LIBRARY~図書館物語~

浅見とも

第1話 鳴滝町立図書館の朝

 埼玉県の北部、北葛飾郡にある人口4万6000人の鳴滝町の中心部、町役場の裏の小高い丘の上にある鳴滝町立図書館。築40年の2階建ての赤いレンガ造りの建物である。


 1階には8万冊の書籍が配架されている開架スペースに、児童コーナー、新聞、雑誌を読むブラウジングコーナー、視聴覚コーナーなどがあり、2階は32席ある学習コーナーと2部屋のミーティング室、そして地下1階は職員用のスペースと閉架書庫となっている。

 特に、職員用スペースには事務室、休憩室、作業室兼ミーティング室、そして閉架書庫には約12万冊の貴重な書籍や古い書籍、さらには貸出頻度の高くない書籍などを収蔵出来る電動式の集密書架がある。


 開館時間は9時から19時30分まで、休館日は基本的には月曜日となっている。

 僕、長谷川洋介は鳴滝町に職員として採用されてから5年、司書資格を持っているという事から、図書館司書としてこの鳴滝町立図書館に勤務している。


 2015年6月9日、今日僕は、朝礼当番として、朝の挨拶をしている。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「おはようございます」

「今日は、早番が僕と田中副館長。パートさんは、馬場さん、浅田さん、島田さんにお手伝いいただきます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 この図書館では、早番は8時から17時まで、遅番が11時から20時までの勤務となっている。


「今日は14時から児童コーナーで桃山保育園の園児12名に紙芝居の読み聞かせがあります。紙芝居舞台は僕が出しますので、紙芝居が始まる前に読み聞かせスペースに利用者がいましたら、他の場所に誘導お願いします」

「あっ、桃山保育園ってことは、京子ちゃん来るね」

 浅田さんが、馬場さんに小声で耳打ちしている。

「――浅田さん」

 僕は苦笑いをしながら、浅田さんを見ると、

「あら、ごめんなさい」

 浅田さんは、軽い感じで謝り、周りの何人かの人は含み笑いをしている。

「では、開館準備に取り掛かってください」


「――で、今日は京子ちゃん来るの?」

 朝礼が終わると、田中副館長が傍に寄って来て小声で訊いてきた。

「知りませんよ。家族でもないし、付き合っている訳でもないですし……」

 困った顔をしている僕を見て、意味ありげな笑みをしながら、田中副館長は新聞の整理に向かった。


 図書館の朝の準備は忙しい、まず8紙ある新聞の朝刊の差し替え、そして古くなった新聞を1週間、1か月といった単位でファイリングを行う。その日の新聞はすぐ取り出しやすいようにブラウジングコーナーにある新聞用の棚に並べる。朝の新聞は大人気で、もう9時になるのを今や遅しと外で毎日のように並んでいる人がいるくらいだ。


 そして、図書館システムの立ち上げ、引き継ぎ事項の確認や、昨日の夜に閉館してから返却用ポストに入っている本の取り出しをして、返却処理をする。そして、処理された本を書架に戻す配架作業をする。


 今日もみんなは小忙しく朝の開館準備を行っている。天気が悪そうな時は倉庫から傘立てを持ってきて玄関に置く。そこまで終わると、大体もう9時近くになっている。


 そして準備が終わり9時になると、僕はいつものように玄関の自動ドアを開けに行く。

 閉館中の看板を裏返して、開館に変えて、自動ドアのロックを外す準備をしていると、並んでいる近所の知り合いの老人に声をかけられる。


「おはよう、洋ちゃん」

 今日も、にこにこしながら加藤さんが近づいてきた。

「おはようございます。加藤さん」

「そういや、昨日、長谷川のじいさんにホームセンターであったぞ」

「何か、庭にベンチを作るって言ってから、その材料を買いに行ってたかも知れませんね」

 僕がそう言うと、

「相変わらず元気だな。まだゲートボールも現役だしな」

 と、加藤さんは笑いながら言った。

「ですね、――じゃあ開館しますね」

 そう言って僕は、自動ドアのロックを外すと、ドアが開き始めた。

「よっしゃ、今日は一番乗りだから、読売新聞読めそうだな」

「走らないくださいよ」

 微笑みながら加藤さんに声をかけるが、

「はい、はい」

 と言いながらも加藤さんは小走りでブラウジングコーナーに向かって行く。その後ろ姿を見ながら僕は、しょうがないな、と苦笑いをした。


 そして、そのまま玄関に立って、入館する利用者に朝の挨拶をするのが、僕の日課になっている。


 今日も鳴滝町立図書館は朝9時に開館をする。


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