女・カレー・秘め事

 女には、人には言えぬ秘め事がある。


「この店で一番のものを頂戴できるかしら」


 高価な貴金属やブランド物の洋服を身に着けて洋食店へと赴き、まるでどこぞのセレブのように振舞いながら、『この店で一番の物を出せ』と店員に告げる――これが女の秘め事。彼女なりの、ストレス解消法であった。


「た、ただいまお持ちいたします」


 彼女のただならぬ雰囲気と風貌を見て、店員も大慌てで厨房へと踵を返していく。


「お、お待たせいたしました」


 しばらくすると、足早に厨房から店員がやってきて、女の前にカレーライスを置く。香ばしい香りが、女の鼻腔をつく。匂いだけでも十分に美味いが、一口食べてみると、なるほど匂いだけでなく味も確かに最高のカレーライスだ。


「これ、あなたが作ったのかしら?」

「は、はい!」


 食べる様をまじまじと見つめていた店員に、女は優しく声をかける。店員の顔色は青く、動揺の色が隠せない。


「このカレーライス、とても美味だわ。私が食べてきた中でも、最高のカレーね。自信を持っていいわ」


 女が満面の笑みでそう言うとシェフの顔色は晴れやかに――ならなかった。




「お客様、こちら、当店一番おススメ……ハヤシライスです」

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