050-臨時パーティ結成
【聖王歴128年 黄の月 3日 正午過ぎ】
俺達は国王の話を聞き終わった後すぐに宿屋で荷物を回収し、南西へと向かっていた。
「てっきり、ウラヌスは王女との結婚が目的だと思っていたんだけどな」
『もしかすると、カナタさん達が引き返したという塔の三階層よりも後で、お二人に何かあったのかもしれませんね』
エレナの言葉に頷きつつ、俺はサツキのフードの中からひょっこりと頭を出しているハルルに目を向けた。
「そういやハルルはウラヌス達と面識あるみたいだけど、前回会った時と比べて何か気になる事はあったか?」
『んー、これといって無いっすかね。神殿にアイスクリスタルを取りに来たのはだいぶ前だけど、その時もクルルって女の子は一緒にいて、他にパーティメンバーは居なさそうだったっすよ』
『あの子……ずっとくっついてた……二人らぶらぶ』
フルルが何とも独特なコメントを返してくれたけど、そうなるとやっぱり疑問が残る。
「ウラヌスとクルルって、どういう関係なんだろうなあ。
『状況に応じて、臨時で他のパーティと共闘くらいはしてるかもっすけど。どちらにしてもウラヌスが王女と結婚したら、今まで通りクルルと二人旅ってのは難しいと思うっすね』
俺自身が女の子と二人旅なんてした経験が無いから、どういう気分なのかは分からないけれど、確かにハルルの言うとおり今までと同じという訳にはいくまい。
それに次期国王という立場では、今後も勇者として魔王討伐の冒険を続けられるかどうかすら怪しい。
「はっ! もしかしてクルルちゃんは、勇者ウラヌスが自分ではなく王女様を愛していると知り、二人のために身を引いたっ!? そしてウラヌスの幸せを願い、独りで魔王を倒す旅に……うぅ、なんて
『最近、サツキちゃんがそういう見解に至るのを見ると、やっぱりサツキちゃんらしいなーって思うようになったなあ……』
「ちょっと、それどういう意味っ!」
ユピテルの冷静な意見に、サツキは頬を膨らしながら憤慨する。
だけど、実際そうなってしまう可能性はゼロではないし、単なるサツキの妄想だと笑い飛ばすのは尚早だろう。
「とにかく、急いでウラヌス達と合流しよう!」
◇◇
「おっ、君達も来たのだな。それでは、ここからは一緒に神々の塔へ向かうかい?」
「あ、ああ。じゃあ臨時パーティという事で……」
あれからノンストップで南西へと向かった俺達は、なんとお日様が真上に昇るよりも早くウラヌスとクルルに追いついた。
内心は追いつけるかどうか微妙だと思っていたので、こんなに早く合流できたのはホント予想外だ。
「このまま順調に進めば、日没前には神々の塔へ着くだろう。人数が増えれば戦闘もスムーズになりそうだが、ここからは強敵も増える。君達は連れの子供達がケガをしないように気をつけてくれ」
「はーい」
その「子供達」にカウントされているにも関わらずのんきに返事をするサツキを見て、ウラヌスは苦笑する。
確かに、俺らのパーティはどこからどう見てもイロモノだし、ウラヌスが心配に思うのも当然であろう。
すると、ちょうどタイミングを見計らったかのように、クルルが真剣な顔つきで杖を構えた。
「ウラヌス、敵がいるっ!」
「む!」
いち早く敵の気配に気づいたクルルが指差した先に、アイスゴーレムの姿があった。
俺達が海上で戦ったヤツの10分の1にも満たない~……と言うと語弊がありそうだが、要するに普通サイズのアイスゴーレムである。
相手はまだこちらに気づいていないらしく、先制攻撃のチャンスだ。
「でやあああああーーーっ!!」
アイスゴーレムに向かってウラヌスが全力で剣を叩きつけると、そのまま一刀両断――
ガイィィィーーーンッ!!!
いや、氷の表面がひび割れただけだった。
突然の奇襲を受けたアイスゴーレムは臆することなく、ウラヌスを叩き潰そうと氷塊の両腕を振り下ろす!
