第223話8-25戦の笛
8-25戦の笛
「流石に多いな。布陣が始まったか‥‥‥」
ゾナーは望遠鏡でホリゾン側の様子を見ている。
雪は完全に無くなっていて春のやわらかい日の光の中、物騒な金属の音と漂う油の匂い。
既に町全体には警報を出していて退避準備や自己一時退避の推奨をしている。
あたしが成人を迎え約一か月後だ。
遅れに遅れたホリゾンの増援大部隊が砦に着き、いよいよここティナの町の攻略が始まる。
「あの洪水でだいぶ減ったとはいえ、いまだ十三万の兵と砦の約二万、それにキメラ部隊に魔怪人や融合怪人、ブラックマシンドールに巨人か、相手にとって不足は無いな!」
何がうれしいのやらゾナーはずっと笑みをその顔に張り付かせている。
「兄さま、
ティアナのその声に一同が「おおーっ!」と応える。
「よし、皆の者よ、手はず通りに配置に着け!守り抜くぞティナの町を!」
剣を抜き高々と掲げるエスティマ様。
それを合図にこちらも防衛の布陣に入る。
「ティアナ」
「大丈夫、あたしが絶対にエルハイミを守ってあげる!」
あたしはティアナの手を強く握った。
ぶぅぉおおおおおおおぉぉぉぉぉんんっっっ!!
ホリゾンの方から戦の始まる角笛の音が聞こえてきた。
見ると投石機や巨大な弓が森から引き出てきて一斉に攻撃を始める!
「【絶対防壁】!」
あたしとティアナが魔法の見えない壁を張り、それらの攻撃を全てはじき返す。
「【流星召喚】メテオストライク!」
お返しであたしはその投石機へと隕石をぶつけるがあちらも【絶対防壁】を張ったようで無傷だ!?
出だしは双方とも無傷、このまま続けても意味がない。
だから次の攻撃が始まる!
「来たぞ!巨人だ!!」
ゾナーのその叫びにすべての衛兵が巨人に目を向ける!
それは木々をゆうに超える高さ。
全身を覆ううろこは緑と青が入り混じったかのような色、首元から腹にかけては白っぽいうろこだ。
顔はドラゴンに近く角が生え背中には小さな翼がある。
ここからはよく見えないが尾尻があるようでその手には巨大な槍が握られていた。
その巨人はゆっくりと森から出てきた。
そしてその足元にはキメラや魔怪人、融合怪人が続きその後ろには聖騎士団が垣間見える。
「エルハイミ殿、攻撃魔法を!ティアナは防御魔法を!小型投石機構えろ!!」
エスティマ様は指示を出す。
次いでゾナーも補正指示を出す!
「弓矢隊も構えろ!近づいたら牽制射撃!マシンドール部隊も準備させろ!」
訓練を積んだ兵士たちは迅速にその命令に従う。
あたしはシコちゃんを取り出して巨人を睨む。
「ティアナ、巨人が近づいたら渡したブローチで着替えを!シェルも敵が近づいてきたら迷わず着替えをしてくださいですわ!」
そう言ってあたしは今度はシコちゃんに指示をする。
「シコちゃん、特大魔法お願いしますわ!」
『いいわよ!魔力をちょうだい!【竜切断破】!!」
シコちゃんはドラゴンも一撃で倒せると言われる光りの大きな刃を発生させ巨人に発射する!!
しかし予想通り向こうも【絶対防壁】の魔法でこれに対抗する!
がぎぃぃんっ!!
いやな音がして【竜切断破】と【絶対防壁】が相打ちで消え去る。
その間、巨人の歩みは止まらない。
そして敵意を感じた巨人は近くにあった岩を拾い上げこちらに投げてきた!
「くっ!【絶対防壁】!!」
ティアナが慌てて魔法の壁を発生させこの岩を防御する。
飛んできた岩は投石機で撃ちだせる岩の倍以上の大きさがあった!
なんて馬鹿力よ!?
