第161話6-33お迎え
6-33お迎え
「ただいま戻りましたわ!」
あたしは実家についた。
しかし、なんか雰囲気がおかしい。
いつもの出迎えに出ている人がずいぶんと少ない?
馬車から降りるとママンが真っ先に出迎えてくれた。
「あらあらあら~エルハイミ、お帰りなさい。帰ってそうそうなんだけど一昨日からお爺様が調子が悪くてね、出来ればエルハイミもすぐに会いに行って欲しいの~。」
「お爺様が!?わかりましたわ、お母様すぐにお爺様の部屋に行きましょうですわ!!」
あたしは挨拶もそこそこに急いで爺様の部屋に向かう。
* * *
部屋の周りは騒然としていた。
「あ、エルハイミ様、良かったお戻りになられて。これも女神様の思召し。ささ、どうぞ中へ。」
丁度部屋の前でメイドたちに指示をしていたエルザメイド長はあたしの姿を見るや否や急いで部屋の中へ招き入れた。
「ただいま戻りましたわ、一体どうしたのですの?お爺様は??」
部屋に入ると爺様のベットの周りに人が集まっていた。
え?
何これ?
「おおっ!エルハイミ!!よかった、すぐにこちらに来なさい!」
あたしが帰ってきたのをいち早く気付いたパパンがあたしを爺様のもとへ招き呼ぶ。
なによこれ?
あたしは既に気付いていたが心がその事実を拒否する。
一歩、また一歩と爺様のベットへ近づく。
そして見てしまった。
かろうじて命の灯を保っている爺様の姿を!
「お、お爺様っ!!」
駆け寄るあたし。
最後に見た時より少しやせたその顔は重い瞼をわずかに動かした。
「エルハイミか・・・?」
あたしは爺様に近づく。
すると爺様は重い瞼を必死に広げあたしを見る。
「おお、エルハイミ・・・おおきくなったな・・・そして・・・美しくなった。」
そう言ってあたしに手を差し伸べる。
「お爺様・・・」
あたしはその手を両手でとる。
その手は既に熱が少なくなっていた。
「最後に・・・お前に会えたことを女神に・・・感謝する。エルハイミよ、お前が嫁ぐまでは・・・ダメだったな。許してくれ。」
「何を言うのですお爺様!気をしっかり持ってくださいまし!!お爺様にはまだまだお話したいことがたくさんありますのよ!!」
だめだ、目が涙でかすんできた・・・
「エルハイミはお話が・・・大好きじゃったな・・・だが、すまんな儂ももう駄目なよう・・・じゃ・・・」
ちょっ!
ちょっと待て爺様!!
「お爺様!気を、気をしっかりお持ちくださいですわっ!!」
しっかりと爺様の手を握る。
すると爺様はにっこりとほほ笑んだ。
いやだっ!!!
爺様!!!
あたしは回復魔法を発動させる!
でも効果がない!?
魔力を注ぎ込む!!
でも活性化しない!!
だったら治癒魔法で・・・
「やめなさいエルハイミ。」
いきなり聞こえたその声に振り返るとライム様が立っていた。
ライム様はあたしの横まで来て優しくほほに手を当ててくれた。
「優しい子ね。でもエルハイミ、イーガルに無理をさせてはだめ。この子は天寿を全うしたのよ。」
そう言って今度は爺様の頬にやさしく手を触れる。
すると一瞬だけ爺様は目を見開き驚きの表情を取る。
「あなた様は・・・お、お母様?」
「そうよ、イーガル。迎えに来ました。安心なさい、あなたの子供たち、孫たちは良い子に育ちました。これからもハミルトン家の者として恥ずかしくなくして行けるでしょう。」
この場にいる誰もがライム様から放たれる慈愛のオーラに圧倒されている。
「ど、どなたなのだこのメイドは?」
パパンが疑問を口にする。
するとライム様は爺様に向かったまま答える。
「私はあなたたちガーベルの血につながる者全ての母、ガーベルの妻にして始祖母ライムです。」
ざわっ!
ここにいる人全員がざわめき驚く。
しかし爺様だけは安らかな笑顔になっていた。
「始祖母様でしたか・・・そのようなお方に・・・最後にお会いできるとは・・・エドワードの奴にあの世で・・・自慢してやらねばな・・・」
そして爺様は最後に大きな息を吐いて握っていたあたしの手を力なくすり抜けた。
「お爺様っ!!!」
ざわっ!!
「お父様!」
「お爺様!」
「お爺様っ!!」
「お義父様!」
家族みんなが一斉に爺様に詰め寄る。
しかし爺様は二度と反応を示さなかった。
ライム様はそっと爺様の額にキスをしてこう言った。
「お疲れ様、イーガル。ゆっくり休みなさい。」
あたしはもう一度爺様の顔を見る。
それは安らかに安堵のほほえみを称えていた。
ぶわっ!!
視界がゆがむ。
喉の奥から言葉にならないうめき声が出る。
あたしはたまらず爺様の手をもう一度とりそのまま涙する。
「エルハイミ・・・」
いつの間にか来ていたシェルがあたしの肩を抱いてくれる。
あたしはシェルの薄い胸に顔をうずめ涙する。
どよっ!
周りのどよめきにあたしは顔を上げた。
そしてどよめきの元を見ると爺様の体から光る球体が浮かび上がっていた。
ライム様はそれを両手でやさしく抱き留め、愛おしそうになでる。
「イーガルの魂は私がセミリア様のもとへ連れていきます。みんなはイーガルの体を丁重に葬ってあげて。その魂の対価が十分であればこの子はまた人の世に転生できるかもしれないわ。」
そう言ってライム様はもう一度あたしを見る。
「エルハイミ、今は悲しんでもいいわ。でも定め有るものはいつか必ずこうなってしまう。その時あなたはどうするか考えなさい。いいわね、決して誤った選択をしない様に。」
言うと同時にライム様の体が光りだす。
そしてふわっとした感じで宙に浮く。
「そろそろ行かなければなりません。これでセミリア様との約束は全て終わり。エルハイミ、また会うこともあると思うけどそれまで元気にね。」
ライム様はそのまま虚空に溶けるように消えてしまった。
あたしはもう一度爺様を見る。
そしてシェルの胸でもう一度涙するのであった。
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