2020/6/26 蠱毒の夜
2020/6/26 蠱毒の夜
火に油を注ぐだけだって解っていても
我慢しきれないことだってあるんだ。
感情を押し殺しきることができない
そんな時だってあるんだ。
どれもこれも言い訳だ。
健常者の言い訳だ。
偏見の塊だ。
間違いの塊だ。
サポートされるべき人間を助けるのは当たり前。
そういう社会であるのも勿論間違いじゃない。
じゃあ、
サポートする側の人間はどうだ?
私はどうなんだ。
汚れていく一方だ。
穢れいく一方だ。
外を歩く時、
そういう人たちを見る目が変わった。
その度に自分が汚れている気がしてならなかった。
選挙で障害者介護者支援が必要だと声高らかに叫ぶ人たちが憎くて仕方がなかった。
そんな感情を抱く自分は確実に間違っていて、
その度に自分が穢れている気がしてならなかった。
どんな人でも、でき得る限り等しい生活を送れるようにする。そんな社会が必要だってことは百も承知だ。
間違ってなんかいない。
いつ自分がそっち側の人間になったっておかしくないし、その時はどうせそういったサポートやサービスを受けることにだってなるんだし。
どうせ自分はある程度のことは自分で当たり前のように出来る生活を送れている、恵まれた者で。
そうでない人たちの気持ちを理解し、受容できていないだけなんだろうな。
嫌になるな、本当に。
4人兄弟の末っ子の私は
生まれながらにして、知的障害のある兄をもつ妹として存在して。
中学に上がった頃に父親がアルコール依存と鬱病になったことで、青春時代は家庭の暗黒時代となり。
大学1年の頃にその父が脳梗塞で倒れ半身不随に言語障害を。鬱っぽさは和らいだけど、新たな問題は山程あった。判断力も、理解力も大人とは思えない程になった。
それでも、もともとは助け合うことや想い合うことが当たり前の優しい人たちで構成された家族で。
笑い合うこともたくさんあるし、繋がりだって深いと思っている。自慢できるくらいには。
兄だって父だって、すごく真面目で優しい人なんだ。
でも我慢することも多かった。
こういう障害だから、症状だから、後遺症だから
「しょうがない」そう自分に言い聞かせて。
うまく本人に合わせてやっていくコツが必要で。
会話が成り立たないことなんてしょっちゅうで。
融通が効かないのは当たり前で。
自分の決めたルールでしか生きられなくて。
自分の思い通りならなければ暴れて。
家庭の空気とかまるで気にしてなくて。
自分のことばかり。
吐き気がする。
気が狂う。
昔はこんなじゃなかった。
気が狂う衝動なんて感じなかったのに。
嫌なことは嫌だったけど。
それでもこんな感情も行動もコントロールできなくなるほどの怒りなんて湧かなかったのに。
街で見かける、障害を持ちながらもしっかり生きている人たちへの想いも目線もあたたかい感情だったはずなのに。
今では嫌悪感しか湧かない。
いつからこんなになってしまったんだろう。
狂ってる。
間違っている。
あぁ、また階下から不機嫌な言動を撒き散らしている声と物音が聞こえる。
夜も遅いってのに。
兄と父の相性は最悪だ。
しょっちゅうぶつかり合って
その片付けはこっちの仕事だ。
でもそれぞれに不機嫌を撒き散らすのはやめない当事者ら。
別の部屋にいても全て聞こえているんだよ。
でもあなたがたは関係がないのでしょうね。
あなたがたのその些細な言動ひとつひとつが
私の精神を蝕んでいることなんて知りもしないでしょう。
大きな突発的な音を聞くだけで心が竦むようになった。
大きな声を聞くだけで心が竦むようになった。
他人でさえ、少し機嫌の悪いような言動を少し感じるだけで心が竦むようになった。
父が歩く度に装具が床に響く音が聞こえるだけで身構えるようになった。
父や兄が何かを言おうとしてくるだけで身構えるようになった。
何気ない会話がうまくできなくなった。
落ち着いて目を見ることができなくなった。
自然に笑うことができなくなった。
生きた心地がしない時も増えた。
仕事でも何でも、何かを「やらなきゃいけない」状況を感じだけで息が詰まって身動き出来なくなる錯覚に襲われるようになった。
自分が自分のものじゃないような感覚に襲われるようになった。
兄や父が何かトラブル起こす度に、
自分の中に、ナイフを持って彼らも自分をも刺し斬り刻むイメージが湧くようになった。その衝動に苛まれるようになった。
自分が恐ろしくなった。
自分が穢らわしく思えてならなかった。
気が狂っているんだ。
そんな自分を押し殺すのに必死で。
いっそうのこと、別人になりたいと思うようになった。
自分の存在ごと全て失くなってしまえたらどんなに楽なんだろうと思うようになった。
でもそんな事できない、許されないなんて事も同時に分かっていた。
自分は自分でしかいられないんだって絶望した。
虚無感でいっぱいになった。
それでも、自分は自分でしかいられない。
それなら、こうありたいと思う自分でいたいから。
少しでも綺麗な自分でいたいから。
心地よく生きたいから。
その為の手段のひとつとして詩を書いている。
或いはこの日記みたいに狂った感情を言葉にして誤魔化すようにしている。
そうすると少しだけ落ち着ける。
少しだけ人間らしくなれる気がする。
息をしやすくなる気がするから。
狂った自分も、それを必死に乗り越えようとした自分も報われるような気がするから。
握り締めたナイフはそうして生まれた。
それは今も生き続けている。
もちろん、詩集の詩全てがこれに当てはまるわけではないけれど。
握り締めたナイフの詩たちはみんな私が切り裂いたり、何度も何度も刺したりして流れ出てきた、穢れた血みたいなものなのだと思う。
何を言いたくてこの日記を書いているのか分からなくなってきた。
何をしたくて今こうしているのか分からなくなってきた。
どう生きたくて今こうしているのか分からなくなってきた。
何のために今ここで生きているのか…見失いそうだ。
泣きたくなってきた。
今夜は雨は降っていない。
風が心地よく部屋に入り込んでくるだけ。
この生活はいつまで続くんだろうか。
見苦しい日記になってしまってすみませんでした。
これを書いている時、ずっと猫がそばにいてくれていた。
今もゴロゴロ言いながら眠そうにあくびをしている。
もう、これだけで幸せだと思った。
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