146-セツナの目的

【同日】


<ジェダイト領・灼熱の大地 ドワーフの街の宿屋>


 ドワーフ労働者御用達の温泉をしっかり堪能してきた皆プラス一名を連れて、俺達は宿へ戻ってきた。

 部屋に入ると、今回の戦いにおける最強の敵――だったはずの、魔王四天王永遠雪エターナルホワイトのセツナはぺたん・・・と床に正座で座った。


「椅子ありますけど?」


『私みたいなモブは床で十分だから気にしないで……』


 えーっと……。


「いったい何があったんだよ」


 キラキラ光る背中の翼も出てないし、冷たい笑みを浮かべながら攻撃魔法をバンバン撃つような冷酷な感じもさっぱり影を潜めてるし、何がどうしてこうなっちゃったのか。

 そんな俺の心情を察したのか、サツキはうんうんと頷くと事の経緯を説明し始めた。


「エレナさんったら、お風呂で鼻歌うたいながらのんびりしてたセツナさんを後ろから羽交い締めにして、首から下を温泉のお湯ごと氷漬けにしたんだよ」


「……はい?」


 え、なに、羽交い締め? 氷漬け???


「で、とんがった氷を突きつけながら『あなたの狙いを洗いざらい吐きなさい! さもなくばその命を頂戴しますよ!』って……」


「ホントなにやってんのっ!?」


 恐らく、魔法陣を描く作業に尽力したセツナは精魂疲れ果て、疲れた心と身体を癒しに温泉へ来たのだろう。

 ところが、不運にもちょうど同じ時間に来ていた『テンションマックスフィーバー状態』なエレナとバッタリ遭遇してしまい急襲された、と。

 サツキに魔法陣をぶっ壊されるわエレナに氷漬けにされるわと、今日一日の彼女の境遇を考えると他人事ながらあまりにも可哀想すぎる。


「魔王四天王って、ほんとエレナと関わるとロクなことになんねえなぁ」


『!?』


 俺の言葉に、セツナがぎょっとした顔で俺とエレナの顔を交互に見比べる。


『皆、あなたの正体を知ってますよ』


『……はぅぅ、最初から勝ち目無しだったのね』


 ガクリと肩を落としたセツナだったが、再び顔を上げて俺の目をじって見つめてから剣な表情で口を開いた。


『お願い! この街のドワーフ連中を助けるために協力してちょうだい!!』


「『えっ!?』」


 あまりにも予想外過ぎる言葉に、俺とユピテルだけが驚きの声を上げる。

 エレナや他の皆が特に驚いていない様子から察するところ、既に皆は一通り説明を聞いているのだろう。


「とりあえず、なんで魔王の手下がこの街を助けたがっているのか、そこから説明してくれる?」


『ええ、分かったわ』



……



 遙か昔、この世界に『異世界からの侵略者』がやってきた。

 当時まだ魔法の力を得ていなかった地上の民は為すすべなく蹂躙じゅうりんされ、あまりの強大な力を前にただただ絶望するしかなかった。

 そんな中、突如天空から石板が飛来し地上へ突き立つと、光を放ちながら巨人が現れた。

 巨人の力は絶大で、あまりにも強大な力を前に侵略者達は逃げ惑うものの、あっという間にすべて蹴散らしてしまった。

 外敵を討ち滅ぼした巨人の姿に民は喜び、神の奇跡によって地上は救われた。


 ――かのように見えた。


 ところが侵略者達を撃退した巨人は、あろうことか地上の全てを炎で焼き尽くし、やがては自らの炎に包まれて消えていった。

 そして、全てが灰燼と化した世界に遺された石板には、古代語で次のように書かれていた。


【世界に災厄が迫る時、再び蘇らん】



……



『~~というわけで、街の真ん中におっ立ってるデカい石板って、ドワーフ達が守り神とか呼んで崇めてるけど、その実態は超ヤバいシロモノなの。私はそれを未然に防ぐためにこの地へ来たのよ』


「なんて言うか、やたら既視感がある話だな……」


 ――石板から巨人が現れた。


 ――巨人が異世界からやってきた悪魔を撃退した。


 ――だけど巨人は見境無く暴れて破壊の限りを尽くした。


「これ、聖王都のドラゴンの森にあった石板から出てきた『救世主』と同じってことだよな?」


 数ヶ月前のこと。

 聖王都プラテナにおいて当時、聖王都中央教会の大司祭であった聖者ツヴァイが『世界の救済』という名目で石板の封印を解き、グレーターデーモンを召喚して暴れさせた事件があった。

 また、古くから同教会で使われてきた古い聖書には隠し文字で封印の解き方が書かれており、エレナが言うには次のような文面だったそうだ。



【対異世界侵略者用迎撃システム】

 これは当該世界における生命体の絶滅が確定した際、侵略者を迎撃する場合のみに実行する最終プログラムです。

 管理者が世界を救う事が目的ではあるものの、攻撃用召喚モンスターが敵や味方を判別する能力を有さないため、御利用は計画的に。



 その一件とセツナの話があまりにも合致し過ぎている。

 エレナも同意見なのか、俺の言葉に頷いた。


『だから、この人を連れてきたんです』


 連れてきたというか、脅して連行しただけだと思うんだけど……。

 と、それはさておいて、先の話を聞いてもまだ気になることはあるのは事実だ。

 俺は引き続きセツナへの質問を続けることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る