それを素早く回避すると、ウラヌスはひび割れに重ねるように何度も刃を叩き込む。
そしてクルルは……
「ウェポンブースト、スピードブースト、アクセラレーション、スロウ、スロウ、スロウ、シールドブレイク、ウェポンブレイク……」
連撃を繰り出すウラヌスへの支援魔法と、敵に向けたデバフを唱え続けていた。
それからしばらくして、戦闘は無事に勝利で終えたのだが、その戦闘時間たるやサツキが途中で見飽きて、雪原にかなり完成度を誇る雪だるまを完成させてしまう程。
客観的に見て、ウラヌスの戦闘スタイルは肯定的に言えば慎重ではあるが……ぶっちゃけ、単なるヘタレである。
「ふぅ、待たせたね。クルルもありがとう」
「お疲れさま、ウラヌス」
戦いを終えて満足げな二人に向かって「効率悪くね?」とは言えるはずもなく。
空気読めないランキングぶっちぎり一位独走中のサツキですら、彼らの戦いぶりに閉口している。
ユピテルも状況を見かねて、ヒソヒソと話しかけてきた。
『次からはカナタにーちゃんが倒せば良くない?』
「いや、それはそれで嫌味ったらしいし、どうにかフォローしてみるよ……」
俺はガクリと肩を落とすと、次からの戦闘の事を考えて気が重くなるのであった。
【聖王歴128年 黄の月 3日 同日夜】
「結局、日没までに着きませんでした!」
『今日は塔の前でキャンプですねえ』
エレナはのんびりとした口調で詠唱すると、周囲の雪をブロック状に切り出し集めて「かまくら」を作り始めた。
あっという間に出来上がった雪のコテージを見て、サツキが一番乗りで飛び込んでゆく。
「すごーいっ! 雪なのに、中あんまり寒くないよーっ!」
『あっ、サツキさんっ。そのまま座るとお尻が濡れてしまうので、何か下に敷いてくださいねっ』
「ユピテルくん、ヘイカモンッ!」
『嫌な予感がするからヤダっ!!』
少し場違いなチビッコ二人組のやり取りに、同じく塔の周りで野営をしている他の冒険者達の表情にも笑顔が浮かぶ。
「これだけ冒険者がいればモンスターに襲われる心配は無いだろうが、念のため用心して俺と君が交代で見張りしよう。それでいいか?」
「ああ、それで宜しく頼む」
俺はウラヌスの提案を承諾すると、かまくらの外に出て月明かりに照らされた神々の塔へと目を向けた。
明かりを取り込むための口の数から察するに恐らく全六階層からなる真っ白な建造物なのだが、ハルルとフルルの暮らしていた神殿と同じような見た目なので、もしかすると本当に神が建てたものかもしれない。
「あの上に何があるんだろうな……」
俺がかつて見た世界では、ウラヌスは誰よりも早く最上階層に到着し、王女との結婚を受け入れていた。
しかし、今おれの目の前にいる彼は、勇者としての冒険の日々を望み、王族になるのはまっぴらゴメンだと言っている。
この二つから導き出される答えは一つ……
――神々の塔の最上階層で、ウラヌスの考えを覆す「何か」が起こった。
あの塔を登れば、きっとその答えを知る事が出来るだろう。
「それに、前回は三階層でリタイヤしちまったもんな……」
シーフとしての性分なのか、ダンジョン探索を途中止めというのは、やはりあまり気分が良いものではない。
それにせっかく塔を登るのだから、一番上へ行ってみたいと思うのは仕方あるまい。
そんな事を考えていると、とんとんと肩を叩かれた。
何事かと思って振り返ると、そこに居たのはエレナだった。
「ん、どうした?」
『えっと……カナタさんとウラヌスさんが交代で見張りをすると言ってましたけど、もしも辛かったら、私も手伝えますから言ってくださいねっ!』
「へ? あはは、あまり気にしなくても良いって。でもまあ、眠気覚ましで話し相手になってくれると助かるよ」
俺がそう伝えると、嬉しそうにニコニコ笑顔を見せてくれた。
だけど、すぐに目を伏せたエレナは遠慮気味に俺のコートの袖をぎゅっと握った。
『あと、もう一つお伝えしたい話があるのですが……』
「もう一つ???」
エレナは困惑した様子で、周りをキョロキョロと見てから俺の耳元に顔を寄せてくる。
どうやら他の人に聞かれてはマズい話のようだが……。
『実は……ウラヌスさんとクルルさんは――』
そこでエレナから語られた話は、俺が思いもよらない事実だった。
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