第160話6-32伝説の少女

 6-32伝説の少女



 伝説の少女と呼ばれる人が今目の前でジョッキにエールをくぴくぴと飲んでいる。



 

 「ぷはぁあぁぁぁぁっ!!これよこれ!やっぱり一仕事後の一杯は格別ね!!」


 なんかものすごくおやじっぽいこと言ってる・・・

 あたしたちは同じテーブルについて果実酒とかを出されているけど緊張しすぎて一口も飲めない。


 「あら?どうしたの?遠慮しないで飲んでいいのよ。ここはお母さんのおごりなんだから何でも好きなもの頼んでいいわよ?」


 にこやかにそう言うこの人はあたしたちの母親だと言い張る。

 いや、厳密には違うのだけど確かに血はつながっているらしい。


 『相変わらずねライム。ところであなたあの時死んだんじゃなかったの?』


 「ああ、あの時の話?あの『狂気の巨人』はああにでもしなければ撃退できなかったでしょう?仕方ないじゃない。ただ腐っても私もアガシタ様の分身、一旦魂はセミリア様の所へ行ったけど条件付きでアガシタ様のもとに戻してもらって復活したのよ。」


 そう言いながら美味しそうにエールを飲む。


 『で、こんなところで何しているのよ?』


 「うん?まあ最後の仕事をね。これが終わればセミリア様との約束は全て終了だからね。ちょうどユーベルトの街に用事が有ったからね。そうだ、あなたたちもユーベルトの街に行くんでしょ?一緒に連れてってくれない?」


 軽く言ってくれる。

 連れていくこと自体には何ら問題は無いのだけど、何なんだろうライム様から受けるこの感じ。


 「え、えっと、ご一緒にユーベルトの街に行くのは一向にかまいませんわ。ところでライム様、ユーベルトでは何をなさるのですの?」


 「あら、ずいぶんと他人行事ね。お母さんって呼んでくれてかまわないのよ?そうそう、ユーベルトの街で何するかだったわね。お母さん、セミリア様が選んだ人の魂をセミリア様の元に届けるお仕事しているの。勿論アガシタ様のお仕事も一緒にしているけど、セミリア様との約束のお仕事もこれで最後だからね。」


 そう言ってまたくぴくぴとエールを飲む。



 セミリア様にアガシタ様って両方とも現役の女神様じゃないの?

 それに復活したって?

 ぼんくらの浮気者って、魔法王ガーベルの事よね??

 なんか一気に神話や伝説が目の前に現れたような・・・



 『セミリア様にアガシタ様のお仕事ね?ずいぶんと忙しそうじゃない?でもあの女神たちが動いているってどういう事よ?』


 シコちゃんに質問されてれライム様は飲んでいたエールをピタッと止めて泡の口ひげをつけながら神妙な顔つきであたしたちを見る。


 「これは誰にも言っていない事なんだけど・・・」


 『だけど?』


 ごくり。

 女神様たちにやらされている仕事だ、さぞかし重要なものなのだろう。

 あたしたちはライム様の次の言葉を固唾を飲んでまった。


 「はっきり言って私にもわからない!」


 「「「『ぶっ!』」」」


 思わず吹いてしまった。

 ああよかった、果実酒口に含んでなくて。


 『ちょっと、何よそれ!!これだけ溜めといてそれっ!?』


 「だってあの女神様たちの事よ?アガシタ様は相変わらずわがままだしセミリア様は何考えているか分からないし、引きこもりだし。言われたことやってないと私の操が危険よ!」


 『子供産んどいて何が操よ!』


 するとライム様は自分のお腹下の方を軽く手でたたいて言い放つ!


 「復活したから新品よ!ちゃんと破れずついてるわ!また乙女に戻ったのよ!!」



 うおいっ!!

 なんか違う!

 あたしがイメージしていた伝説の少女じゃない!!

 あの清楚華憐でガーベルに常に寄り添っていた慎ましい伝説の少女じゃない!!!




 「全く、姉さまは相変わらずそう言った所のデリカシーが無いのだから。」


 その声はあたしの後ろから聞こえてきた。

 そしてポンと肩を叩かれる。

 

 「お久しぶりです、エルハイミさん。」


 「うわっきゃぁつっぁ!!!!」


 いきなり肩を叩かれあのおっかない気を放たれて肩叩かれれば誰だって驚くよ!!

 隣にいたシェルも髪の毛逆立ててふしゃーふしゃー言ってるしショーゴさんだって思わず席立ったじゃないの!!


 「れ、レイム様ぁ!?」


 「おや?驚かせてしまいましたか?それはすみませんでした。」


 「レイム、あんた何しに来たのよ!?」


 不機嫌なライム様。

 

 「いえね、姉さまのおごりと聞いてご相伴に上がらせにもらいに来たのですよ。」


 「ちっ!せっかくの私の出番を邪魔しに来たのね!?」


 「いやいや、そんなことはありませんよ。それにここに来たのはエルハイミさんに用事がありましてね。エルハイミさん、あなた本当に何者なのです?」


 そう言って顎に指をあてられ、くいっと頭をレイム様に向けさせられる。

 目の前にレイム様の顔が有りその瞳であたしの瞳の奥を見入られる。


 すべてを見透かされるその瞳からあたしは動けなくなる。

 背中をぞくぞくとした何とも言えない不快感が襲う。


 「うーん、やっぱりよくわからないな。」


 「こらレイム、私の娘に手ぇ出すんじゃないわよ!!余計な事したらただじゃすまないわよ!!」


 ライム様のその一言でレイム様はあたしを開放する。

 がくんと力が抜ける。



 うあぁー、きっついぃ!!



