第13話 図書館フェスティバル

 鳴滝町立図書館では毎年10月の第3週の金曜日から日曜日までの3日間、図書館フェスティバルというイベントを行う。1か月前から図書館職員はこのイベントの準備を始めるので、この1か月間というのは、何かと忙しくなる。

 去年まで、このイベントの責任者をしていた野口さんが、役場の政策推進室に異動になってしまったので今年から僕が責任者をする事になっていた。


 9月10日の午後の休憩時間、休憩室で僕と吉岡さんと横田さんの3人で昼食を食べながら話をしている。

「田中副館長が今年は自分の紙芝居をメインステージでやりたいって言ってたよ」

 吉岡さんは自分で作ってきた弁当を食べながら話し始めた。

「うん……、こないだも今年で定年だから錦を飾らせてくれって言われたよ」

 僕は、少し困り顔で言った。

「とか何とか言って嘱託でしばらくいるつもりでしょ」

 吉岡さんは薄ら笑いを浮かべている。

「――しっ、声が大きいよ、吉岡さん」

 僕は小声で周りを見渡すしぐさをした。

「へへへ、ごめん」

「でも、一応メインステージでお願いするつもりだけどね。桃山幼稚園の園児にも人気があるし、『図書館のおもしろいオジサン』って言われて、最近有名らしいしね」

「ははは、そうだね」

 と、吉岡さんは笑った。


「でも今年は、なんと言っても、鳴滝町出身の声優の大城優さんの朗読がメインだからね、町長が直接お願いしてるし」

「――あっそうか、そんな事あったね」

「うん、そう」

「そういえば、大城優って同じ中学校だよね? 長谷川さんの」

 吉岡さんが持参している水筒のお茶をコップに注ぎ、それを一口飲んでから訊いてきた。

「うん、坂田中学の時の1年先輩。しかも、部活も一緒だったんだ、バスケットボール部で」

 そっか、吉岡さんは頷いた。

「どうだったの? その頃は」

 横田さんが、食べ終わった弁当をゴミ箱に片付けながら、興味ありそうに訊いてくる。

「モテましたよ、あの頃から。高身長で、イケメンで、しかも声もその頃から良かったですし……」

「うんうん、いい声芸人だけじゃなくて、顔もいいからね、彼の場合」

 横田さんは2度頷いた。


 そして、開催1か月前の今日9月16日、生涯学習部からの助っ人3名が加わりフェスティバル実行委員会の会議が役場の会議室で行われいる。

「……それで、日曜の15:00からの大城優さんの朗読会及びミニコンサートがあって、それが終わるとフィナーレで町長のお話となります。町長のお話の間も大城さんには残ってもらって、町長のご友人ということで紹介されます」

