第5話
鐘が鳴り響き、昼食の時間になると食堂には人が集まってきた。
ここはどうやら、聖職者の人専用の食堂らしく、来る人は全員ローブを着ている。
長テーブルの奥に男性が12人、とお誕生日席に1人。扉に近い所に女性が3人という内訳だった。シスターもそちらに移動をしていった。
『見分けがつかない…!!!』
イケメン、と思った人は意外と一般的に近い顔立ちらしく、年代別に座られてしまうと、もはや間違い探しに近くなってくる。某外食チェーン店での間違い探し、苦手だったんだよなぁ…。というか日本人ですら顔が似てる人の見分けが出来ないのにこの人数…もう少し身体的な特徴が欲しい。
ちょっと丸い人と、団子鼻の人、神経質そうな顔をしている人が神々しく見えてくるよ…あの人たちは覚えやすいね。見た目だけは。
難易度が一番高いのがおじいちゃん勢だなぁ…二人いるおじいちゃん、めっちゃ顔似てる…皺の入り方がちょっと違うくらいだから見分けるポイントは皺かなぁ…。
そんな失礼な事を考えながらいると、最後に来たシスター二人がパンを中央に置き、スープを皿に取り分けていく。野菜とパスタ、お肉の乗ったプレートが一人一人の前に用意され、グラスにワインが注がれた。
最後の二人が席につくと、お誕生日席に座っていたおじいちゃんが立ち上がった。
「本日、神の御使いが我らの元にご降臨されました」
あ、この人の声、司教様かな。
「隣にいらっしゃる、勇者リーン様です」
「!!!?」
いきなり名指しで驚いている私に視線が集まり、思わず顔がひきつる。シスターが私を上座の方に座らせたのはこれが理由か!?
「リーン様、ここにいる者はあなたの忠実なしもべです。どうぞ、お導きください」
やばい、これだけ視線が集まると緊張してなんか喉がカラカラ。え、これ座っていていいやつ…だよね?
「挨拶をいたしましょうか。ハーディ、エヴァンズ、ブノワ、チボー、アルチュール、クレマン、エリーズ、カロル」
司教の右隣の角席に座っていた私の目の前の人が、一人ずつ会釈していく。エリーズって言うんだ、シスター…。
「バチスト、ファブリス、モリス、セルジュ、ヴァレリー、リュック、オディール、マチルド」
やばい…覚えなきゃいけない人の名前が増えてく…。
「私は、司教のヒドルストンです。それではリーン様。食前の祈りをお願いします」
「ひゃい!?」
思わず声が裏返ってしまいながら立ち上がる。視線が痛い。
「…ぁ、あー、リーン、です。よろしくお願いします」
祈り祈り祈り…天にましますとか聞いたことあるけど、これ間違ってたらヤバイやつじゃん!
頭の中でグルグルと色んな事がまわったが、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になってしまう。
「し…きょう様にお祈りはお任せしたいと思います…お願いします…」
すとん、と椅子に座ったとたん、『お任せしてもよろしいでしょうか、だろ!』と頭の中でセルフツッコミがはいる。いっぱいいっぱいで、ダメすぎる。
自己嫌悪に苛まれている所で、司教も椅子に座り、手を軽く広げて上向きに机の上に置く。他の人も同じ動作をしているので、同じ動作をしてみた。
「神への奉仕を続けましょう。祝福された食事に感謝をささげます。メカーヤ」
『メカーヤ』
復唱してる、ということはこれが締めの言葉かぁ…
脳みそがかなり飽和状態。
ナイフとフォークで食べ始めた作法を見ている限りでは、特に何かの違いはなさそう。それは安心した。…けど、誰も一言もしゃべらないのは作法なのかな…沈黙が重い…
話をしたいところを、ぐっと飲み込み、黙々とフォークを動かす。
羊の肉ということだが、臭みが全くなく、柔らかい。塩味もしっかりとついていて美味しい。パスタはチーズを絡めたコクがあるパスタだった。
最後の一人がカトラリーを皿に置いた。
「では、食後の祈りを捧げます」
また、全員が手の平を上にして机の上に置いた。
「神よ。いただいた恵みに感謝し、良き事が行えますように。メカーヤ」
『メカーヤ』
今回は一緒に復唱できた。こんなに緊張した食事は初めてだったかもしれない…。
食器をどこに運んだらいいかと思って立ち上がろうとするが、司教様に止められた。
「人には、それぞれが成すべき行いがあります。あなたは、あなたの行いをするべきです」
…あ、もう話をしてもいいんだ。他の人たちは、ドアから外に出て行っている。
「気になっている所が、いくつかあるんですが…」
「夜に、お時間をとりましょう。今から昼の務めがあるもので。それでよろしいですかな?」
「…はい。お願いします」
開け放たれたドアからエリーズが顔をのぞかせ、軽くノックをした。
「お話はお済でしたか?」
「あ、終わりました」
「でしたら、石筆と石板を買いに街にでかけましょう」
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