084-シャロンとの再会
【聖王歴128年 黄の月 13日 同日夕刻】
「で、なんでアンタがここに居るわけ? しかもエルフまで連れてるし」
閉会式を終えたサツキ達が宿へと戻ろうとしたところ、魔法学校の女生徒三人が話しかけてきた。
彼女達は弓技大会の決勝戦で使う
そう、彼女の名は――
「シャロンちゃん久しぶりっ!」
「ええ、元気そうで何よりだわ」
魔法学校の最優秀にして最年少として名高い、天才魔法使いシャロンその人である。
以前までは極端に人との馴れ合いを嫌うゆえに悪評が多かったものの、最近では後輩の指導や新魔法開発の技術供与など他の魔法使いと関わり合う事も増えているらしく、実は今回のイベント協力も彼女が自ら申し出たものであった。
「ちなみにエルフだけでなく、妖精もいるよっ」
「えっ?」
すると、サツキの上着のフードがモゴモゴと動き……
『隊員一号ハルルっ』
『二号……フルル』
「!?!?!?」
サツキのフードから飛び出してきた二人の姿に三人はビックリ仰天。
それを見て、サツキはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「ばばーん! 実はあたし、
『ご自分で……どうぞ』
「……はあ、まったくあなたは相変わらずね」
シャロンは呆れ顔で溜め息を吐きつつも、キョロキョロと周りを見て、はてと首を傾げる。
「そういえばあなた、お兄さんやエレナさんは?」
「へっ? あー、今回はあたし達だけでハジメ村に帰ってるんだよ。だから、おにーちゃんとエレナさんは置いてきたっ!」
「置いてきたって……。ま、そっちのエルフの男の子が居れば護衛は問題無さそうだものね。遅くなったけど、優勝おめでとう」
『えへへー。ありがとな、ねーちゃんっ』
初対面の女の子に腕前を褒められたのが嬉しかったらしく、ユピテルは少し照れ気味に笑う。
だが彼は気づいていない。
大人びた話し方をしている目の前の少女は、ねーちゃんどころか自分よりも二つも年下だという事を……。
「で、もう一つ質問なのだけど。つい最近、あなた達のところに私の双子の妹が来なかったかしら? コロンっていう名前で、見た目は私にとても良く似ているのだけど」
「ううん、シャロンちゃんのお父さんとお母さんには前にお手紙を届けたときに会ったけど、妹ちゃんは見たこと無いよー」
「そう……」
サツキの答えを聞いたシャロンは、何やらブツブツと呟きながら難しそうな顔で考え込んでしまった。
「シャロンちゃん、何か伝言があるならおにーちゃんに伝えようか???」
「……いいえ、大丈夫よ。わざわざ聖王都からここまで来たのに、帰省を邪魔したうえトンボ返りさせるなんて悪いもの」
「そっかぁー」
実はフルルの
たとえ面識のあるシャロンが相手であっても、その事を明かせないのであった。
それがなんだか申し訳なくてサツキがシュンとしていると、シャロンは鼻で笑いながらサツキの額を指でちょんと押した。
「人の困り事に首を突っ込みたがるところはホントお兄さん似ね。でも、今あなたがすべき事は、実家に帰って御両親に元気な姿を見せる事でしょ? 私の事を気にかけてくれただけでも十分よ」
「……うん、ありがとう」
「ん~、ここで礼を言われるってのも、ヘンな話なのだけどね」
シャロンが苦笑する姿に釣られて、サツキも思わず笑ってしまった。
「さてと。もうすぐ日も暮れるし、そろそろ解散しましょうか」
「うんっ。それじゃ、今度はゆっくりお話しようねっ♪」
「ええ、また会いましょう」
そして皆で別れの挨拶を交わすと、シャロンは後輩二人を連れて魔法学校の方へと向かっていった。
『……あのねーちゃん、一見すると怖そうだったけど、なんだか人は良さそうだったなあ』
「おや、ユピテルにしてはちゃんと見ておるではないか。でかしたぞ」
『だから何なのその口調……』
「でも本質を捉えてないのが残念にゃりねぇ~」
『本質???』
~~
<魔法都市エメラシティ 宿屋>
『えええーーーっ!!?』
というわけで宿屋に戻ったあたしは、シャロンちゃんとのアレコレを一通りユピテルに説明してあげた。
もちろん、ユピテルと同じく「おにーちゃんとエレナさんの行動によって運命が変わった」という事もね。
『あれでオイラより二つも年下だなんて……』
「おにーちゃんなんて、二年間も一緒に旅してたのに知らなかったらしいからね~」
本来ならばシャロンちゃんは魔法学校を退学し、勇者カネミツに誘われて魔王退治の旅に出る運命だったのだ。
おにーちゃんも同じ勇者パーティの仲間として二年間も行動を共にしていたのだけど、シャロンちゃんが聖王都出身である事や、彼女が十歳である事すら全く知らなかったそうだ。
『……でもさ。本来死ぬはずだったオイラが言える事じゃないかもしれないけど……にーちゃん達、こんなに歴史を変えてしまって大丈夫なのかな?』
確かに、あたし達はおにーちゃんの日記を巡って旅を続けてきたけれど、その日記の中で書かれていた出来事では、ユピテルだけでなく子ドラゴンのピートやハルル、光の精霊スイメイだって本当は死んでしまうはずだった。
シャロンちゃんだって、誰にも言えない孤独の苦しみを抱えたままずっと命がけの冒険をしていたのだから、決して幸せではなかっただろう。
「……あたしは、おにーちゃんのやってる事は間違ってないと思う。歴史は変わっちゃうかもしれないけれど、それでもみんな幸せそうに笑ってたし、きっと良い事だと思うんだ。それにね――」
『?』
「ユピテルが死んじゃう世界より、こうやって一緒に居てくれる世界の方が好き」
『っ!!!』
今のあたしが自分の思っている事を、正直にユピテルに伝え――……って、あれえっ!?
『うぅぅ……ぐずっ、うえええぅ……うわーーーーーんっ!!』
まさかの大号泣ッ!!?
ユピテルは人目もはばからず、わんわんと大泣きである。
「ちょ、ちょっとユピテルっ!?」
『うぅぅ、オイラもサツキちゃんと会えて良かったよぅ! うわーーんっ!!!』
「やれやれ……」
あたしが困り顔で頭を掻いていると、フードの隙間からひょっこりとハルルとフルルが顔を出してきた。
『うんうん、良かったっすね少年』
『涙の数だけ……強くなれる』
「……まったくもうっ! しゃんとしなさいっ、男の子でしょうにっ!!」
昔おかーさんがおにーちゃんに言ってたみたいな事を口にしたあたしは、泣きじゃくるユピテルの頭を少し乱暴気味にガシガシと撫でてやりつつも、なんだか泣き虫な弟ができたみたいで、ちょっと嬉しい気分になるのであった。
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