを刺してやるです!」



 そう言って手刀を高々と振り上げる。


 『くっ! まだだっ! まだやられんぞぉ!!』


 そう言ってヤギ頭は「めぇぇぇえええええぇぇぇぇっっ!」っといきなり鳴いた!?



 その途端あたしたちに強力な眠気が襲う。


 

 これは精神魔法攻撃!?

 普通の睡眠魔法よりずっと強力なものだ!?


 「ぐっ!?」


 クロエさんは片手を片目にあて大きくふらつく。

 あたしたちも同じで既にシェルやイオマは眠りに落ちてしまっている。



 『くはぁはははははっ、さあ眠るがいい! 羊が一匹、羊が二匹ぃ~』



 さらなるヤギ頭の悪魔が織りなす脅威の呪文は聞きたくないのにあたしたちの耳にするりと入って来てしまう。

 そして勝手にあたしの頭の中にのどかな牧場に木の柵を飛び越える羊たちが思い浮かばれる。



 ああ、次で何匹目だっけ?



 既にあたしの思考能力は低下しまくっていて認識できるのが柵を飛び越えている羊のイメージだけ。


 


 『ほぉ~らぁ、羊が四千七百八十九匹ぃ~羊が四千七百九十匹ぃ~ ‥‥‥』



 や、やばい!

 もうあたしもだめぇ~!!


 遠のく意識で最後に見たものは‥‥‥



 『ぐぅ~ぐぅ~』



 ヤギ頭の悪魔が寝ている?


 

 「くっ、全く手間を焼かせやがるです。危うく私も眠りに落ちる所でいやがりました。黒龍様にこんな所で失態を見させるとは、許せないでいやがります!」


 そう言って眠気から解放されたクロエさんは眠っているヤギ頭の悪魔の首をつかみその細腕でひょいと持ち上げる。


 『はっ!? つい我も羊を数えながら寝てしまった! って、ちょっとマテ何だこの絶対不利な状況はぁっ!?』


 「グダグダうるさいでいやがります! 消えろ!」



 ザシュっ!



 クロエさんの手刀がヤギ頭の悪魔の胸に突き刺さりそのまま背中にまで達する。

 そしてその手にはいまだに動く心臓が握られていて背中に出たとたんそれを握りつぶす。



 『めぇえっ! ぐぼっ!!』



 最後にヤギ頭の悪魔は断末魔を発して動かなくなった。

 クロエさんはそれを投げ捨てこちらに戻ってくる。



 「ふんっ、手間取りやがりましたがとりあえず片付けました。黒龍様にはお恥ずかしい所をお見せしました」



 そう言ってコクに頭を下げるが肝心のコクはあたしに寄りかかってまだ寝ている。

 あたしは【状態回復魔法】を皆にかけて眠気を払う。


 「あれ? いつの間にか終わっている??」


 「お姉さま、あの悪魔は?」


 「ふみゅぅ~、主様まだ眠いですぅ~」


 シェルもイオマもコクも目覚めたようだ。


 「流石にきつかったな、俺も半分寝てしまった」


 「あれだけ強力な精神魔法攻撃だ、普通の人間では抗う事も出来んだろう」


 ショーゴさんも頭を振り、クロさんでさえ目頭を指でつまんでいた。

 確かに相手がドジ踏んでくれなかったらやばかったかもしれない。



 「うわっ! クロエ何その血だらけ!?」


 「ひっ! ク、クロエさんすごい恰好ですよ!?」



 クロエさんの姿に気付いたシェルやイオマは驚いている。

 

 「クロエさん、奇麗にしますから動かないでくださいですわ。【浄化魔法】」


 あたしは血みどろのクロエさんを浄化魔法できれいにする。

 そしてクロエさんはいつもの黒と白のミニスカメイド服姿に戻る。


 「手間取りましたがぶちのめしてやがりました、さあ次へ行くでいやがります、主様!」


 そう言ってクロエさんは肩に手を当てぶんぶんと腕を回す。

 

 「まだまだ暴れたらないか、クロエよ」


 「はいクロ様、このまま私が全部ぶちのめしてご覧にいれます!」


 「クロエ、無理はしないでください?」


 クロさんやコクに言われたクロエさんはにっこりと笑ってこう言う。


 「任せてください!」




 あたしたちは第一詰め所を後にして次へと向かうのであった。 

 

   

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