第46話 潜入開始_1

「おい。こいつを牢屋に入れておけ」

「はっ」


 黒髪の少し天パの男の子の両手に手錠が掛けられる。

 少年は必死に抵抗しようとしている。

 が、多勢に無勢。

 たった一人で立ち向かっても相手に勝てる訳もない。


 天パの男の子は奥の部屋へと連れ去られて行った。


 もしかしたら、あの人なら『能力』のことについて知っているのかもしれない。

 この新型兵器に搭載されているものについて何か知っているのかもしれない。


 聞いてみる価値は十分にある。


 膝を曲げて前かがみになりながらついて行く。

 ゆっくりと。

 音を立てないように。


 もし、見つかったのなら、俺は死んでしまう。

 それは絶対に避けるべきことだ。

 慎重に。

 石橋を叩いて渡れという事だ。


 細心の注意を払って進んで行こう。


 壁の端に沿って小走りで後ろを進んで行く。

 尾行がばれなければ良いのだが……。


 階段を降りて行く。

 鉄で出来た壁があるせいだろうか。

 妙な圧迫感がある。


 敵を見失わない程度に尾行を続ける。

 無論、《透明化》の能力を使う。

 音を立てるのも嫌だから、《念力サイコキネシスを使って自分の体を浮遊させる。


 かなり地下深くまで来た。

 天井に吊るしてあるランプの淡い黄色の光が漆黒に支配された空間をほんのり照らす。


 階段が終わる。


 それは、牢獄にぶち込まれる直前という事を意味する。

 石畳の上を歩いていく。

 いや、俺の場合は少し表現が異なる。


 上を移動すると言った方が俺の場合は正しいのだ。


「ここが今日からお前の住処だ。家だ。ほれっ」

「ぐっ」

 技術班の一人が天パの男の子の背中を蹴る。


「あとは然るべき奴に任せるとしよう。拷問班の奴らにな」

 やばい。

 こっちに来る。


 いや、《透明化》の能力を使っているから大丈夫か。


 心臓がバクバクする。

 目の前を敵が通り過ぎる。


 う、うわぁ。

 やばいやばいやばいやばい。


 顔が、体が熱くなる。

 体中から熱湯が吹き出そうなほどに熱くなる。


 心臓の鼓動が聞こえる。


 横目で通り過ぎる技術班の奴らを追う。


 ほっ。

 良かった。

 上手く通り過ぎてくれたようだ。


 良し。

 牢屋に放り込まれた少年の所に行く。


 少年は体操座りになってぶつぶつと

「くそっ。なんで俺がこんなことにならないといけないんだ。でも、これはある意味チャンスなのかもしれない。ここから脱出をしてキーを助け出すチャンスなのかもしれない。やってみるチャンスだ」

 と牢屋に入れられているというのになぜかこいつは活き活きとしていやがる。


 変な奴だ。


『キー』とは誰なのだろうか。

 俺の知らない人。


 あの機体は新作らしい。

 《能力》を用いる新作の機体のパイロット。


 今、《能力》のことを聞くなら彼が一番なのだろう。

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