第82話4-19英雄とは
4-19英雄とは
大和撫子修行をあたしとティアナは受けていた。
「ティアナ」
「はい、師匠お茶です。」
「エルハイミ」
「はい、師匠、肩をおもみいたしますわ。」
なんだかんだ言って大和撫子修行をすでに半年させられている。
なんと言うか、最近は名前を呼ばれただけで師匠の考えが分かる気がする。
これって、大和撫子じゃなくて夫婦じゃないか?
おーい、の声で大体が阿吽の呼吸のように分かってしまう昭和の風習。
あたしが記憶している前世の世界ではほとんど無くなっていたけど、テレビや本で見たことがある。
「時に、ロクドナルとアンナの状況はどうですか?」
お茶をすすりながら師匠は聞いてくる。
「はい、ロクドナルは順調に進みいよいよ心眼が開きました。アンナはやや遅れましたがやはり心眼が開きかかってます。」
ティアナは状況を報告する。
心眼とは人には見えないマナの流れを見極めることで、達人はそれを感じるのが限界らしい。しかし心眼を開きマナが見えるようになると人としての領分を超え、その恩恵は計り知れない。
多分、今のロクドナルさんは英雄に匹敵する剣技の攻撃力を持っている。
それはマナの流れを読み取り、鍛え上げられた剣技でドラゴンさえも一刀両断に出来るだろう。
剣技に関してはすでに師匠に追いつきつつある。
アンナさんもその魔道を極め、通常の魔導士には見えないマナの流れを見極めることにより、魔力の流れ以上にその魔法を理解できるのでその気になれば相手の魔法を打ち消す事すら可能になってきている。
ママンが俺やティアナの魔法を見ただけでその内容を正確に理解していたのは魔力ではなくマナの流れを見ていたからだ。
英雄は魂と体の同調ができると自然と心眼が開いたのと同じでマナや魔力の流れが見える。
そして魂から出でる女神の力を直接使って神の御業を使うので普通の魔術師や戦士は到底かなわない。
これが英雄たるものの強さの理由だ。
しかしどんなに頑張っても、たとえ魂と体の同調が出来たとしても、もともとの魂が女神とつながっていないものには英雄たちの様にはいかない。
だが、人を超えた領分の心眼にさえ辿り着ければ事は一転する。
場合によっては瞬間だけでも英雄に肉薄する。
かの英雄アノードが英雄の要素を持っていなくても英雄たちと肩を並べて魔人たちと戦えたのは心眼を開き人を超えていたからだ。
師匠はお茶を飲み終わり、静かに湯呑を置いた。
「では、そろそろ仕上げと行きますか。」
そう言って静かに立ち上がる。
ティアナが刀を師匠に渡す。
あたしがいつも師匠が羽織っているマントを師匠にかける。
そして師匠について試験場に行く。
試験場には木刀を持ったロクドナルさんが静かにたたずんでいた。
「ロクドナル、準備はいいですか?」
「これは師匠、勿論でありますぞ。」
ロクドナルさんに声をかけた師匠は無言で刀を抜く。
そしてロクドナルさんと対峙する。
五分、いや、もう十分になるだろうか?
二人とも少しも動かない。
あたしたちはただ静かにその様子を見ている。
と、あたしたちと一緒に来ていたマリアが手に持っていたビスケットを落とした。
それが地面に落ちるのを合図に師匠とロクドナルさんは動いた!
その動きは肉眼ではとらえられない。
あたしとティアナは同調をしているのでマナの動きで辛うじて何が起こったか分かった。
交差した師匠とロクドナルさん、交わした刀と木刀は何事も無かったかのようにそこにあったが、師匠の刀が パキンっ と言って真ん中あたりで割れた。
「お見事!ロクドナル!」
「ありがとうございます師匠!」
ぎりぎりの所ではあったがロクドナルさんの方がわずかに師匠のマナの流れをうわまった。
結果師匠の刀のマナ弱い所にロクドナルさんの木刀のマナの流れの奔流が競り勝ちマナの流れを断ち切った。
なので師匠の刀は割れてしまったのだ。
「ロクドナル、あなたに剣聖を授けます。先ほどの一瞬に増長せず励みなさい。」
「師匠、ありがとうございました!」
ロクドナルさんは師匠に頭を下げる。
剣聖、それはこの世界で剣の奥義に到達したものが得られる称号。
英雄とは違った意味で人々から尊敬され、そして剣を目指すものが憧れる存在。
現在剣聖は師匠を含め確か五人しかいないはず。
剣聖になるためには剣聖に打ち勝たなければならない。
ロクドナルさんはその剣聖の師匠に勝ったのだ。
「ふう、私も老いましたか。しかし、先程の一撃は確かに素晴らしかった。さて、残るはアンナ、あなただけです。」
そう言って師匠は試験場の壁際で静かにロクドナルさんたちの勝負を見ていたアンナさんに振り向く。
「師匠、私にはまだ・・・」
「いえ、あなただって既に心眼が開き始めています。先ほどのロクドナルの動き見えていたでしょ?」
アンナさんは黙ったまま肯定した。
「しかし、師匠・・・」
「始めます。しっかりしなさい。」
そう言って今度はアンナさんを試験場の真ん中に引っ張り出す。
あたしたちは端の方でその様子を見守る。
「本気で行きます。アンナ、気を抜くと死にますよ!」
そう言って師匠は周辺のマナだけでは足らず自分自身の魔力も使って師匠最強の魔法を発動させるのであった。
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