エクストラステージ ふぇありーていまーず!

081-サツキちゃんとゆかいな仲間たち

 聖王都プラテナの東の森へ巨人が出現した事件からさかのぼること一週間――


【聖王歴128年 黄の月 11日 昼前】


<聖王都プラテナ 北街商店エリア>


「というわけで~……さすがに二人きりにすれば少しくらい関係が進展するでしょ大作戦スタートぉー、パフパフーッ!!」


『はあ』


 あたしの宣言に対し、早速ユピテルは空返事である。

 なんて失礼なヤツだ。


『でも、二人きりにしたくらいでどうにかなるもんすかね?』


『あれは……子宝の神ですら……さじを投石器で射出するレベル』


 頭の後ろから左右ステレオで早速ネガティブな答えが聞こえてきたけど、あたしは鼻で笑い飛ばしてやった。


「なあに、ああいう純情を気取ってるヤツらほど、ちょっと勢いつけてやればポーンッてやっちまうもんさ」


『表現が下品すぎるっ!!』


「ま、これで帰ってチューのひとつもしてなかったら、とっちめてやるさ!」


 そんなこんなで兄上殿の男気に期待しつつ、あたしは本題に入る事にする。


「そんじゃ、まずはエメラシティ観光に行こうと思うけどどうかな?」


『なんでさっ!? 実家に帰るんじゃなかったのっ!!』


 そう、予定ではこれから実家のあるハジメ村に帰るのだけど、ぶっちゃけ真っ直ぐに帰るのは面白くない。

 最速で行けば聖王都から実家までの道のりは、エメラシティ経由で一泊二日。

 しかも帰路はフルルの空間転移で一発。

 つまり十八日までに帰るとしても、なんと五日間も余裕があるのだ。

 これで何もしないなんて、たとえ天地が許しても、このサツキちゃんは許しまへんで!


「なので、あたし達はおにーちゃんの日記にない、新たなルートを開拓するのです!」


『はあ』


 ホントこの小僧ときたら、若者のくせに活気も冒険心も足りんね。

 この旅でその性根を叩き直してやるとするかな!

 あたしはユピテルの首根っこを掴むと、新天地……じゃないけど、心新たに懐かしの我が家へ向けて出発するのであった。



◇◇



「馬車の旅っては暇だねえ」


 おにーちゃんからそこそこ旅費をゲットできたので、相乗りではない馬車を借りたけど、よくよく考えると見知らぬ旅人と話す機会を逃したようなものだ。

 くっ、あたしとした事が不覚っ!


『オイラ、エメラシティに行くのは初めてだけど、どんなトコなんだい?』


「んー、魔法学校の生徒ばっかり歩いてて、街並みは聖王都を少しショボくして白くした感じ? あと、屋台飯が美味い」


『それ、街の人が聞いたら怒るよっ! まあ、ご飯が美味しいってのは楽しみだけど――……ん?』


 ユピテルが何かに気づいたのか、ショートボウに矢をつがえると、御者さんに一声かけてから遠くへ一矢を放った!


『ギーギーッ!?』


 微妙に鳴き声が可愛くない角の生えたデカい鳥が、慌てた様子でどこかへ飛んでいった。

 アレはたしかクレイジバードとかいう、少しアレな名前の鳥型モンスターだったかな。

 気性が荒いうえに倒してもロクな素材が手に入らないので、むやみに殺生せずに遠くへ追い払うほうが良い~とか、おにーちゃんが言ってた気がする。


「おお、ありがとうなボウズ。追い払う手間か省けたぜ」


『へへっ、こんなの朝飯前さっ』


 褒められて一切謙遜することなく、自信満々に喜んじゃうなんて、やっぱりまだまだ子供だねえ~。


『サツキちゃん、何ニヤニヤ笑ってるのさ……』


「んー、さすが良い腕だな~って思ってただけだよ♪」


『むー……』


 あたしの返事に対し、ユピテルは全く信用してないオーラ全開でジト目を向けてきた。

 あたしとて君の腕に関しては認めておるというのに、まったく失礼なヤツだな。


「しかしお前さん、若いのに良い腕してんな。ってことは、お前さん達はエメラシティで行われる弓技大会に出るのかい?」


「『えっ!?』」


 あたしとユピテルの驚く顔を見て、御者さんはガハハと豪快に笑った。


「その様子じゃ、どうやら知らねえみたいだな。魔法都市エメラシティは今でこそ魔法学校の学生さん達で賑わってる街だが、あの辺は獲物も多く、かつては狩りが盛んな弓手アーチャーの聖地だった時代があるんだ。その頃の名残で、当時からの祭りは今も残ってるのさ」


『へ~~!』


 さすが弓が得意と自負するだけあってか、弓手の祭りと聞いてユピテルは少しワクワクしているようだ。


「飛び入り参加も出来るらしいし、せっかくだから腕試しのつもりでやったらどうだ?」


「うんうん、それが良いよ。今度こそ汚名返上できるチャンスだよユピテルっ!」


『ちょっと待って! 参加するのは良いけど、オイラいつどこで汚名なんて献上してたのさっ!?』


 む、名誉挽回だっけな?

 まあそんなのどっちでもいいや。


「なんだか楽しそうな旅になってきたよーっ! わくわくっ!!」


『うーん、オイラは先行きが思いやられるよ……』



【同日 夕刻】



<魔法都市 エメラシティ>


「んじゃ、頑張れよボウズ達~」


「ありがとうおじさんっ」


 てなわけで、日が沈む前に無事エメラシティへ到着~っ。

 それにしても、前は都会に来たばかりのテンションアゲアゲで気づかなかったけれど、夕暮れ時は白を基調とした街が夕日で光ってて、なかなかロマンチックな風景である。

 また今度余裕がある時に、おにーちゃんとエレナさんを連れてきて、二人きりで街に放り出してやろうっと。


『サツキちゃんったら、また何か悪巧み考えてる顔してる……』


 悪巧みではなく、いずれ家族になるであろう精霊ひとを導く「恋のキューピット」という重要な使命ミッションなのだけどなー。

 自分でも理由は分からないけど、誰かの恋路が上手く行くのを見ると、とても気分が良いのである。

 ……と、そんな事を思っていると、リュックサックの中からハルルとフルルがポンっと顔を出してきた。


『ふぃー、よく寝たっす』


『充電満タン……パワー爆発』


 やたら静かだと思っていたけど、どうやらふたりともグッスリ爆睡していたらしい。

 結構揺れの激しい馬車だったのに、なかなかタフだなぁ。


『んで、これからどうするんすか?』


「実は……かくかくしかじか……ってわけでユピテルが弓の腕自慢大会? に出るのだけど、まずは宿探しかな?」


 今の時期は日が長いけれど、悠長にしているとすぐに暗くなってしまう。

 これでもしも宿が取れずじまいになろうものなら、このままフルルにプラテナに連れて帰ってもらうことになり「さすがに二人きりにすれば少しくらい (以下略)大作戦」が初日から台無しになってしまうので、それだけは絶対に回避しなければならない。


「それじゃ早速、前に泊まったのとは違う宿を探してみよー」


『なんでわざわざ……』


「やはり冒険といえば未知への挑戦だからねっ」


『どんどん帰省が遠のいてゆく……』


「それはそれっ!」


『え、えええぇー……』


 それからあたしは、情けない顔で肩を落とすユピテルの手をギュッと握り、宿屋の並ぶエリアへと踏み出したのであった!

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