104-数百年後も平和であり続けるために

『さて、ライカよ。先の話を聞いた上で、お前の考える"強さとは何か?"を教えてくれるか』


 ディノシス皇帝陛下に問われ、ライカは慌てて後ろを振り返った。

 俺達を見つめてくる彼の表情はとても不安そうだったけれど、俺達がしてやれることはただ一つ。


「思ったままを言えば良いんじゃないかな?」


『ですですっ!』


 俺とエレナに背中を押されて少しだけ安心したライカ王子は、再び父の方へと向いて自らの思いを口にした。


『強さとは、信頼できる家臣……いいえ、頼れる仲間に恵まれることであると考えます!』


 ライカ王子の言葉に、陛下は表情を変えずに頷く。


『御存知の通り、わたしはとても非力です。父上のように剣の才能もありません』


 厳密に言えば、ライカ王子には「魔王四天王を一撃で倒す」くらいに優れた魔法の才能はあるし、彼にはそのことも伝えてある。

 しかし口ぶりからも分かるとおり、魔術師ガルーディが失脚した現状においても、彼はウィザードに転職するつもりはないらしい。


『それでも、仲間を信じ皆で力を合わせれば魔王の軍勢すら撃退できる……。つまり、わたし自身が無力であるからこそ、大切なことに気づくことが出来たのです。これまでわたしを助けてくれた全ての方々との"縁"こそが力です!』


 ライカ王子が自らの経験に基づいて持論を語る姿に、近くで見守っているレパードは既に半泣き状態だ。

 すると、今まで黙っていたディノシス皇帝陛下が王子へと目を向け、意外な言葉を口にした。


『その認識には一つ誤りがある』


『!?』


 突然の陛下の言葉に、皆の顔へ緊張が走る。

 言葉の意味が分からず困惑するライカ王子へ歩み寄ると、陛下は自らの息子の小さな頭を優しく撫でた。


『先の戦い……実は、一部始終を見せてもらっていた』


『えっ……!』


 目を見開いて驚くライカ王子を見て陛下は満足そうに笑うと、俺にアイコンタクトを送ってきた。

 ……さて、そろそろネタバレといきますか。


「陛下が王城で待機しているってのが、そもそも嘘情報フェイクだったんだ。いくら信用してくれると言っても、国の未来がかかっている状況で悠長にするわけ無いだろ? 俺達が少しでもミスってたら、その時点で作戦は中断だったよ」


『うむ。私が玉座で踏ん反り返って兵をあごで使うような愚王なわけないだろう。むしろ、少しくらいは身体を動かしたかったのだがな』


『えええ……』


 まさかの事実を知らされ、ライカは唖然とするばかり。

 そんな王子に対し、陛下は自らの言葉で迷いを振り払う一言を告げる。


『つまり、お前は皆が想像する以上に指揮をこなしたわけだ。たった数人の兵だけで魔王の軍勢を撃退する程の結果を残しておいて"自身は無力"などと言われては、教育係のレパードどころか私の立場が無いぞ』


『父上……!』


『お前は自らを無力と言ったがそれは誤りだ。お前は決して無力ではない。お前を助ける為に協力者が集まり、その力を適切に扱うことが出来る……それは紛れもなくお前自身の力だ』


 そして、父は息子の手を強く握った。

 この行動は、ジェダイト帝国において『信頼』を意味している……。


『お前はもう十分に強い。よく頑張ったな、ライカ』


 ライカ王子は目を大きく見開くと、大粒の涙をポロポロとこぼし――


『う、うぅ…………うわーーーーーーんっ!!』


 人目もはばからず泣きじゃくるライカ王子の姿は、とても『強い力』からは程遠かったけれど、この場に誰も帝国の将来を憂える者は居ない。

 近い将来、ライカ王子は良い指導者として、この国を導いてゆくだろう。

 数十年、数百年後も平和であり続けるために……。


「神よ……この場へ居合わせてくれた事を、感謝致します」


『俺ァ神なんざ信じちゃいねェが……まあ、今だけはお前さんと同じ気分かな』


 神への感謝の言葉を述べて祈るアインツと、その隣で照れながら鼻を掻くレパードの姿に、俺とエレナは互いに向き合ってクスリと笑った。



 ――第八章 獣の国の王子ライカ true end.

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