第157話6-29帰国前夜
6-29帰国前夜
無事卒業式を終えたあたしたちは大使館で行われる卒業の祝賀会に来ていた。
フィメールさんはにこにこ顔であたしたちを迎えてくれた。
「殿下、それに皆さんご卒業おめでとうございます。本日はみな様のご卒業を祝いささやかではありますが宴の準備をいたしました。どうぞ心ゆくまでお楽しみください!」
そして大使館の職員やサージ君たち、ガレントに関与する人はほとんど呼ばれている。
「うあぁ~、豪勢ね!あ、珍しい果物もある!!」
「主よ、俺も参加していいのか?」
若干ガレントと言うよりあたしの関係者もいるけどその辺は気にしない。
「せっかくのお祝いなんですから大丈夫ですわ。フィメールさんには許可を取ってありますわ。」
そう言ってあたしは杯を掲げる。
「ティアナ卒業おめでとう!」
「ありがと、エルハイミもおめでとう!!」
あたしとティアナが杯を打ち鳴らす。
それを合図に周りも祝辞を言いながら乾杯が始まる。
和やかに、そしてきらびやかに祝賀会は進んでいく。
「明日はいよいよガレントに帰還かぁ。馬車に乗らなくてもいいのは助かるけどなんか実感わかないわねぇ。」
果実酒を飲んでいるティアナはぽつりと言った。
あたしはみんなの様子を見てからもう一度ティアナを見る。
「みんなこれから別々ですものね、今までずっと一緒だったのが嘘みたいですわ。」
そう言ってあたしも果実酒を飲む。
最近やっと薄いアルコールなら少し飲めるようになったけどまだちょっと苦手かな?
生前は浴びるように飲んでいたのにね。
「でもティアナ、私たちは一緒ですわよ。ガレントに戻って正式に国に従属したらティアナと一緒に北の砦勤務ですもの。」
「そうよね!みんなにはゲートや風のメッセンジャーが有るからいつでも会えるし、師匠にはいつでもボヘーミャに来ていいって言われたしね!」
嬉しそうに言うティアナ。
そう、あたしたちに限っては離れていても会えなくてもゲートや風のメッセンジャーが有るのでその距離感は皆無だ。
卒業論文が出来上がった後、ちょっとした発案で完成した風のメッセンジャーはとても優秀だった。
何せ魔力さえ込めれば誰でも使えるという優れもの。
試しにガレントに戻ってボヘーミャとの間で動かしたらモノの数分でメッセージが届いた。
形状は大きな貝のような魔道具で開いて起動してクリスタルの前に自分が立って伝えたいことを大体三十秒くらいまでに話をする。
そしてそのメッセージを送付すると受付側の魔道具のクリスタルの上にバストアップくらいでメッセージを送った人がうっすらと小さく現れメッセージを再生する。
動画状なので相手の様子も見取れるのが非常に好評だ。
おかげで宮廷会議に話をしたらすぐに予算がおりてガレント各所の砦や主要国家間での通信手段として採用が決まった。
この件に関してはソルミナ教授に一任されボヘーミャで高級魔道具として売り出されることが決まった。
おかげでソルミナ教授はホクホク顔。
来年の予算も即決で降りてソルミナ教授の研究室も生徒がだいぶ増えたらしい。
「そう言えば師匠は風のメッセンジャーを精霊都市ユグリアにも設置したいって言ってたわね。そうすればファイナス市長とも容易に連絡が取れるって。」
「全世界の情報収集はファイナス市長の方が強いですわよね、でも精霊都市と学園都市の間はソルミナ教授しか通信手段がなかった。それが直接できるのは素晴らしい事ですわ。」
通信の発展はすなわち情報の取得の発展になる。
情報を制する者は有事に二手も三手も有利になる。
ガレントの守りはあたしたちがいれば何とかなるだろう。
でも他の国はどうだかわからない。
師匠はガレントだけに協力するわけではない。
世界が平穏になる為には師匠は各国への協力を惜しまないだろう。
ゆくゆくはこの通信方法は各国に広まっていくだろう。
「そう言えば明日からまたあのゾロっとしたドレス着こまなきゃならないんだっけ。めんどくさいわね。ほんと制服って楽でよかったのに。」
あたしがいろいろと考えていたらティアナがポツリとそんな不満を言っていた。
そうだよね、明日から私服だもんね。
毎日の服のチョイスって意外と面倒なんだよなぁ。
そう言えば着れる私服ってまだあったかな?
あたしも最近はまた背が伸びたので服も新調しなければならない。
下着類は今までラミラさんやサリーさんにお願いしていたけど私服は頼んだことがない。
たまに街に出かけてよさそうな服は買っているけど公式の場ではないから簡易なものばかりだった。
今後は公人としての職務もあるからその辺は考えないといけない。
と、アンナさんが寄ってきた。
「殿下、エルハイミちゃん、衣服についてお悩みですか?」
にこにこ顔のアンナさん。
ピンポイントの質問と言う事は何かあるのかな?
