第31話能力開花?

『金石君は後方で援助を。僕が奴に接近戦を仕掛ける』

『ラジャ』


 前回では負けたけど、今回は絶対に勝つ。

 勝って見せる。

 相手がどんな敵であろうと。


 心臓の鼓動が速く、大きくなる。

 操縦桿を握りしめる。


 マックウェー中佐の機体。

 ――――紺青色の機体。恐らく、特別仕様なのだろう。

 ――――鎧を付けたかのような大きな肩。

 ――――太く短い腕と足。

 ――――紺青色の中に所々金色の模様が施されている。

 ――――紅色の双眸。


 その姿は蒼の獅子とも言うべき迫力だった。


『悪いが、君の相手はこの僕と彼だ。他の奴らにはやらせないからな。もう、それ以外の奴らには手出しをさせないし、殺させない』

 腰から光輝槍ライトニングスピアを取り出して襲い掛かる。


 猪の如き猛進。


 対して、《黒騎士》は光輝斧ライトニングアックスを取り出す。


 獲物に食らいつく獅子の一撃。

 が、敵も名の知れた戦士。

 その槍を破壊しようと振り下ろす。

 それを察したのか、紺青の獅子は槍先の進路を変え、切り上げる。

 《黒騎士》の首元を切り裂こうと、紺青色の一閃が煌めいた。


 これは流石に反応出来ない。


 衝撃音が響き渡る。

「なっ……」

 僕は目の前の光景に絶句した。


 斧の柄に槍の矛先が、槍の柄に斧の刃がぶつかり合う。

 あと、コンマ0秒遅かったら、《黒騎士》の首は吹き飛んでいた。


 こんなの人間じゃない。

 人間が出来る反応速度じゃない。

 化け物だ。


 力と力がせめぎ合う。

 二人は距離を取ろうと、一直線になっている斧と槍を外す。


 先手を打ったのは中佐だった。

 《黒騎士》の首元を狙って一突き。

 俊敏さでは斧より槍の速さが誇る。

 故に、同時に攻撃を開始したのなら有利なのは槍を持っている中佐だ。


 しかし、敵が悪かった。

 《黒騎士》は右下に避けて、中佐の攻撃を回避。

 斧で攻撃をして来るかと思いきや、最大速度で接近し、その速度を加えた飛び蹴りが中佐の腹部に炸裂した。


『がっ……』

『中佐!!』


 後方へ中佐の機体が吹き飛ばされ、僕の横を通り過ぎていく。

「このっ……」

 銃の照準を《黒騎士》に合わせ、引き金を引く。

 電気の塊と化した紅緋の光線が青空を裂く。


 《黒騎士》の右の掌がこっちを向く。

 魔術式を展開し、魔術壁を作り上げた。


 速い。

 詠唱も、術式展開も速すぎる。

 《黒騎士》は正真正銘の化け物だ。


 奴と戦って勝てるわけがない。

 顔の汗線から汗が流れ落ち、皮膚の上を流れる。


 僕の撃った攻撃は、《黒騎士》の展開した魔術壁によって四方に拡散した。

 続けて、五重の真紅色の魔法陣が掌の上に描かれる。


 直後、裁きが下った。

 その一撃は神の裁きとも言える一撃だった。


 僕の技術では避けることは不可能。

 くそ。


 まただ。

 僕の力が足りなかったから。

 僕が無力だから……。


「頼むよ。これ以上、傷つけないでくれ。僕から何も奪わないでくれ。もう、そんな地獄を見るのは嫌なんだよ。だから、その為に必要な力を!! 勇気を!! こいつらの代わりに。仲間の代わりに僕がその犠牲になるから!! それに必要な力を僕にくれぇぇぇぇ!!!!」

 鈴のような、幻想的な機械音が僕の耳に届く。


『ESPシステム起動』


 目の前の画面に《ESPM》という表記。

 コックピット内の水色の光が紫紺色へと変わる。


 ――――消散。

 《黒騎士》の放った魔術は儚く消え去って行った。

 お互いの動きが時の中に閉じ込められる。


 お互いに何が起こったのか分からないと言った感じだった。

 この感覚。

 初めてじゃない。


 ふわふわとしたこの気持ち。

 心を揺さぶるような――――。


 魔術を無力化する力。

 一体、僕は何者なんだ。

 この力は一体――――。

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