151-光の柱の在処
<ドワーフの街 北の大通り>
南西の廃鉱から戻って来た俺達の目に最初に飛び込んできたのは、純白の雪に覆われたドワーフの街並みだった。
「……」
俺がこの風景を見るのは二回目だけれど、ずっと騒がしくて蒸し暑かった街が一転、死んだように静寂に包まれている街の様子に、必然的に皆は無言になってしまう。
今頃はセツナも中央広場の守り神……もとい、巨人召喚の要因となる石板を破壊している頃だろう。
ジェダイト帝国の経済支援が約束されているものの、ドワーフ達は心の拠り所を失ったうえ、これから一年以上も大変な思いをすることになる。
それを思うと正直なところ、とても心苦しい。
少なくとも、そうなるように仕向けたのは他ならぬ俺達なのだから……。
「本当は、もっと平穏無事に済む方法が見つかれば良かったんだけどな」
俺が辺りを舞う粉雪を眺めながらぼやくと、ハルルが俺の顔の前に飛んできて溜め息を吐いた。
そして俺の鼻をツンとつつくと、少しだけ怒り気味に、おねーさんぶった顔で口を開いた。
『未来を知ってるからと言って、なんでもかんでも全部思い通りになってほしいってのは、人の身でありながらおこがましいっすよ』
「っ!」
『完璧に全てが上手く行かないとダメなんて考えに囚われたら、こうすれば良かった、ああすれば良かったとか、そっちばっかり考えちゃうっす。それでも、私らは
「……」
理屈では分かっているんだ。
分かっていても……と悩んでいると、今度はフルルがふわふわと近づいてきて、俺の頭を撫でた。
「フルル……」
『少なくとも……街は爆発しないで済む。巨人も暴れない……ぜんぶ君達が頑張ったから。これじゃ……駄目なの?』
フルルにも諭されてしまい、俺はなんだか気恥ずかしくなってしまいながらも、ふたりに精一杯の笑顔を向けた。
「……ありがとうな」
『ま、カナタっち達のおかげで助かった私が言うのも変な話っすけどね』
そう言いつつ、くるりと振り返ったハルルの後ろ姿は、いつもどおり小さかったけれど、なんだかとても大きく見えた。
そんな姉の姿をじっと見つめていたフルルは無表情ながら嬉しそうで、少し微笑ましい。
……と、そんなやり取りをしていた最中、再び光の柱の立つ方へ目を向けたエレナが何かに気づいて『あっ』と声を上げた。
『あの光の柱が立ってる場所、宿の近くですよ!』
「……というか、あれってもしかして、アレじゃない?」
『アレって何さ……って言いたいところだけど、今回ばかりはオイラにもサツキちゃんが何を指しているか分かったよ』
サツキとユピテルが察していることからも分かるように、ここに居る全員が光の柱の発生場所の想像がついていた。
そう、光の柱……つまりコアが埋まっている場所は――
<ドワーフの街 天然温泉>
「やっぱりここだったか……」
『光の柱が出ているのは、恐らく屋外にある源泉のあたりですね』
エレナが指差した先には【ヤケドのおそれあり! さわらないでね】と子供にも分かるようにイラスト付き看板が立っていて、その向こう側にはゴツゴツした岩が積まれていた。
岩の隙間から湯気が漏れ出ている様子から、どうやらこの奥で湯が湧き出ているらしい。
「だけど、コアを掘り出しちゃって温泉は大丈夫なの?」
『うーん……。どうやら、例のコアがこの温泉の熱源への魔力供給も兼ねているみたいですね。掘り出しちゃうと温泉が涸れちゃうかもです』
「あっちゃあ……」
エレナの答えに、皆は途方に暮れてしまった。
というのも、セツナがこの街を守るために頑張っていた理由は魔王の命令もさることながら、それ以上に『お気に入りの温泉を守りたい』という強い意志あってのことだった。
しかし、コアを掘り返すとそれがダメになってしまうとなると、かなり話が違ってくる。
『そもそもセツナさんだって魔王にやれって言われて来てるんだし、温泉が止まっちゃったとしても、あのひと的には掘るしかないんじゃないの?』
ユピテルはそう言うものの、魔法陣を書き上げるや否や突っ伏して号泣したり、湯上がりにそのままの足で酒場に向かい、幸せそうにエールを一杯やりながら小躍りしてるセツナの姿を見てきた限り、そんな簡単な話では……っていうか、冷静に考えたらマジなんなのあの人!?
……いや、それはともかくとして、セツナにとってかけがえのない温泉の湯が涸れてしまうのはシャレにならないほどの大問題だ。
『ここで私達が掘り返したとして、あのひとに目的の
『ショックで卒倒する程度なら良いんすけどね』
『逆上して……襲ってきそう』
なにその最悪な展開。
「と、とにかくセツナと合流しよう! このまま独断で進めちゃダメな気がする!!」
というわけで、今頃大暴れしているであろう『魔王四天王
……なんだかワケがわかんないことになってきちゃったなぁ。
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