『まだまだ行くわよ!【泥沼】!』
今度はシコちゃんは巨人の足元に泥沼の魔法を発生させる。
巨人は泥沼に足を取られるが膝くらいで沈むのが止まる。
足元にいた魔怪人数体が泥沼にはまって完全に埋もれた。
『よし、今よ【解除】!!エルハイミ追加の魔力を!!』
見ると膝まで埋もれた巨人の足元にあった泥沼が元の地面に変わっている?
両ひざが埋まった巨人はその場で固められ動けなくなる!
あたしは追加でシコちゃんに魔力を注ぐ。
『連続で行くわよ!【雷龍逆鱗】、【重力操作魔法】、【流星召喚】そしてこいつでどうだぁ!【大地の咢】!!』
シコちゃんの連続魔法が発動する。
天空に大きな魔法陣が出来上がりそこから豪雨のような雷が降り注ぐ。
ピカッ!
どがぁぁああああああぁぁぁんっっっ!!
雷に打たれる巨人に追い打ちで重力が押しかかる。
どんっ!
そして動けないそこに天空から真っ赤に燃える隕石が現れ巨人目掛け飛来する。
ごごごごごごごぉぉ!!!!
更にこれでもかと言う感じで動けない巨人の周りの地面がいくつも隆起して竜の頭になり巨人に噛みつく。
ぐるぅぉぉぉおおおおっ!!
しかし巨人は落雷をものとせず、重量がかかっているのも構わず手に持つ槍で隕石を叩き落とし、そしてかみつく大地の竜たちをものともせずに埋まって動けない足を強引に大地から引き抜く!
周りにいた魔怪人や融合怪人がそれに巻き込まれ哀れぺちゃんこになったり、後続の聖騎士団にまで被害が出ているがそんな事はお構いなしに巨人はこちらに向かって再び歩き出した。
『なんて化け物よ!まるで『狂気の巨人』じゃない!?』
シコちゃんが驚く。
確かにあれだけの連続魔法喰らってぴんぴんしているなんて尋常じゃない!
「こうなったらロックゴーレムたち、あの巨人にしがみつきなさいですわ!!」
あたしのその命令に二百体以上にも及ぶ四、五メートル級のロックゴーレムたちが一斉に巨人に殺到する。
巨人は槍でそれらのロックゴーレムを薙ぎ払うが流石に数が多く徐々に取り付かれる。
「何とか足止め出来ましたわ!シェル、ショーゴさん攻撃を!!」
「わかった!」
「おうっ!」
シェルとショーゴさんはそれぞれ巨人に対して魔力付与の矢や魔光弾を放ち巨人を攻撃する。
シェルの矢やショーゴさんの魔光弾が巨人にぶつかり爆発する!
とすっ!
ぴかっ!!
ぼぉんんっっ!!!!
ひゅるるるるぅ~
どがぁぁああああああぁぁぁんっっっ!!
爆破した後に発生した煙が晴れあたしたちは目を疑った。
多少はダメージを与えたようだがうろこ数枚、擦り傷をつけた程度だ!?
「なんて堅いのよ!」
「あれを直撃でこの程度か!?」
二人とも驚きの声を上げる。
と、ゾナーが叫ぶ!
「キメラ隊来たぞ!小型投石機撃てぇ!!」
見れば巨人を回り込む様にあのケンタウロスタイプのキメラ隊が城壁間近に迫ていた。
ぼんっ!
ぼぼんっ!!
小型投石機から頭大の石が飛び出す。
それはキメラ隊にいくつか直撃して吹き飛ばす。
後続から来た魔怪人にもいくつかその石は当たり、運の悪い魔怪人は頭をザクロのようにかち割って倒れる。
「よし、魔怪人たちのも効いてるぞ!どんどん撃ち込め!!」
何とか城壁にとりつかせず今は対処できている。
しかしこのまま巨人が取り押さえていられればの話だ。
あたしがそんな事を思っていると巨人に異変が起こる。
喉が大きく膨らみ鼻から大きく息を吸い込む。
まさかっ!?
あたしがそう思った瞬間だった!
巨人はその口を大きく開き真っ赤な炎が吐き出されあたしを襲うのだった!!
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