第59話 戦いに望むもの

 十分くらい経った後だろうか。

『作戦を変更。空中都市に攻め入る。対戦になる可能性あり。全勢力の七割を投入する、という命令だ』

『了解』


 全勢力の内七割か。

 かなりの数を投入している。

 まるで、世界大戦でも望んでいるかのように。

 この戦いでこの国の希望と絶望が決まるかのように。


 でも、アタシはこの国の兵士だ。

 何があろうと戦わなければならない。

 敵を殺さなければならない。


 それがアタシの運命だ。

 《司令官》に課された責務だ。


 仲間たちが上空へと上がって行く。

 戦う為に。

 戦争をするために。

 この国の未来の為に。


 電子画面に目的地が更新され、赤い斑点が表示される。

 上空へ上昇する。


 正直、始めて外に出るのが戦争というのが残念だけれど。

 空が本に書いてある通りに水色なのか実際に見てみたかったけれど。

 ここで死んだら元も子も無い。


 《賢者の石》も見つけないといけないし。

 ――――願いを叶える《賢者の石》。


 その正体を私は見てみたい。

 見なくちゃいけない。


 それで、お父さんとお母さんを生き返らせるんだ。

 切願を。念願を。懇願を。


 ――――レーザーに反応。

 敵だ。


 前方に二十。

 いや、三十を超える数の敵が私達と同じ場所に向かっている。


 スコープを使って拡大すると、確かに資料で読んだ地上都市のマークが背中に貼られている。

 攻撃はまだだ。

 総司令官の命令が来ていない。


 変更された作戦では、逐一こちらの状況指導官に報告し、司令官が命令を出す。

 という手筈になっている。

 だから、指導官が攻撃命令を出さないとアタシ達は少しも動くことが出来ないのだ。


 総司令官から報告があった。

『攻撃は延長。命令まで待て。が、敵の行動の監視は継続』とのことだった。


 くそ。

 駄目なのか。


 アタシの気持ちとしては、一刻も早く攻撃をしたい気分なのに。

 速度を落とし、透明迷彩モードになる。



 恐らく、敵が交戦をし始めたと同時に襲撃するという奇襲作戦を指導官は考えているのだろう。


 アタシだってそうする。

 総司令官から命令が下される。

『散開しながら前進。継続せよ』


 なるほど。

 敵を囲んで逃げられなようにするということか。

 あわよくば、空中都市の機体も殲滅出来たら良いと。


 残酷なことを考える。


 レーダーに新しい機体反応が出た。

 地上都市のものではない。


 ということは、空中都市パンドラの機体だ。


 体中の筋肉が強張る。

 この作戦は何としてでも成功させなくてはいけない。

 生きて、故郷に帰らなければいけない。


 ――――戦争が始まる。

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