「――選挙対策だな」

 田中副館長がぽつりと言って、何人かは含み笑いをしながら頷いている。

 そして、隣に座っていた横田さんが、

「でも、大城さんって今、女の子の人気も凄いらしいね」

 と言った。

 僕は大きく頷いてから、

「多分、町内以外からも相当数のファンが来ると思いますので、今セキュリティ会社とも相談しています」

 と言った。

「ボディガード付きかよ、大物だな……」

 田中副館長が独り言のように呟いたので、

「――いや、ファン対策ですよ。町民とトラブルになると、まずいので……」

 と、僕は説明した。

 そっか……、と田中副館長は頷いた。


「それで紙芝居ですが……」

「――ほい、きた」

 田中副館長が、自分の出番とばかりに元気よく声を上げて身を乗り出す。

「初日、2日目は朝10時から1時間。最終日の3日目は大城さんの前の14:00から1時間お願いします」

「おいおい、そんなにやらされるのかよー。大変だな」

 と言いつつも、嬉しさを隠せない田中副館長と、それを横目で見ながら、薄笑いしている横田さんが目に入った。



 桃山保育園の園児が初日と3日目は全員来るそうなので場所の確保を、お願いします。

「なんか園児の追っかけもいて芸能人みたいですね、田中副館長」

 横田さんが調子よく田中副館長に言うと、

「かなわないなー、大城君と張り合っちゃおうかなー。ははは」

 と言って、彼はとても気分が良さそうだ。


「あと、毎年の事なので一応確認事項になります。図書館の駐車場には、ステージとゲームをするテントを2つ用意します。車でみえた方は、町役場の第3駐車場に案内して下さい。そちらに誘導する案内サインは図書館の第2倉庫にあります。案内係の横田さんのグループは当日の朝に準備の方お願いします」

「了解」


「あと大城さんの控室を用意するように言われてますので、図書館の作業室を控室にします」

「あんな汚いテーブルとイスでいいの?」

 吉岡さんが心配そうに訊いてきたので、

「助役室から応接セット借りて持って来ます」

 と答えた。

「えっ、わざわざ持ってくるの? ……さすが大物だな」

 田中副館長が驚いた様子で言っている。

「では各班の班長さん中心に準備の方進めてください。1か月間よろしくお願いします」

「はい」

「よろしく」


 いざ準備が始まってしまうと、毎年やっている事なので、特に問題も無く順調に進み、図書館フェスティバルは開幕当日を迎えた。

 フェスティバル当日、開幕式の直前までは、僕は専用のスマホで落ち着く間もなく各班に指示を出していた。しかし、いざ開幕してしまうと、平日の日中なので幼児を連れた母親や老人以外はほとんど利用者も来ないので、特に混雑もなく落ち着いている。

 そんな時、思いがけない訪問者が来てくれた。


 僕が外のステージで立っていると、図書館の隣に特別に設けた身障者用の駐車場に、車が停まった。

 そして、車から降りてきたのは……、

「にい……ちゃ」

「あっ、弓子ちゃん」

 父親に車椅子を押されながら笑顔の弓子がやって来た。後ろにいた母親が、お辞儀をしたので僕も頭を下げた。

 そして、弓子の父親が僕に近づいて来て、

「長谷川さん、いつも弓子がお世話になって、ありがとうございます」

 と、頭を下げた。

「いえ、友達ですから。ねっ、弓子ちゃん」

 弓子は嬉しそうに頷いている。

「――あっ、もうすぐ紙芝居が始まるよ」

「えっ、やった……」

 弓子は嬉しそうに両手を上げた。

 そして、弓子は田中副館長が演じる紙芝居を楽しそうに見ている。


 僕は、紙芝居が終わると、弓子の母親に、

「少し図書館の改修をしまして、車椅子でも入り易くなりましたので、どうぞ」

 と言って、図書館の中を案内した。今回のイベント用に飾られた図書館の中を見ながら、弓子は目を輝かせていた。

 そして図書館を出た所で、弓子の両親は、

「すいません、本当に色々していただいて……、弓子もとっても喜んでます。有難うございました」

 と言って、頭を下げた。

「いえいえ、じゃあ弓子ちゃん。また来てね」

 僕はそう言って、今回のイベントの景品を袋に詰めて弓子に手渡すと、

「わぁ! ありがと」

 と大喜びで帰って行った。



 夕方になって、学校が終わる時間になると、屋外のゲーム目当ての小学生や、ブックカバーの制作教室などに申し込みをした中学生らがやって来て、にわかに活気が出てくる。


 さらに地元の人気Web小説家の岸万作先生を招いて行われているWeb小説講座を聞きにきた高校生や大学生等が予想以上の人気になっていた。定員オーバーになってるからどうしようかと、担当している吉岡さんから連絡が入った。町外からの岸先生自身のファンの方も相当数いるらしかったので、僕は空いたスペースにパイプ椅子を並べて、それでも足りなかったら、後ろに立ってもらうように指示を出して事なきを得た。


 そして、特に大きな問題も無く、図書館フェスティバルは初日を終える……。



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