第219話8-21偵察部隊

 8-21偵察部隊



 アンナさんからの知らせはあたしたちに衝撃を与えた。


 

 連合軍と言えば各国の精鋭が集まり更にそこに最新の魔装具を提供され、しかもアンナさんまで参戦しているはずだ。

 それがスィーフまで撤退したとなると普通じゃない状況が起こっているはずだ。


 あたしたちはそう思い、アンナさんの風のメッセンジャーでの連絡を待っていた。



 「たとえ融合怪人がいたとしても魔装具を装備した連合軍だったら対抗できるはず。万が一ブラックマシンドールがいたとしても同行しているマシンドール部隊がいれば対抗できるはず。一体何が起こっているのよ!?」


 ティアナは憤慨していた。  

  

 ガレントから初代連合軍の将軍を任命されたティアナの父アコード様は撤退命令を下したのだから無事なのだろうけど、連合国軍自体には何らかの損害があっただろう。

 それもかなり重大な損害が。


 「ティアナ、気持ちはわかりますが落ち着いてくださいですわ。アンナさんもいたのですしきっと大丈夫ですわ。」


 何が大丈夫かはあえて言えないが今はそう言うしかない。


 「父上が撤退とはな。しかし本当に何が起こったのだろうな?」


 エスティマ様も苛立ちを隠さない。

 みんながいらいらとし始めた時だった、風のメッセンジャーが着信の表示をする。

 ティアナはすぐに着信のメールを開示する。


 『ティアナ殿下、既にお話は行っていると思いますが先程スィーフに帰還しました。今次ジュメルは巨人族と思しきものを投入してきました。その破壊力は竜にも劣らず、太古の巨人と疑われるようなものでした。詳細については分割してご連絡いたします。私もアコード様もとりあえず無事です。どうぞご心配なさらないでください。』


 メッセージはそこまで言って一旦切れた。

 あたしたちはまずは安堵の息を吐いた。

 連絡があるまではアコード様やアンナさんの心配は心のどこかでずっとあった。

 

 その後アンナさんの連絡はあたしたちに衝撃を与えた。



 「これでは太古の巨人以上ではないか!!?」



 みんなの気持ちを代表してエスティマ様はそう言った。

 そう、連絡の内容はそれほどあたしたちを驚かせた。



 まず巨人の大きさ。

 なんと太古級の十五メートル前後もあり、しかもジュメルの技術で強化されているらしい。

 並の攻撃や魔法が一切効かず、アンナさんの渾身の大魔法も通用しなかったらしい。

 そしてどういう原理か竜のように吐き出すその息は全ての物を焼き尽くしたらしい。

 本来巨人族はそんな事は出来ないはずだ。

 ただ、アンナさんの連絡に有った背には翼を、尻には尾が、そして頭には角が生え通常巨人族にはない堅牢なうろこが全身にびっしりあったそうだ。

 そこで予測されるのが竜と巨人のキメラではないかと言う事だ。

 ただ、幸いにして稼働時間が短いようでひと暴れしたらすぐに引っ込んでいったらしい。




 「エルハイミ、どう見る?」


 ティアナが重々しくその口を開いた。

 あたしはずっとアンナさんに連絡を聞き入っていたが、アンナさんの予測の通りだと思う。


 「私もアンナさんと同意見ですわ。多分巨人族と竜の融合キメラではないでしょうかしら?ただ、キメラの割にはその稼働時間が著しく短いというのが気になりますわ。もしかしたら試作段階のものを投入してきたのではないでしょうかですわ。シコちゃん、過去にはこう言ったのはありましたの?」


 『聞いた事は無いわね。近いものとしては巨大ゴーレムを人が操作するという研究はあったわ。ただ膨大な魔力が必要なので頓挫したけどね。』


 シコちゃんに過去の事を聞いたあたしは確信する。

 今次これは確実に初の試み、試作段階の兵器投入だ。


 「となると、そいつの稼働時間が切れた時がチャンスと言う訳か?ずいぶんと分の悪いものだな。」


 ゾナーはそう言って腕を組んで何か考える。

 他のみんなも唸っているもののどう対処していいのか妙案は思いつかない。


 「でもそうすると春先に本国から届く物って言うのはこいつの事なのかしら?」

 

 シェルはあの時ヨハネス神父が言っていた言葉を思い出していたようだ。

 

 確かにこんな身の丈十五メートル級の化け物が出てきたらいくらここでも無傷では済まないだろう。


 出てきた瞬間にあたしが特大魔法で攻撃してもむこうだって【絶対防壁魔法】ぐらい使えるだろう。

 流石にあの魔法が使われたら【流星召喚】メテオストライクも効かない。


 小型投石機でもほとんどダメージにならないだろう。

 ましてや雷撃魔法等の魔法もきっと対処済みだろう。


 「でかいというのはそれだけで厄介な脅威にしかならんな。」


 ゾナーのその結論は真実だ。

 どんなに頑張っても質量の有る物理攻撃と言う単純かつ原始的な攻撃はその大きさがあればそうそう防げるものではない。

 

