039-反体制派の集う村

【聖王歴128年 緑の月 21日】


 俺達は最後の中継地となる三つ目の村の近くまでやってきた。

 このまま行くと、恐らく反体制派と名乗る覆面集団と遭遇する事になるのだが、それをどうやって撃退するかが問題である。

 俺がかつて見た世界では、カネミツとマリネラがイチャつく姿を見せられ続けて不機嫌になっていたシャロンがキレてしまい、ファイアトルネードを一発ぶちかまして強引に解決してしまったのだが……。


「反体制派なんちゃらをシャロンさんの魔法で一掃したんだったら、おにーちゃんのイフリートで同じようにやれば良いんじゃないの?」


「召喚獣を人に向かって撃つのはどうかと思うけど、せっかくだし試し撃ちくらいはしとくかなぁ」


 以前からイフリートの威力がどれくらいなのかを確認しておきたいとは思っていたものの、聖王都でぶっ放して甚大な被害が出てしまおうものなら目も当てられないし、山越えの最中に使った場合も山火事を起こす危険性があったので、なかなかその機会が無かったのである。

 今、俺達がいるのはだだっ広い平原であり、例え草むらが火事になってもエレナに消火してもらえば済む話なので、検証するにはちょうど良いだろう。

 てなわけで、御者さんに馬車を停めてもらって平原に降りた俺は、何もない原っぱの空に向けて封印の指輪を掲げた。


「イフリート召喚! なるべく炎を弱めでっ!!」


 俺の言葉と同時に指輪から眩しい光が放たれ――



ドッゴオオオオオオオーーーーーンンン!!!



 その直後、大地を揺るがす轟音とともに爆炎が大空を焦がし、浮かぶ雲にぽっかりと大きな穴を空けた。

 しかも、音と炎に驚いた馬車のお馬さん達が暴れて大混乱!!


「うっわ~……。手加減してコレとか、反体制派がどうとか言う以前の問題だね」


『カナタにーちゃんとエレナねーちゃん、こんなヤツよく倒したなぁ』


 チビッコ二人組がのんびりと感心する横で、俺とエレナと御者さんは三人で必死に暴れ馬をなだめるのであった……。



◇◇



 そんなこんなで、反体制派の覆面集団をイフリートで鎮圧するのを諦めて「万一の時はエレナが水属性魔法で対処する!」という事に決まり、一路は村へ向かった。

 村に入るや否や何とも重苦しい雰囲気に思わず息が詰まりそうになるが、何かに気づいたユピテルが慌ててこちらへ振り返った。


『カナタにーちゃんっ。村の中央に人だかりが!』


「っ!」


 トラブルに巻き込まれる恐れがあるので御者さんには宿で待機してもらい、俺達四人は急いで村の中央へと向かう。

 すると、村の中央では覆面の集団と騎士達が対峙していた。


「覆面の奴らが反体制派で、あの騎士の紋章は……プラテナ騎士団だな」


「てことは、あの人達はお城から来てるの?」


 サツキの問いかけに対し、俺は人だかりに目を向けたまま頷く。

 だが、俺がかつて見た世界では、村に入ってすぐに覆面集団に囲まれてトラブルになったうえ、騎士団と遭遇する事すらなかった。

 やはり「前回」とは違うのか……?

 と、そう思っていた矢先、覆面集団のリーダーらしき男が手を挙げて叫んだ。


「我々はお前達の脅しには屈しない!!」


「脅しだと?」


「村の外で起こした爆発で我らに降伏を要求するつもりだろうが、そうはいくものか!!」


「何の事だっ!!」


 ぐはっ!

 こ、これは大変マズい事になってしまった気がする……。


『あの方達が言っているのってやっぱり……?』


「うーん、どうしたもんかなぁ」


 俺のぶっ放したイフリートを、見事に騎士団がやったものだと勘違いされてしまったようだ。

 冷静に考えれば、騎士団の人達がどうやって空を貫くような火柱を打ち上げるのかって話なのだが、そんな事情を知らない反体制派の連中にとっては、自分達に向けた威嚇に見えてしまったのだろう。

 単なる勘違いとはいえ、反体制派と騎士団の雰囲気はまさに一触即発。

 今にも爆発しそうだ。


『あの、カナタさんっ』


「んあ、どした?」


『反体制派の方々は、なぜ対立しているのでしょうか。どうして同じ国の人間同士で争わなければならないのですか?』


 確かに、今までエレナと一緒に旅をしてきて、種族の違いや私利私欲による争いはあったものの、今回のように人間同士による思想の違いによる衝突を見るのは初めてだ。

 エレナがピンとこないのも無理はないだろう。


「えーっと……。今、俺らの暮らしてる大陸はプリシア姫やライナス殿下の親父さん、つまり国王陛下が統治してるんだけど、そのやり方が気に食わない~ってのが、あの覆面姿の方」


『つまり彼らは国王を亡き者にして、その座を奪うのが目的なのですか……?』


 悲しそうにエレナが呟くと、覆面男がギョッとした顔でこちらを向いた。


「違うっ! 我らは国王の座や命が目的ではない! 我らの目的は他種族への差別の撤廃と平等を求めて、人間中心社会の是正を……!!」


「それ、プリシアちゃんが今めっちゃ力入れて取り組んでるやつじゃん」


『だよね』


 サツキとユピテルの会話に、覆面男の目が点になる。


「プリシア……ちゃん? それは、プリシア王女の事かい???」


「うん。あたし友達だし」


 サツキの言葉に反体制派連中がざわつく。


「しかも、プリシア王女が他種族への差別撤廃に向けて尽力している……と?」


「うん。プリシアちゃんが親友のドラゴンの為に色々と頑張ったからね~。これから頑張って、エルフや他の種族が皆で仲良くできる世の中にしたいって言ってたけど。おじさん、知らなかったの?」


