113-カタをつけにいくよ!
引き続きこれまでの経緯を聞かせてもらったけれど、意外だったのは「勇者パーティは状況報告のために二度プラテナ国へ戻っていた」ということだった。
一度目は俺達がフロスト王国へ行っている時、二度目はジェダイト帝国へ向かった時にちょうど入れ違いになったようだ。
だが、東側から聖王都へ戻ったということは――
『再びエルフの村へ帰られたのですね……』
「あんな騒ぎがあったのに、よく戻れたなぁ」
村長達の策略によって、愛しい弟を危うく自らの手に掛けそうになったレネットとしては、いくら生まれ故郷だとしても、再びエルフの村に顔を出すのはかなり気が重かっただろう。
だが、レネットは首を横に振ると、落ち着いた様子で語り始めた。
『カネミツが気を利かせてくれてな。先の一件については村長達に責任があるのに、私やユピテルちゃ――……弟が気を遣わなければならないなんて間違ってる、とね』
「へぇ」
今、さらっと「ユピテルちゃん」って呼ぼうとしてたな。
少し凜々しい感じにクールな口調は俺の知っているレネットと同じだけれど、こっちの「ちょっとドジっ子なほう」が素の彼女だというのは、既にバレバレである。
『村人の多くはあの場でユピテル
確かにレネットの言うとおり、イフリートの脅威を目の当たりにしたエルフ達には事実上、二つの選択肢しか無かった。
ユピテルを犠牲にして皆が助かるか、村人全員死ぬか……。
だからこそ俺がかつて見た世界では、レネットが自らの手でユピテルを殺める結末となってしまったんだ。
無論、俺の書いた記録を読んだユピテルも「自分が死ぬ未来」を知っているゆえに、それ以上は何も言えなかった。
『それともう一つ……』
『?』
『マールちゃんが会いたがってた……けど』
『うっ……!』
レネットの口から出た名前を聞いて、ユピテルはばつが悪そうにうつむいてしまった。
それを見たサツキはうんうんと頷く。
「なるほど、里に残してきたオンナだね。あたしの予想では、大人同士が決めた幼なじみの
『こういう時だけ察しが良すぎて逆に怖いんだけどっ!!? ……まあ、オイラ的にマールは妹みたいなもんだし、今さら戻ったってロクなことにならないよ』
誰とも目を合わさないようにうつむいたユピテルの表情はなんだか寂しげで、マールという子に対しても何やら思うところはあるようだ。
そんなユピテルに対し、サツキはウンウンと頷くと……何故か俺の肩をぽんぽんと叩いた。
「それじゃ、おにーちゃん。あたしとユピテルはこれからエルフの村に戻るね」
「『……は?』」
唐突すぎる宣言に、俺とユピテルの目が点になる。
「お前、いつものことだけどホント何言ってんの?」
「おにーちゃんこそ何言ってるのさ! あたしがここで尽力しなきゃいつするってんだい!」
『なんなのその口調……ていうか、サツキちゃんはオイラと結婚するんじゃなかったの?』
ユピテルの言葉に、今度はレネットが『うえええっ!?!?』と悲鳴にも似た声を上げた。
まあ、少し離れている間に愛しい弟がこんなヤバげな人間の小娘と婚約してるとか、そりゃビックリだよね……。
だが、固まったままのレネットを放置したまま、サツキはユピテルの頭をぺしぺしと叩く。
「二兎を追いかけるような不届き者があたしを射止めるなんざ百年早いね! 自分で白黒ハッキリ付けるべしべし!!」
「なんなのその口調」
思わずユピテルと同じ言葉をぼやく俺を見て、サツキはフッと鼻で笑うと改めて
「さあさあ急ぐ急ぐっ! おにーちゃん達よりも先に全部カタをつけちゃうよっ!」
『えっ、ちょっと、サツキちゃんっ? ――って、えええええーーーーっ!?』
そして食事を猛スピードでかっ込んだ我が愚昧は、本当にユピテルを連れて店を出て行ってしまった。
……って、え? マジで???
「ホントなんなの……」
『は、はわわわわ、ユピテルちゃん……はぅぅぅ……ひぅぅぅ』
もはや凜々しさの原型を全く留めなくなってしまったレネットをなだめながら、俺達はただただ呆然とするばかりであった……。
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