第9話 父との再会

 遺跡を出たとき、妙にすっきりとした気分だった。

 失われたはずのレイがそばにいる。


「アス…タ?」


 心配そうにのぞき込むユイにぼくは頭を撫でた。


「大丈夫だよ。すべて思い出して変な感じしているだけなんだ」


 今の感覚は率直に述べた。

 記憶が戻るというのはこういう感覚なのだろうか。


 自分の前に出して手のひらを広げ、見つめる。

 ぼく自身がここにいる。正真正銘自分なんだと、心の中で訴える。


 でも、不思議なんだ。自分じゃない誰かがぼくの体そのものを別の者へと変えられたみたいで、違和感しかないんだ。



 レイを取り戻し、村に立ち寄った。

 すっかり村は半壊してしまうほどひどい有様のままだったが、残されたレックたちの部隊数名だけが懸命にも働いていた。


「ロイド!」


 一名が気づき、こちらへ駆け寄ってきた。

 メンバーの状況からその人は理解したうえで、尋ねてきた。


「…ッ レックは、どうなったのですか? ゴウキも…見当たりませんが」


 ロイドは舌打ちした。

 苦しい表情で彼に一部始終を話した。


「――そ、そんな…レックたちが死んだなんて…」


 悔しそうに顔を強張り、涙も浮かばず地面へ睨みつける。

 事情を知った後のメンバーも駆け寄り、同じ思いで悔しさのあまり、うなだれる始末となった。


「アスタ、悪いが席を外してくれ。ユイ、レックたちがいる場所まで案内しよう」


 ユイは静かに頷いた。

 レックたちはあの場所に放置したままだ。


 ゴウキたちの遺体は滝つぼの近くに埋めて着てあるが、レックだけは下流の方に置いてきたままだ。

 まだ生きていると願いながらも、ユイが最後まで「待っていてください」といい、聞かなかったからだ。


「アルメド、アスタとレイを頼む」

「…わかりました。気を付けてください。まだ刺客がいる可能性がありますから」


「行ってくる」


 そう言って、数人を連れてロイドとユイはあの森の中へと入っていった。

 残されたぼくらは、アルメドの指示のもと、レイをレイの家族に会わせるため、少し離れた場所の家に向かって歩いていた。


 レイの家族はこの村から少し丘を登った先にある民家に住んでいる。

 この騒ぎでレイたちの家族と会ってはいない。


 理由は村八分されたという理由だからだ。

 村で何が起きようとも自ら立ち入ることは許されないと。


 レイを失い、故郷も追いはられた、今のレイの家族たちはどのように暮らしているのか。レイに振り返るたびに心が痛む。

 両親が村から追い出された。


 レイにとって、今の心境を聞くことはレイの心を揺さぶる悪魔の一言にも思えた。


 見ずぼらしい家を前に、ぼくは周囲を見渡していた。

 枯れ果てた池のだった穴、ジャングルのように覆われた庭、雨風や極度の温度、植物の氾濫からくる壁の崩壊。


 肝心の建物は右側はすっかりと緑に侵されてしまい、一種の芸術家。蔦で覆われた建物を見るのは心が痛むし、不気味で触りたくも見たくもない。

 残りの半分は何とか生き残っているが、いずれ取り込まれるだろう。


 木製の扉にノックする。

 アルメドの後ろにレイとぼくの二人が立つ。


 アルメドが仲介人となってぼくたちをサポートしてくれる。もっぱら、レイが生きていたことに家族がどう思われるのか、気になるところだが。


「…なんのようだ」


 髭を生やした無愛想な男が顔を出した。

 顔は太り、体系も小太り。エプロン姿で片手には出刃包丁。

 なにか作業をしていた風にも見えるし、お客に歓迎していない雰囲気にも見える。


「率直に言いますが、あなたの娘さんの名前を伺っても…?」

「娘はいない! 帰ってくれ」


 扉を閉めかかろうとするが、アルメドが扉に足で塞ぐ。


「お父さん…」


 銀色の髪をした女の子が静かに答えた。

 やさし気で大人しいあの子の面影が父には重なって見えた。



 部屋に入れてもらい、蝋燭の灯りだけで部屋を賑わせていた。

 家具は少なくテーブルとイス、タンスだけ。


 向かい側の部屋にはベットがひとつのみ。窓は板で釘討つかのように封鎖されてしまっている。

 光が入らない空間。外を気にしている様子でもある。


 だが、ぼくらを通し、レイを見つめるなりハグした。


「おおおーーー!!! レイ、よくぞ無事だったなーーー!!」


 号泣だった。

 死んだと思われていた娘が生きていたわけだ。

 こんなうれしいことはないだろう。


 ぼくらは二人の再会を前に、頂いた飲み物を頂いていた。


 二人と会話したいからといわれ、ぼくらは外へ放り出された。

 周りは相変わらず静かだ。


 不意に何かを見つけた。

 ジャングルとなった庭の傍らで石碑と思わしき文字が掘られた岩と宝箱が置かれていた。


「アルメド」


 アルメドに声をかけ、その宝箱と石碑を調べた。

 ジャングルを刃物で切り分けながら、近づく。


 石碑の前にたどり着いたとき、石碑に掘られていた事実を知ることになった。


 そして、宝箱のなかには写真と日誌と思われたものが入っていた。


 日誌は雨風などにさらされたのかすっかりと紙通しがくっついてしまい、無理に剥がそうとすればベリべりと破れてしまう。

 表紙の文字や色はすっかりと褪せて、文字を読むことは不可能に近かった。


 アルメドは日誌の解読すると言い、日誌を手渡した。

 日誌に呪文を描く、するとふわりと煙が立ち上った。煙が文字となって浮き出ている。それを一字一句読んでいく。


 残された写真は数十枚と入っていたがどれも塗りつぶされる形でまともに見えるものは何一つなくなっていた。

 ただ、一枚だけ色は褪せているもののわかるものだけ見えた。


 写真を拾い上げ、その絵を見た。


 仲好さそうに映る娘と家族の写真。

 だが、写っている娘の写真は黒髪だった。そうだ、レイじゃない。髪も長くなくサイドテール。


「これは…!?」

「まさか…!?」


 アルメドと同時に振り向いた。

 写真に写っていた娘、日誌に書かれていた内容とも。おかしなことが重なった。


「「レイ!!!」」


 ぼくらは慌てて家の中に飛び込んだ。

 扉を破壊する勢いで必殺技≪パワーショット≫でぶち破り、中へ侵入した。


 中にはレイの姿もレイの父の姿もない。もぬけの殻だった。


「クソッ! 騙された」


 爪を立てて髪を掻いた。

 レイは初めから騙すつもりだったのか、それとも何者かに操られていたのだろうか。


 石碑に書かれていた人物名は、娘と奥さんの名前が刻まれていた。

 日誌からは妻の書き残したもの。


「”生贄であるレイを失い、代わりに村から追い出された二人の命を償え。レイを誘拐した罪だけでなく儀式の失敗を犯した罪。多重の罪に持って二人の命を差し出す” ――と書いてあった。つまり、あの父は二人を殺した原因を作ったレイを逆恨みしていたということだ」


 走りながらレイの行方を追って、ロイドたちと合流するため急いで丘を下っていた。

 あの丘にレイの家族が住んでいる ――と話していたレックたちの部隊が言った内容とは違いすぎた。


 すなわち、糸を引いていた。グルだった。 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る