第135話6-7シェルの決断
6-7シェルの決断
あたしたちはルルさんについてエルフの村に急ぐ。
一緒に戦ったソルガさんは例の呪いを直接受け倒れてしまっている。
今は他のエルフの人と一緒に「緑樹の塔」に運ばれ安静にしているらしい。
この壺が原因で呪いが発生しているという事は分かった。
しかしその呪いを解く方法が見つからない。
師匠ならその方法を知っているかもしれない。
「みんな強制的に扉を開けるから決してはぐれないでね!!」
そう言ってルルさんは呪文を唱えソルガさんと同じくドライアードを呼び出し扉を開く。
そして来た時と同じように今度はルルさんについて扉の中に入っていく。
ルルさんについて走り抜けるあたしたち。
そしてあたしたちはエルフの村にたどり着く。
エルフの村は騒然となっていた。
前の呪いより強いと言っていたけど、どうやらかなりの強さの様だ。
既に被害が出始めていて宴会場には具合の悪い人がちらほらと横になって安静にしている。
「ファイナス市長!状況は!?」
ティアナが真っ先に見つけたファイナス市長に確認する。
「良くはありません。既にユカやマーヤは全身が黒く変色しています。メル様もだいぶ進行しています。」
「師匠は!?」
するとファイナス市長は数名が寝ている場所を指さす。
「マーヤもこちらに運びました。今癒しの精霊魔法を集中的にかけていますがあまり効果がありません。既にユカもマーヤも意識がありません。」
「エルハイミ、あの壺出して!ファイナス市長これについて何か知っていませんか!?」
あたしはあの壺を出す。
今更ながらこの壺をよく見ると、手のひら大の壺にはネックレスのようなものが巻き付けられていて、そのネックレスが壺と同化している。
蓋がついている壺はネックレスのせいで開けることは出来なさそう。
禍々しさ漂うそれをファイナス市長に見せるとかなり驚いている様子?
「こ、これが原因なのですか?まさか・・・」
「どういうことですの?ファイナス市長??」
「これはマーヤの流産した子供を入れた壺です。ユカがせめて静かに眠れるように『ハーフエルフの墓』に収めようと私も一緒に立ち会ったのです、間違いありません。」
「「!!」」
あたしたちは絶句していた。
これがあのマーヤさんの子供。
呪いの核として当時生まれることなくこの世を去った不幸な子供。
「ひ、ひどいですわ・・・せっかく師匠たちが安らかに眠らせていたのに!!また呪いの核に使われるなんて!!」
「それならこの壺を壊せばいいの!?」
ティアナはファイナス市長に聞くが代わりにアンナさんが答える。
「殿下、もう遅いようです。禍々しいマナは既にこの壺から消えています。多分、呪いが完成したのでしょう。」
アンナさんは首を横に振りながら下を向く。
何故だろう、あたしは涙を流していた。
「エルハイミ・・・」
「どうすればこの呪いを断ち切れるのですの!!?」
あたしは誰となく叫ぶ。
無力だ。
どうしたらいいの!!?
なぜかすごく悔しくて、そして悲しくて、もどかしさが心に充満する!
どうしたらいいの!!?
あたしは頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「マ、マーヤの『命の木』じゃ・・・ 今回もそこから儂らの『命の木』に呪いが伝染しておる・・・」
「メル様!?気が付かれましたか!!」
ファイナス市長が介護していた最古の長老、メル様は苦しそうにしていたがはっきりと言った。
「魔人王の魂が・・・アノード血を継ぐ子が母親の・・・『命の木』を媒介にまた呪いを広めておる。呪いの根源を断ち切れば他の『命の木』への・・・ 伝染は止まる・・・ 以前英雄ユカ・コバヤシがしたようにじゃ!!」
それってつまり今度はマーヤさんを殺せってこと!!??
呪いの元を断ち切るってことはマーヤさんを犠牲にしろってこと!!?
そんなことしたら師匠だって一緒に!!!
