第170話7-8ティアナ十五歳

 7-8ティアナ十五歳



 ティアナがこのティナの町に着任して既に四ヵ月が経とうとしている。


 町並みもだいぶ整備が進み、農場開拓もゴーレムのおかげで着々と進んでいる。

 あたしは越冬の穀物備蓄について確認しているけど、本国支援の分だけじゃ勿論足りない。

 

 「砦だけの運営なら何とでもなるのですが、流石に町やゾナーたちの分までとなると何か手を打たないといけませんわ。」


 書類にチェックマークを入れながらあたしはティアナに報告する。


 いきなり人口が増えたこのティナの町は現在約六千人の登録者がいる。

 本年度はまだ町としてできたばかりと言う事も有り徴税はしないとティアナが宣言した。

 なので来年度まで収入は無い。

 

 自由市場では関所を通った行商人でにぎわい始めたし、もともと技術を持った人たちはどんどん商品を作って販売を始めている。

 元ホリゾンの人間が多いせいか越冬の意識も強く住民は結構個人個人で準備はしているようだ。

 

 しかし砦や城、配下になったゾナーたちの分を考えると足らないし、町に万が一何かあった場合は備蓄が無いときつい。


 そうなると何処からか買い足すしかないのだが・・・


 「備蓄を買う前にこの人たちで破産しそうだわ。」


 ティアナが見るその先には本日も元気に酒盛りが行われている。

 最近はゾナーの奴仕事が有るのでとか言って逃げまくってるし。


 なので必然的に飲み会が始まるとあたしたちが相手させられる。


 「さあ、ティアナにエルハイミ!今日も飲むわよ!アコード準備させなさい!!」


 「ははっ、お母様、お任せあれ!!」


 すっかり味を占めたこの二人が毎日この時間になると酒盛りを始める。

 いい加減蒸留酒も無くなってきたというと今度はワインでもエールでも良いと言い出した。

 結局酒であれば何でもいいみたいで本日も安い酒を持ってこさせていた。


 「エルハイミ、お肉が足りないわよ!もっと持ってきなさい!」


 ライム様、あんた一体どこにその食い物消えてるんですか?

 あれだけ飲み食いを毎日しているのに全然太らない。

 アコード様でさえ最近は少しふっくらし始めているというのに。


 「今日はティアナも飲むがいいぞ、もうじきお前も成人だからな!」


 アコード様が楽しそうにそう言って初めてあたしたちは気づいた。



 もうすぐティアナの誕生日で成人じゃないっ!!??



 い、いけない、最近忙しくて失念していた。

 ティアナも同じらしくあたしの方を見て目をぱちくりさせている。


 と、使用人がメッセンジャーの通知が来たのを知らせる。

 今日は定期連絡の日じゃないわよね?

 緊急時や大切な連絡がない限りメッセンジャーは使われない。

 

 「お父様、王城から連絡が来ました。しばし失礼します。」


 そう言ってティアナはあたしを引き連れて風のメッセンジャーが有るあたしたちの部屋へ行く。


 * * *


 部屋につきさっそく風のメッセンジャーの魔道具を起動する。

 するとすぐに大臣の映像が現れる。


 『ティアナ殿下、陛下からのお達しをご連絡いたします。今より一月後、殿下の成人を祝い王都にて祝賀会を開きます。どうぞご準備くだされ。私共一同お祝い申し上げます。』


 メッセージはこれで終わりであった。

 ティアナは了承のメッセージを送って魔道具を止める。


 「ふう、忙しい最中今度は祝賀会かぁ、うれしいけど今はちょっと憂鬱になるわね。」


 「ふふっ、それでもティアナの顔はうれしいそうですわよ。そうですわね、ティアナもとうとう成人ですわね。おめでとうございますですわ。」


 「うん、ありがとエルハイミ。」


 そう言ってあたしたちは軽い口づけをする。

 

 * * *


 さて、そうするとこのひと月間に何とか問題を解決しなければだ。

 備蓄確保となると、あとは個人の資産を売却してお金を作るくらいしか方法がないなぁ。


 あたしがそんなことを思いながら宴会場に戻ると、既にシェルが巻き込まれ始まっていた。


 「ティアナよ、どうであった?なにか急ぎの話であったか?」


 「いえ、お父様別段急ぎの話でなく、私の成人の祝賀会を一月後に開くと言うものでした。」


 ふむ、とアコード様は唸ってから懐からごそごそと革袋を引っ張り出す。

 それをティアナに渡してきた。


 「お父様、これは?」


 「物入りになるだろう、少ないが使うがいい。」


 言われて袋の中を見ると、大判の金貨がごっそりとある。

 

 「お父様、こんなに!?」


 「お前がここを離れるにはその間運営できる物資が必要だろう、それの足しくらいにはなるだろうからな。それと早いがこれもやろう。」


 そう言って再びアコード様は懐からごそごそと何かを出した。

 そしてティアナに手渡す。

 それはきれいな首飾りだった。

 中央に輝くルビーはティアナの髪の毛によく合う色合いで一目で普通のルビーでは無いように見える。


 『あら、珍しい【身代わりの首飾り】じゃない?よくこんな珍しいもの持っていたわねアコード?』

 

 「流石シコちゃんですな。一目でわかりましたか。実はこれを探して国内を回っておったのですよ。我が娘ティアナの事だ、どんなやんちゃをするか分かったものではないですからな。」


 そう言ってアコード様は父親らしい笑いをする。


 「シコちゃん、【身代わりの首飾り】って何ですの?」


 『ああ、昔魔法王国の貴族たちが何かの時の為に作り上げた珍しい魔法具で、たとえ体が塵になるような攻撃を受けても一回だけはこの首飾りが装着した者の身代わりになるって代物よ。自然死、病気でもない限りその効力は絶大だったわ。』


 なんと古代魔法王国のレアアイテムだったのか!?


 「お父様、そんな貴重なものを・・・」


 「あの時お前が交渉の最前線に出るとは思いもしなかった。私は一戦は覚悟していたのだからな。しかしその後、自身を犠牲にしてまでも勝負を挑み時間を作ったと聞いたときには今後もお前は最前線に出たがると思ってな。全くアテンザ以上のおてんばだ。父親としてそのくらいはしてやらんとな。」


 そう言って安酒をおいしそうに飲み始める。

 

 「エルハイミ殿、先ほど渡した金で酒代位出るだろう?ティアナやエルハイミ殿も飲める酒も買ってきてくれ、今宵は付き合えよ。」


 そう言ってニヤリと笑う。

 あたしは降参してティアナから渡された革袋の中を見ると・・・


 え”っ!?


 なにこれ、さっきちらっと見た時には気付かなかったけど最高位のガレント大金貨じゃないっ!!

 通常の金貨の百倍の価値が有る。

 と言う事はこれだけあれば・・・


 越冬問題も十分解決して更に余裕が出来た。


 楽しそうに酒を飲み始めるアコード様を見ながらあたしはため息をつく。

 流石次期国王様、御見それいたしました。


 


 あたしは使用人を呼んで上等な蒸留酒や果実酒を買ってくるよう頼むのであった。

 

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