第12話 ゴブリンの砦① 薬草探し

 ゴブリンの砦。村からそう遠くはない場所に位置する。

 ゴブリン一族が住んでいるとされる町のから少し進んだ先にある。ゴブリンは人を避ける。個人の知能と文化、歴史を持ち、部外者と交流することを嫌うとされる。


 あの醜い体格や顔は、部外者が交流を深めないために、生まれたばかりの子供に医薬品で顔や体格を変えてしまうのだとか、昔の旅人がそう書き残している。


 ゴブリンが人を襲うことは略奪もしくは遊び半分。ゴブリンの知能は武器程度しか扱えないと一般的に広まっているが、実際は武器どころか人が作った人工物の操作、作成、改造なども行えるほど知識量は研究者でも驚くことだろう。


 ゴブリンは集団で行動する。単体で行動することはよっぽどの愚か者か馬鹿ぐらい。興味本位で子供ひとりだけで行動する者もいるが、大抵は無事に帰ってくるケースはバカよりも低い。


 歴史は二百年の月日の歴史がある。


 二百年前の歴史は諸説や書籍など残されていないため、どういう生活してきたのかははっきりとわかっていない。


 二百年前、人と手を結ぶ機会があった。


 貧困と病気に苦しみ、ゴブリンの数が数十とも満たないほど減ってきていたとき、通りすがりの医者によって治療されたことをきっかけに人と接するようになった。


 ゴブリンは最初は敵対心を持っていると思われていたが、オークよりも恐怖心からか敵意を見せても本気で襲ってくるようなことはしなかった。


 馬車から薬品を取り出すとき、接戦して手伝うなど協力的な場面も見受けられた。


 治療をきっかけに、ゴブリンの数は増えていき、そして秘密を知ることになった。その秘密は、ゴブリンという種族の誕生と文化についてのものだった。


 二百年近く交流を経て、ゴブリンと深い結束が結ばれた。


 ―――いま、闇深き者たちがゴブリンの手を使い、世界を揺るがそうとする連中がいることをアスタたちはまだ知らなかった。



****



 ゴブリンの砦に向かう途中、廃墟がある。


 そこは二百年以上前、様々な種族が暮らしていたとアルメドから聞かされていた。


 どのようにして人がいなくなり、街が住める状態に亡くなったのかは不明で、ただゴブリンがもたらした病気によって街は圧倒間に死人の山となってしまったという。


 その廃墟はゴブリンでさえも近づかない場所らしく。


 ゴブリンの砦に向かうには廃墟を通ったほうが近道だという。


 アルメドが求めていた薬草もそこに生えていると。


「無事で待っていてくれよ(二人とも)」


 薬草を手に入れることとレイを助ける事。


 どちらを優先するべきなのか。


 頭の中でぐらぐらと天秤が揺らぐ。


 どっちも助けたい。


 レイを助けるのが最も優先だと頭の中で誰かが言っている。


 でも、危険な状態かもしれないと医者が言っていたアルメドのことも心配だ。


 ロイドたちと合流ができたら、二手に分かれることができたかもしれないのに…。


 心の中でどうすればいいのかと葛藤が続いていた。


 廃墟に到着するのに一時間はかかってしまった。


 来るまでに何度もどちらを優先するべきかと考えた結果、三十分で着く距離を二倍に増やしてしまった。


 太陽が真上にある。もう昼過ぎなのだろう。


 腹もすかしてきた。


 そういえば、なにも口にしていなかったな。


 持ってきたものは多少のお金(アルメドの所持金)だけ。あとは武器とマント、カバンのみ。


 せめて、食料だけでも買っておけばよかったと後から後悔がこみ上げてくる。


 でもいまさら遅い。こうなったらその辺に生えている薬草かモンスターの肉などを活用して腹を満たすしかないのかもしれない。


 助けに向かって、腹をすかして倒れるとか…恥だな。


 足元に視線を向けながら歩いていたとき、「そこに誰かいるのか?」と声をかけられた。


 草むらをかぎ分けた先にいたのはメガネをかけた少年がげんなりした様子で丸太の上に腰かけていた。


 ぼくに気づくと、少年は声をかけてきた。


「助けてほしい。この子が苦しそうでどうしたらいいのか…」


 ぐったりと横たわる小さな子供がいた。


 苦しそうに何度も吐いて草むらは液まみれになっていた。


「何かあったんですか?」


「近くに通りかかった商人から食べ物をもらったんだが、これに当たったのかさっきから吐き気が止まらないんだ!」


 少年が手渡してきたものはパンだった。


 紙袋に包まれている。


 持った瞬間、ふわーんと息が詰まりそうな臭いと妙に水でぐっしょりとしみこんだ雑巾のような感触が伝わってきた。


 許可をもらい、紙袋の中身を覗き込む。


 すると中身は腐っていた。


 しかも青と白カビが生え、パンだったものなのかどうか疑わしい不気味なものになり替わっていた。


 紙袋をそっと蓋を閉じ、地面に置いた。


「これ腐っていますよ」


「でも、腐っていても食べれるものだって…」


 商人に騙されたんだ。普通、気づくはずだが、なにか言われたのだろか。


 とはいえ、このまま放っておくわけにはいかない。


 アルメドが言っていた薬草があったはずだ。確か、腹痛や毒にも効果があると書いてあったはず…。


 カバンから古い本を取り出す。

 アルメドから借りてきた(許可をもらっていない)本。


 中身は薬草のことならアルメドが知る限りの知識が詰まっている。


 この本を見れば、この子の治療となるものが見つかるかもしれない。


 ぼくはそう睨み、頷いた。


「待っていろ、いまその子を治す薬草を探してくれる」


「俺もいく!」


 少年も一緒についていくと言った。


「いや、その子を見てやっていてくれ。ぼくが必ず助けて見せるから」


 ぼくはレイとアルメドの救出作戦を置いて、あの子を助けるために薬草を見つけるため、木の根っこ付近を探すことにした。


 あの薬草は木の根っこに生えていることが多い。

 叩きつけられる水には弱いことから、雨が当たらない木の根っこ付近に生えているはず。


 まずはそこから探そう。

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