 「申し上げます、偵察部隊が戻りました!」


 ボナパルドさんが報告をしてくれる。

 ゾナーは「うむ」とだけ短く言い、ここへ直接報告に来るよう言う。



 * * *



 「失礼します!ご報告に参りました!」


 その兵士は鎧甲冑ではなく、動きやすい服装かつ目立たない白一色に身を包んでいた。


 「ご苦労、ではまずホリゾンの砦の状況から説明をしてくれ。」


 ソナーにそう言われその兵士は話し始める。


 砦は想定通りジルたちの村があった場所に立てられていて城壁は丸太を使った木材で組みあげられていて、規模もそこそこ大きいらしい。

 長期戦に備えてあちらも随時砦の拡張や補強などは行っているらしい。

 そして問題は聖騎士団に混じりキメラ部隊のほか魔怪人やブラックマシンドールが動いているのを確認したそうだ。

 ここまでは予測通りだったのだが、砦には物見やぐらの塔以外にも様々な設備が出来上がり始めているらしい。

 基本はこちらと同じでゴーレムによる建築増強を行っているようで急ピッチでそれらの施設も出来上がっているとか。

 そして特に重要なのが砦へのホリゾン本国からの補給ルートだ。

 なんとこの短期間におおよそ三つも補給が出来る道が出来上がっていたそうだ。

 

 「まさかそこまで補給線の強化が進んでいたとはな・・・」


 ゾナーは唸っている。  

 ゾナーの話ではもともと山を越えた所には港村があってそこから山を回り込むルートがあったそうだ。

 途中にはいくつか小さな村が点在していたが特に明確に領主がいる訳でも無し、税の徴収がしっかりしていたわけでもない辺境扱いだったそうだ。

 それが今では山にトンネルを掘って大幅に移動時間を短縮でき、近くの河川を利用した中型船までなら移動が出来る海運、河運のルートが出来、そしてやや遠回りだが大量に物資を運べる山と山の谷間のルートまで開発されているらしい。


 「豪雪地帯はこの森近辺までで森を抜けた山岳地帯では常に北風があるおかげで寒さはここ以上だが雪は積もることなく粉雪のように舞い散る。積もってもせいぜい一メートルくらいだ。今まではこのルートしかなかったんだがな。運河のルートは盲点だったな。これは早いぞ。水源は森の東だが北側の海からかなりの所まで船で入ってこれるだろう。速さ的にはこれが一番早いな。そして問題は谷間のルートだ。時間はかかるがこのルートは大軍、十万や二十万の大軍が通っても何ら問題がないほどの道幅が確保できるだろう。しかも道が険しい訳ではないから馬車や荷車も難なく通れる。」


 ゾナーはそう言いながらその近辺の地図を引っ張り出して棒で指し示しながら報告をもとに説明をしてくれる。


 「雪はどうなの?」


 ティアナは各ルートを見ながらゾナーに聞く。


 「先ほども言った通り、豪雪地帯はこの辺だけだ。他は寒さはここより厳しいが逆に雪は少ない。積もってもせいぜいどこもかしこも一メートルが関の山さ。」


 そう言ってゾナーは豪雪地帯を赤く丸で囲む。

 次いで三つのルートも地図に書き込む。


 「砦には畑や家畜を飼っている様子がないそうだから自給自足ではなく補給を基本とした形なのだろう。だから補給線自体を増やしたな!?」


 ゾナーは書き終わってそう言う。

 確かに報告の中には民間人はいないとされていた。

 つまりすべてが兵たち、キメラたち、怪人たちになるわけだ。


 「ジルの村が略奪されるわけだ・・・」


 シェルはそう言いティアナは歯ぎしりする。

 女は連れ去られ、他は殺害されたと村長は言っていた。

 労働力は不要となれば連れ去られた女性たちは男たちの慰み者にされているのだろう。


 「何が聖騎士団か!?」


 ティアナは言葉汚く吐いて捨てていた。

 ティナの町のように城塞で守られていなければ聖騎士団の猛威で小さな村などあっという間だろう。


 「あちらもそれだけここの攻略に本腰を入れているという所だ。エスティマ様の軍十万、コルニャの増援で七千、もともとのここの戦力で一万。もし大部隊が攻めてきたら流石にひとたまりもないぞ?どうする主よ?」


 ゾナーは既に谷間のルートの大軍の増援を危惧している。

 時間はかかってもそのルートなら大軍がこれる。


 「とはいえ補給ルートを襲撃できるほどうちの台所事情もよくないわ。エルハイミ、ロックゴーレムはもっと呼び寄せられる?」


 あたしは採石場の状況を思い出す。

 鉄鉱石が見つかったことでそこにも小さな村が出来上がっていてこの冬の間も動いている。

 幸いなことに岩山だったので石だけは豊富にある。


 「可能ですわ。でもどんなに頑張ってもロックゴーレムはせいぜい五、六メートル級が限界でしてよ?」


 「それでも一般兵の足止めにはなるわ。春になったらお願い。それと兄さま状況によっては本国から増援要請をお願いします!!」


 エスティマ様は大きくうなずき、「ああ、分かっている。」とだけ言う。


 どんな手を使ってくるかは未知数だがあたしたちは覚悟を決めなければならない。

 春先には攻めてくる大軍にもしかしたらこちらにも投入される巨人。

 


 既に冷めてしまったミルクティーをじゅるじゅると飲みながらあたしは地図を凝視するのだった。


  

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