「ええ、明日からの衣服について考えていましたわ。ティアナはドレスがいっぱいあるのでまだいいのですが私はあまり私服を持っていませんので今後買い入れなければですわ。」
あたしは軽く笑ってそう言う。
するとアンナさんは我が意を得たりと言わんばかりに詰め寄ってきた!
「そうですよね!衣服は選ぶのが大変ですよね!!ところで緊急時の衣服への着替えって大変だと思いませんか?そこでこんなものを作ってみました!!是非エルハイミちゃんに試してもらいたいのです!!」
そう言って大きめなブローチを渡してきた。
中央に魔晶石がはめ込まれたそれはちょっと厚みもあるものだった。
「アンナさん、これは何ですの?」
「学園の制服は非常に頑丈でしかも対魔処理がされていて生半可な魔法では着用している人物には被害が及びません。非常に優秀であったのは在学中に実感していました。しかし卒業後も学園の制服を着ているわけにはいきません。そこで開発したのがこのブローチにしまい込まれている高性能な衣服です。これは魔力を込め呪文で開放すると一瞬で衣服の着替えを終わりにしてくれるという優れものなのです!」
そう言ってあたしに試すよう言ってくる。
「なんか面白そうね、エルハイミやってみれば?」
「そうですわね、それではさっそく試してみましょうかしら?」
アルコールが入って少し気分のいいあたしはそう言ってアンナさんの指示に従って胸のブローチをつけ、呪文を唱える。
するとブローチが光ってあたしを包む!
謎の光に覆われてあたしの服がどんどん消えていく!?
最後には下着もきれいに消え去りぐるぐると回転しながら裸体がリボンに包まれる!!?
大事なところまでノーカットでご披露!?
ちょっと!?
これ皆に見えちゃうんじゃないの!!?
焦るあたしだがそんなことお構いなしにリボンで包まれたところが光ったと思ったらレオタードのようなアンダースーツに変わり、更に所々に光が集まったと思ったら飾りやミニスカート、フリフリのりぼんやロングブーツ、手袋に髪の毛が伸びてツインテールになり、髪飾りまでついて強制的に決めポーズをとらされる!!
「アンナさんっ!!これなんですぉっ!!!みんなに見えちゃったんじゃないですか!!?」
「大丈夫です!周りからは見えません!!私と読者にしか見えない仕様になっています!!!」
読者って何っ!?
そんな盛大な突込みを入れられずあたしはやっと決めポーズから解放される!
「エ、エルハイミ、何それ凄い恰好ね?動きやすそうな動きにくそうな・・・」
「なんというか、斬新なデザインですな。」
「エルハイミのリボンあたしの羽見たい!!」
ぴこ?×五
「あんた、なんて格好しているのよ、誰向け?ティアナ向け?なにその微妙にエロイ格好??」
みんな散々なコメントなんですけどぉ!!!
改めて自分のかっこうを見てみると生前のテレビで見た事のある魔法少女のような格好に?
「学園の制服を参考にもっと動きやすく、なおかつ防御性の高い素材をリボンで表現して軽さを追求しました!どうですかエルハイミちゃん!可愛いですよ!!!」
一人興奮しているアンナさん。
いやどうって言われてもみんなの評価が微妙だよ?
あたしだっていきなり魔法少女は困る。
と言うか、胸元とか太ももとか妙に露出が高いんですけどぉ!!
「これでシコちゃんが復活すれば完璧ですね、エルハイミちゃん!!」
「何が完璧ですのぉ!!は、恥ずかしいですわこの格好ぅ!!!」
「大丈夫です、慣れれば平気です、さあ殿下の分もありますよ!」
「えっ?あたしはいいわよ!遠慮しておく!!」
「大丈夫です、私やロクドナルさんの分もあります!ただ時間が無いのでロクドナルさんも同じデザインの服ですが!
「「「「それだけはやめて(ですわ)!!!!」」」」
みんなの声がハモってしまった。
「ところでアンナさん、わ、私の衣服は何処へ行ったのですの?」
「元の衣服はそのブローチの中に収納されています。今のかっこうを解除すれば元の姿に戻れますよ?」
「では早速解除をしますわ。」
あたしは解除の呪文で解こうとしたらアンナさんが慌ててあたしを抱きかかけてこの場を去った。
「ど、どうしたのですのアンナさん!?」
「エルハイミちゃん、ごめんなさい。もう辛抱溜まらなくて・・・じゃなくて、今解除すると元の服が出てくるだけで裸になってしまいます!!」
何か途中変なことを一瞬言ったような気がしたけどあたしは自分を見ると確かに裸だった。
あっぶなっー!!
とりあえず隣の部屋でいそいそと着替えるあたし・・・・
あれ?
あたしのパンツは??
と、ティアナが部屋に入ってくる。
「エルハイミ、落し物よ!!駄目よあたし以外に見せちゃ!!」
そう言ってティアナはあたしにパンツを渡してくる。
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
「も、もういやですわぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
久々にあたしの絶叫がこだまするのだった。
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