150-死にたくなければ走るべーーし
【聖王歴129年 白の月1日 同日】
<ドワーフの街 南西の廃鉱>
「ってわけで、演説の企画・演出・脚本、ぷれぜんてっどばーいサツキちゃんの提供でお送りしましたー!!」
『何いきなり叫んでるのさ?』
サツキが意味不明な雄叫びを上げているのを見てユピテルがツッコミを入れているのはさておき、俺達はセツナと共に廃鉱へ訪れていた。
奥の広い空間には見事に魔法陣が書き上がっており、一週間かけた超大作を前にセツナは感極まって涙を流している。
『やった……やったわ私! 努力はいつか報われるのよーーっ!!』
「なんだかなあ」
勇者パーティが廃鉱へと足を踏み入れた時、セツナは凄まじい殺気を放ちながら襲ってきた。
魔法陣に触れようとしたシャロンに至っては、不意打ちのウォーターボールの一撃で戦闘不能になるほどのダメージを受けることになったのだけど……。
「あれはつまり『私の汗と涙の結晶を触るな! ぶっ殺すぞ!!』っていう意思表示だったんだろうなあ」
『サツキさんに壊された時も、この世の終わりみたいな顔してましたもんねぇ』
そんなわけで、魔法陣の中心でくるくると不思議な踊りを舞っているセツナをのんびり眺めていると、外からパタパタとフルルが飛んで帰ってきた。
『王子の演説……うまくいった。僕の降らせた雪を見て……寒波がきたと勘違いしてる。ドワーフ達の避難誘導も……ばっちり』
「フルルぐっじょぶ♪」
目の前の魔法陣にはセツナの魔力が存分に練り込んであるうえ、発動するや否や一瞬にして街の周辺全てを凍結させるほどの威力がある。
発動したタイミングで外で作業していたドワーフ達は直撃を受けてしまうし、汗ばむほどの暑さから急激に極寒へ気候が変化するのは身体にも大変よろしくない……というわけで、フルルが空に向けて撃った威嚇射撃を「冬の始まり」と勘違いしてもらうように仕向けたわけだ。
『それじゃ早速やっちゃうから、みんなこっちで伏せててね~』
「あいあいさー」
俺達はセツナの誘導に従って、彼女の背中側へと回り身をかがめる。
かつて死の恐怖に追われながら逃げることしか出来なかった魔法を、その後ろから眺めることになるとは、なんともはや。
『インクルード・ウィモッド・エントリー!』
セツナのかけ声と共に魔法陣の中央が強い光を放ち、それと同時に廃鉱に地鳴りの音が響いた。
『これはスゴいっすね。毎日欠かさず温泉通いした甲斐あったって感じっす』
『びば……のんのん』
双子妖精のコメントに気が抜けつつも、俺達の目の前では両手を正面に構えたセツナが着々と詠唱を連ねてゆく。
魔法陣の中央の光が地面に刻まれた文様をなぞるように広がってゆき、最外周のリングを描いたところで、セツナはちらりとこちらに目を向けてきた。
『スキルを発動したらすぐに外へ出て。コアのある座標には光の柱が立っているはずだから、私が石板を破壊している間にあなた達はコアを掘り出して頂戴』
「了解!」
これからの流れを改めて確認したところで、セツナは再び真っ直ぐに正面を見据える。
そして術は完成した――
『インタラプト!!』
セツナのスキルが発動した直後、彼女の両手が砲台となって猛烈な魔力の渦が放たれた!
七日間の努力の結晶とも呼べるそれは、俺が今まで見たあらゆる魔法よりも強大で、魔力の渦に触れた廃鉱の壁面がみるみるうちにえぐり取られて行く。
「すっげえ……」
セツナが言うには魔法の効果は『探索』と『凍結』なのだが、魔力量があまりにも膨大過ぎるゆえに触れた物体が破壊されてしまうようだ。
道理で勇者達が逃げている間も、危機感知スキルがずっと警告を出してたわけだなー。
【頭上に高魔力反応 死亡リスク大】
「……あれ?」
何故このタイミングで危機感知スキルが反応するのだろう。
しかも頭上???
『えーっと、困ったことに、なっちゃった……かな~』
俺が危機感知スキルの表示に困惑している最中、セツナが少し気まずそうに声を漏らした。
『なんかここ、崩れそう』
「えっ」
『これが止まったら、みんな全速力でココから逃げてねっ!』
「!?」
ぽすんっ。
セツナがそう言った途端に両手から魔力切れの軽い音が聞こえ、廃鉱の頭上からゴゴゴゴゴ……と激しい地鳴りが聞こえてきた!
「全員撤退っ! 死にたくなければ走るべーーしっ!!」
『ひえ~~~~~っ!?』
何故かサツキが先陣切って外に向かって走り出し、それを皆で追いかけるという珍状況に!
慌てて全員がその場を離れた途端に、魔法陣のあった空間はガラガラと崩落してしまった。
激しい地鳴りが響き廃坑が崩れる中、俺達は一心不乱に走る!
「なんかすごい既視感なんだけど!!」
『ここから走って脱出するのは、必然の運命だったんですかねぇ』
やたら冷静なエレナの手を引いてひたすら走り、どうにか廃鉱から脱出成功。
最後にセツナとユピテルが同時に飛び出してきた途端、入り口が崩れ落ちるのを目の当たりにして、二人は半泣きで手を取り合ってへたり込んでいた。
「なんだ
『そうだけど、そうなんだけど! っていうか何その口調!』
ユピテルにそんなコトを言いながらも、少しだけ足が震えているサツキの頭をガシガシと乱暴に撫でてやりつつ、俺は北東へ真っ直ぐに目を向けた。
そこにあったのは天を貫く光の柱……。
きっと、あそこに巨人召喚の元凶となるコアがあるに違いない。
「あそこにあるコアを掘り出してくれば良いんだよな?」
『ええ。両手でぽんと持てるくらいの大きさだけど、カチカチに凍ってるのを素手で触ると凍傷になっちゃうから気をつけてね』
『私はぜんぜん平気ですよっ。氷水のお風呂だってヘッチャラですもん』
エッヘンと自慢げに言ってのけるエレナの言葉に、俺とセツナは顔を見合わせて笑った。
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