第三章

第26話3-1入学試験

3-1入学試験



 昨日はしっかりとタンパク質を摂取したおかげで朝食が少々きつい。

 まだまだ若い体なので十分に消化は出来るので心配はないが。


 朝食を取った俺たちは早速学園へ向かった。

 本日は重要な入学試験である。

 と言っても、最初級魔法を発動させるだけの簡単なものではあるが。


 というか、それってほとんどの人ができるんじゃないか?

 この世界では使用人だって明かりや水生成魔法が使える。

 


 で、馬車に揺られているわけだが・・・


 同席しているティアナがなんか機嫌悪い。

 昨日フィメールさんと話をした後からどうも機嫌が悪くなったようだ。

 ずーっとぶすっとされていてもこちらが滅入るので恐る恐る聞いてみる。


 「ティアナ、どうしたのですか?昨日から機嫌が悪いようですが?」


 ハタと気づいたかのようにこちらを見るティアナ。

 うーんと少し悩んだ後、エルハイミならいいかと言って話し出した。


 「エルハイミだから言うけど、フィメールから北のホリゾン帝国から留学生がだいぶ入ってきているって話なんだけどね、安全のために大使館に居住しないかとか言われたの。」


 「え?宿舎ではなく、大使館へ居住ですの?」


 「もちろん丁重にお断りしたわ。折角羽が伸ばせると思ったのにあんな所にいたんじゃ自由にできないじゃないの!」


 かなりおこの様である。

 まあわからんでもない、王城にいたときのあの猫かぶりを見ていればそうなるだろう。


 「で、宿舎じゃなきゃ嫌だって言ったら護衛を増やすって言ってきたのよ!」


 うーん、護衛の手前で地は出せないからそっちも激おこって訳ですね、ハイ。

 

 「でもティアナ、ロクドナルさんやアンナさんもいるのだしこれ以上護衛は不要なのでは?」


 「私もそう言ったのだけど、万一があっては遅いから後で護衛の人間をよこすって!」


 うーん、やっぱり信用されてないなぁ、ロクドナルさん。

 まあ、熱血漢で腕も多少は立つけど流石に一人じゃね。


 「まあ、その辺は置いといて、ごめんねエルハイミ、気を使わせたみたいね。」


 「いえいえ、かまいませんわそんな事。ティアナが不機嫌だと私もつまらなくなってしまいますわ。それに今日は一応入学試験ですからね。」


 そうね、と言ってティアナは大きく深呼吸していつもの彼女に戻った。


 

 

 さて、馬車は程なく街の中央にある学園についた。


 学園はかなり広大な土地の中にあるのだが、ここだけ城塞かと思うほど高く分厚そうな壁がめぐらされている。

 壁のところどころには宝珠をはめ込んだ塔が立っている。

 あれがうわさの結界なのだろう。

 事前に通知が有ったおかげで俺たちの馬車事すんなりと壁の中へ入れた。


 と、途端に強力な魔力波を感じる。


 ティアナも同じのようで、一瞬背中をぞわぞわさせるような風が吹いた感じだ。

 慌てて周りを見渡すが、特に何もない。

 感知魔術を使うと、なんて言ったらいいのだろう、常にもやがかかったような感じの微量なものがこの空間に充満している。

 どうやらこれが結界内の呪縛のようだ。


 「なんか嫌な感じね。」


 「ええ、これが結界内の呪縛なのでしょう。魔術妨害でしたっけ?」

  

 慣れればどうと言う事はない程度のものだがいい気分ではない。

 しかしこれは学園の安全を守るための必要な処置なので致し方ない。


 俺たちはそんな中校舎に辿り着いた。

 馬車から降り、校舎を見上げる。

 レンガ造りのそれはイギリスにでもありそうな普通の校舎だった。

 特に某魔法使いの映画に出てくるお城の様な学校ではなく、伝統的なヨーロッパの建物と言った風貌である。


 到着と同時に一人の初老の魔術師が俺たちを出迎えた。

 

 「よくぞおいでなさった、ティアナ殿下。私はこの学園の教頭を務めておりますゾックナス=ラインと申します。」


 教頭先生のゾックナスさんはそう言って宮廷風の挨拶をした。

 

 「初めましてゾックナス殿、ティアナ‐=ルド・シーナ・ガレントです。本日はお手数おかけいたします。」


 そう言ってティアナも宮廷式あいさつで返答をする。

 次いで、俺たちも順に挨拶をしていく。


 「それではティアナ殿下、こちらに。」


 そう言ってゾックナスさんは俺たちを講堂へと導いた。


 「話は行っていると思いますが、我が学園は魔術師を目指すものの学園。魔術の才能に欠けるものを入学させることはできませぬ。ゆえに殿下たちにも入学試験を受けていただく。よろしいですな?」


 「ええ、勿論でございますわ。重々に承知しておりましてよ。」


 「よろしい、では早速試験を始めましょうぞ。まずは魔術の基礎である「明かり」の魔法を使っていただく。」


 そう言ってゾックナスさんは俺たちに明かりの魔法を要求してきた。

 

 俺とティアナは以外は呪文を唱え始める。

 程なくサージ君を含め全員が「明かり」の魔術を完成させる。

 全員が指先に光る球を浮かべている。

 ゾックナスさんはまずは満足そうな顔をして俺とティアナを見る。


 俺とティアナは目で合図してからいきなり光る球を百個近く出現させる。

 そして光る球を俺たち周りにくるくると回転させる。


 無詠唱で魔術が使えることは知っていただろうが、いきなりこれだけの光球を出現させたので流石にゾックナスさんは驚いたようである。


 「こ、ここまでとは思いませんでしたな。いや、無詠唱でも驚きですがまさかここまで出来るとは。」


 目を見開いて驚いている。


 

 よっしゅあぁっー!

 馬車の中で憂さ晴らしにちょっとしたいたずらしようってティアナが持ち掛けてきたのであった。

 俺もこういったサプライズは嫌いじゃないのでその話に乗っかったのだが、ここまできれいに驚いてくれると嬉しい。

 

 「いやはや、話には聞いておりましたがお二方の魔術は規格外ですな。見事の一言ですな。」


 ゾックナスさんはうんうんと頭を上下させうなずいている。



 「おめでとう、我が学園は君たちを歓迎する。全員合格だ。」


 

 こうして入学試験は問題無く合格したのであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る