 あっけらかんとサツキが言う姿に、反体制派一同が膝から崩れ落ちる。

 そして、その姿を見た先頭の騎士が一言。


「私はそれを伝えに来ただけなんだがな……」



◇◇



 宿に戻った俺達は、一階で食事をとりながら今回の騒ぎを振り返っていた。


「反体制派の考えとプリシア姫の考えが合致して、対立する意味が無くなっちゃったんだなー」


「聖王都だとあんなに大々的に宣伝してるのに、やっぱり地方の村にはなかなか伝わらないもんだねぇ」


『でも、無事に話し合いだけで済んで良かったです~』


 ここ最近色々と大変な目にばかり遭っていたエレナだけど、この一件が無事に済んで久しぶりにニコニコ笑顔である。

 しかしそんな最中さなか、いきなり宿屋の入り口が開かれ、プラテナ国の紋章を着けた騎士達に囲まれた。


「えっ、えっ、なになに!?」


 オロオロするサツキの姿に、鉄兜を着けた騎士がガハハと豪快に笑いながらサツキの頭を撫でた。

 ……あっ、もしかして!


「ライナス殿下!?」


「うむ、先の怪盗騒ぎの時は世話になったなカナタよ。まさかこんなところで出会うとは驚いたぞ!」


 そう言って鉄兜を脱いだ殿下は、家来達を宿の外へ待機させ、バーカウンターにドシリと腰掛けた。


「それにしても、反体制派の連中がいきなりケンカ腰で出てきたのはさすがに驚いたぞ。騎士隊長も慌てておったわ」


「は、はぁ」


「何やら、我らが巨大な炎を放って威嚇したとか言っておったようだがな!」


「ぐはーっ」


 俺の反応に殿下はニヤリと笑うと、こっそりと耳打ちをしてきた。


「あまり派手にやりすぎるな。下手に悪目立ちすると、魔王の手下どもに目をつけられるぞ?」


「うっ……やっぱ、バレてました?」


「愚か者、単なるブラフだ。少なからず、お前が関与しているとは思っていたがな」


「うぅ、すみません……」


 俺がガクリと肩を落とす姿に、殿下は再び豪快に笑いながらサツキにチラリと目をやった。


「プリシアが会いたいと言っておったぞ。また国に戻ったら城に訪ねてくるが良い」


「うんっ!」

 

 サツキの元気な返事を聞いて、今度は優しい顔で笑った殿下は、そのまま騎士達と共に去っていった。

 そして、一連の出来事を呆然と眺めていたマリネラがハッと我に返り、こちらにギギギ……と首を向けてきた。


「今の方々は一体……?」


「プラテナ騎士団の皆様だね」


「今のお髭がダンディなお方は……?」


『プラテナ国のライナス殿下だよ』


 マリネラはしばらく目を点にしたまま固まっていたものの、いつものパターン通りエレナに向かって飛びついた!


「エレナ様!」


『な、なんですっ?』


「あの場で機転を利かせ、反体制派の行動理由を聞きだした手腕、お見事です!!」


『機転じゃなくて本当に質問しただけですけどね……』


「しかも、王室と親しい間柄だなんて!!」


『親しいのはサツキさんですーーっ!!』


 エレナは にげだした!

 しかし まわりこまれてしまった!


「ふふふ、おいたわしやエレナ様ぁ~!!」


『うわーん、助けてぇーーーっ!!』


 何をしてもマリネラの好感度の上昇が止まらない非常事態に、エレナのピンチは続く!

 ……いや、別にこれといってピンチと言う程じゃないのだけど。


「っていうかさー、おにーちゃんの記録と同じようで微妙に違くない?」


「ああ、俺もそれを考えてたトコだ」


 そもそも今回の事件は、勇者パーティ全員が泉の精霊に呪われた事が原因でトラブルが頻発していたはず。



 ――山賊の襲撃、ひったくり事件、そして反体制派との遭遇。



 出来事そのものは同じでも、何が起こるかを事前に知りながら対処する事で結末が違った。

 にも関わらず、その都度に毎回悲鳴を上げている人物がいる。


「もしかして、泉の精霊に呪われてるのって……"エレナだけ"なんじゃね?」


 俺の言葉に、マリネラに必死に抵抗していたエレナの表情が強張る。


『薄々そんな気がしてましたけど、やっぱりカナタさんもそう思いますか……?』


「うん。何故か毎回やたら都合よくマリネラが興奮するように物事が進んでるし。これ、絶対エレナが困るように意図的にやられてるよな」


『はうあっ!?』


 エレナは変な悲鳴を上げると、マリネラに押し倒されながら西の方角に向かって叫んだ。


『おのれ泉の精霊めっ! 絶対にギッタンギッタンにとっちめてやりますからねーっ! 覚悟してなさいこんにゃろめーーーっ!!!』


「エレナさん、キャラ変わってる」


「よくわからないけど、勇ましい姿もステキですエレナ様!」


 うーん、どうなっちゃうんだコレ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る