「そ、そんなのだめですわ!!」
「エルハイミ・・・」
「ティ、ティアナ止めて!マーヤさんが死んだら師匠も死んでしまいますわ!!何か、何か別の方法は無いのですの!!?」
しかし誰もあたしの問いかけに答えない。
みんな下を向いて押し黙っている。
頭では理解している。
一人の犠牲でエルフ全体が助かるのだから。
「だ、駄目よ!マーヤを犠牲になんて絶対ダメっ!!!」
声がした方を振り返ると涙を流しているあの少女、シェルさんがたたずんでいた。
「シェル、気持ちはわかりますが今はそれしか方法がありません。」
ファイナス市長の言葉が冷たく響く。
『エルハイミ、もしかしたら一つだけ方法があるかもしれないわ。でも、私もやったことのない方法。成功する保証はないわよ?』
「シコちゃん!?」
『エルフの【命の木】は精神世界に有るの。物理的には絶対に入れない世界。今の呪いはエルフの体ではなく精神からむしばんでいる呪いみたい。悪魔たちが好んで使うやつそっくりね。だから精神世界に行って直接その呪いを消し去ればもしかしたら・・・」
シコちゃんの声は限られた人にしか聞こえない。
「そ、そんな危険なことだめよエルハイミ!!」
『でも、エルハイミの特別な魂ならできるかもしれないわ。ティアナ、あなたの魂じゃ【命の木】の世界に押しつぶされてしまう。膨大な魔力を持ち、女神たち以上の何かとつながったエルハイミならできるかもしれないわ。』
あたしはティアナを見る。
そしてティアナのもとに行って人差し指を立てて話をする。
「ティアナ、きっと大丈夫ですわ。私はちゃんと帰ってきますわ。だって今晩のティアナへのお勤めがまだですもの。」
そう言って笑顔を作る。
するとティアナはいきなりあたしの頬をやさしくその両手で押さえ、口づけをしてきた。
ちょ、ちょっと待ってよティアナ!
うれしんだけど・・・その、みんなが見てる・・・
「エルハイミは言い出したら聞かないもんね。絶対無事戻ってきて!ずっと待ってるんだから!」
ちょっと涙目のティアナ。
「ぬ、ぬしら、我らエルフの為に・・・ シコちゃん本当にできるのじゃな!?」
『ええ、エルハイミならできるわ。でも問題は【命の木】の世界に行ってもエルハイミだけじゃどれがマーヤの木か分からない。何か見分ける方法があれば・・・』
「ねえ、さっきから何を話しているのよ?」
シコちゃんの声が聞こえないシェルさんは苛立ちを露わにしている。
そんなシェルさんにティアナはかいつまんで説明をする。
「これからエルハイミがあなたたちの『命の木』の世界に行って呪いの根源となるマーヤさんの『命の木』から呪いを消し去り伝染を止めるのよ!でも、その世界に行ってもどれがマーヤさんの『命の木』か分からないから今悩んでいるのよ!」
ティアナも少しいら立っている。
『誰かエルハイミと一緒に【命の木】の世界に行ってマーヤの【命の木】を教えてくれれば対処できるはずよ!メル!何とかならないの?』
シコちゃんはメル様に問う。
しかしメル様は首を振りながらこう言う。
「残念ながら自分の木なら見つけ・・・だせるじゃろう、・・・しかし自分以外の木を見つけるのは難しい。・・・親族かよほど仲の良い者でなければ・・・うっ!」
メル様の肌が黒さを増してきた!?
やばい、呪いが進行している!!?
急がなきゃ!
「あたしが一緒についてってあげる!!マーヤの事ならあたしが一番分かるわ!!」
シェルさんはそう言ってあたしたちの前に出る。
『時間が無いわ、エルハイミその子と一緒にあなたの精神を【命の木】の世界に送るわ!あたしに魔力を!そして壺とその子をマーヤの近くへ!さあ、急いで!!』
「わかりましたわ!シェルさんマーヤさんの近くへ壺と一緒に来てくださいですわ!ティアナ後は頼みましたわ!アンナさん、これからシェルさんと『命の木』の世界に行きますわ!シコちゃんには大量に魔力を注ぎ込みます、コントロール支援をお願いしますわ!」
あたしは癒しの精霊魔法を受けているマーヤさんと師匠の近くにシェルさんと壺をもって行く。
既に肌が全部黒くなったマーヤさんと師匠。
シコちゃんに大量の魔力を注ぎ込み、それをアンナさんに渡す。
シェルさんとマーヤさんの手をあたしは握りシコちゃんに準備が出来たことを告げる。
「シコちゃん良いですわ、始めてくださいですわ!!」
『アンナ聞こえないだろうけどちゃんと支えなさいよ、行くわよ!【次元解放】、【精神接続】、【転送】!!!』
シコちゃんの魔法が次々と完成していきあたしの意識はふっと失われ、『命の木』が有る世界に飛ばされるのであった。
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