釣り・上司・転職
「いいかい。釣りっていうのはね、仕事や私生活……、全てに通ずるものがあるんだ」
「はあ」
「それを分かって欲しくてね。新しく部下ができると必ず釣りに連れてくるんだよ」
「なるほど」
「君は確か、転職してきたんだったね」
「そうです。夢を追いかけていたんですけどね、子供が生まれましてね。収入は安定させてほうがいいかと思いまして」
「そうかそうか。仕事も釣りも同じでね、同じ場所で釣り続けていても成果が出るとは限らない。時には場所を転々として、ベストな場所を探すことが必要だ」
「一理ありますね。アタリもありませんし、移動しますか?」
「いや。転々とし続けるのもよくない。ひとつの場所でじっくりと、忍耐強く待ち続けることも重要だ。仕事も釣りと一緒だ、焦らず機を待つことも大切なんだ」
「わかりました」
「まだまだ始めたばっかりだ。あと1時間もすればきっと成果が――」
「あ、かかりました」
「おお、おめでとう。けど焦ってはいけないよ。短気は損気、機を掴んだとしても、それを我が物にしようともがけばもがくほど、機はこぼれ落ちていく。釣りも仕事も同じだね」
「釣れました」
「かなり早かったね。おめでとうおめでとう。釣りも仕事も同じだ。成果は小さなものだったとしても、初めて手にしたものはかけがえのないものだろう」
「かなり大きい黒鯛ですね」
「なんと、素晴らしい。ビギナーズラックってやつだね。けど慢心してはいけないよ。時の運で成果を得ることもあるだろう。だがそれは続かない。この成功にかまけず、研鑽しなくてはならない。釣りも仕事も同じだ、経験がモロにでるんだ」
「また黒鯛釣れました」
「……どうやら今はここがベストポジションのようだね。チャンスは必ずものにしなくてはね。釣りも仕事も一緒だね」
「僕向こうに移動しますけど、課長はどうします?」
「さっきも言ったけど、釣りは忍耐。それにここは釣れるようだ。機を逃してはならない。仕事と同じさ」
…
「今日は爆釣でした。課長はどうでした?」
「いくら経験があろうとも、勝負は時の運。こればっかりは仕方がない。素直に諦めることも大切だ。釣りも仕事も一緒だね」
「なるほど」
「そういえば君、前職は何を?」
「釣りのプロですけど」
「……成果を得るのに上司も部下もない。釣りも仕事も一緒だね……」
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