 あたしはものすごい脱力感を味わっていた。

 きっと気付いていないけどものすごい緊張と抵抗をしていたのだろう。

 今更ながらに汗が噴き出る。  


 『ちょっと、エルハイミ大丈夫!?』


 シコちゃんに声を掛けられはっと我に返る。

 いつの間にかシェルに抱き寄せられていたあたしは軽く頭を振って何とか持ち直す。


 「エルハイミ、あんた本当に大丈夫?顔色悪いよ??」


 「だ、大丈夫ですわ。ありがとうシェル。」


 レイム様いきなり出て来ていきなりこれ?

 勘弁してほしいわ。


 「レイム、あんた私の娘に何したのよ!?」

 

 「いえ、確認ですよ。上級精霊を四体も軽々使役できる人間がいるなんて脅威ですからね。一体どんな魂かもう一度確かめたのですがやはり分からない。シコちゃんたちが言っていた通りアガシタ様や始祖なる巨人様より更に他の何かとつながっているというのは分かりました。本当はエルハイミさんの魂を持ち帰ってアガシタ様に調べていただくのが一番なんですがね。流石にそれは出来ない。」


 店員に同じく果実酒と肉料理やスープ、その他酒のつまみになりそうなものを注文するレイム様。

 普通の人もこの異様な雰囲気は感じ取っているようで注文を受けたウェイトレスの女の子は慌てて厨房に逃げ帰っていった。


 「全く、人のおごりだからと。まあ、いいわ今日はしっかり楽しませてもらおうかしら。おねーさん、エールおかわりね!」


 ライム様もライム様でマイペースにエールを追加している。



 『で、レイムあなたエルハイミの魂確認だけ?』


 レイム様は届いた果実酒を美味しそうに飲んでいたがシコちゃんから質問を受けるとピタッと止まり神妙な顔でこちらを見る。


 「やはり気付きましたか、流石シコちゃんです。実は・・・」


 『実は?』


 あたしは自分の事なのでことさら緊張して次の言葉を待つ。

 ごくりとつばを飲む。


 「アガシタ様に見て来いって言われただけなんで特に他は何もないんですよ。姉さまがごちそうしてくれるのでそっちが一番の目的です。」


 「「「『うぉおいぃぃぃっ!!』」」」


 思わずみんなが突っ込む!


 

 『それだけなの!?アガシタ様の事だからエルハイミの魂を使って何か企んでるんじゃないの!?』


 「いやいや、平和が一番ですよ。僕も魔人戦争でこりごりですからね。あんな人間に合わせてちんたらやるのはもう嫌ですよ。大陸の一つくらいふっ飛ばしてさっさと片付ければよかったものを。」


 けらけら笑いながらとんでもない事をおっしゃってますよ、レイム様!!

 

 『そんなことしたら復興でもっとこき使われるわよ!じゃあ本当に他意は無いのね?』


 「だってあの四連型魔晶石核って今度のはちゃんと制御出来てこっちに何かを召喚するような事は無いんでしょう?こちらから多少のモノをあちらの世界に送るくらいならアガシタ様も大目に見るって言ってるんだからいいんじゃないですか?」


 そう言ってまた果実酒を飲む。

 そして届いたばかりの肉料理をおいしそうに食べる。


 「いやあ、人間界の食事だけは評価しますよ、このジャンクフード的なのはアガシタ様の所じゃ食べれませんものねぇ。」


 にこにこしながらお肉をほおばっている。

 

 でも四連型の事はアガシタ様もお許ししてくださるんだ。

 あたしは内心ほっとする。

 あれだけ苦労して作ったものがレイム様に没収でもされたらかなりへこむ。



 ん?

 四連型魔晶石核の事をなんでレイム様が知っているんだ??



 「あ、あの、レイム様。なぜ四連型魔晶石核の事ご存じなのですの?」


 「ああ、そうか、あなたたちの事はあのフェアリーを通してずっと見てましたからね。アガシタ様もあなたたちの事は面白がってずっと見てましたよ。ただ、異界の神を呼び寄せた時は流石に焦りましたがね。あちらの神様のお叱りの言葉だけで済んだのは幸いでした。」



 マリアを通して見ていた!?

 そうするとマリアが見てきたものは全部アガシタ様やレイム様には筒抜けだったの?

 それにあの異界の神様ってあのブレス光線がお叱りの言葉!!?

 威嚇の攻撃じゃなくて言葉だったの!!!???



 いろいろと愕然とすることを言われてあたしはすとんと椅子に座り込んでしまった。

 流石に神話レベルの人たち。

 想像を絶する。

 

 「さてと、たくさん飲み食いさせてもらったので僕はそろそろお暇します。あ、姉さまアガシタ様の分のお土産は僕が持っていくので支払いはお願いしますね。」


 「あら、もう行くの?あなたの事だから私たちについて来るとか言うと思ったのに。」


 「いえいえ、この先はあまり楽しそうじゃないので僕はここで帰ります。それでは皆さんご機嫌よう!」


 そう言ってレイム様は虚空に溶けるように消え去った。

 あたしは苦手なレイム様が居なくなってふっと息を吐く。


 「さて、じゃんじゃん行くわよ!エルハイミも食べて飲んで!そっちのエルフの子も遠慮要らないわよ!そこの男!お酒強いかしら?付き合いなさいよね!!」


 ご機嫌で飲み食いを始めるライム様。

 付き合わないわけにはいかない。



 あたしたちは意を決してライム様に付き合うのだった。 


 

 

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