第25話ESPシステム

 昨日味方だった奴が今日敵となる。

 世の中、なんて不条理なんだと思う。


 機内だと言うのに、肌が冷たく感じる。


「キーを――。キーをどこやったんだ!!」

 喉の奥から声を上げる。

「そんなの貴方に教える訳がないでしょう。教えたところで、貴方に何が出来るって言うの? 何も出来ないわよ。無能な人間に、力のない人間は力を持つ者にねじ伏せられるだけよ」


 魔術光線銃マジックビームライフルの銃口が僕に向けられる。

 ――――口径290mmのバズーカ砲。


 右に避けるべきか?

 いや、左?

 どっちだ?


 ドォウ!!!!

 砲声が轟いだ。

 紫色の魔術光線が放たれた。


 死ぬ。

 反射的に右手を向ける。


『ESPシステム起動』――。

 機械を通した声。


 目の前の画面に《ESPM》という英語表記が表示される。

 電子画面の色が冷ややかな水色から紫色へと変わる。

 ――――紫水晶のような幻想的な彩り。

 本機体の水色のプレートも同様に紫水晶の様な光を帯び、輝き出す。


「な、なんだ!?」

 突然の出来事に頭が真っ白になる。


 この光は何なんだ?


 更に、本機体の全身から光が――――。

 淡い紫色の光が満天の星空のように本機体の周囲を取り巻く。

「この光は……」

 どこから出てくるのだろうか?


 超現実的で幻想的な光景だ。


「えっ……?」

 次の瞬間、何が起こったか分からなかった。


 《黒騎士》のバズーカ砲が放った魔術光線マジックビームが…………消散した。


 消散した直後、魔力は小さな塊となって消えていった。


 だが、魔力反応は確かにある。

 今も存在している。


 水泡のように宙を浮いているのだ。

 魔力の源――魔素となって。


「そ、そんな……」

 この手が、この機体の右手がやったのか?


 信じられない。

 自分のやった事に絶句する。


 今……自分は――僕は何をやったんだ?


 ――――時に凍結される。

 お互い動かない。


 先に解凍したのは――僕だった。


 右足のペダルを踏み抜いて、《黒騎士》に向かって猛進する。

 背中に背負っている鞘から光輝剣ビームソードを引き抜く。


 白銀に輝くそれは第二のエクスカリバーとも言えよう。

 左へ斬り上げる。


 ――――紫電しでん。


 黒刀と光輝剣ライトニングソードが火花を散らし合う。

 腹部を蹴ろうとした時、バズーカ砲を頭部にぶつけられた。


「がっ」

 くそ。

 やはり、同じ手は使えないか。バズーカ砲が腹部に当てられる。


 ダメだ。

 もうダメだ。

 ――――死んだ。

 そう、覚悟を決めた。


 が、《黒騎士》は撃たなかった。

 撃つのを止め、去って行った。


「た、助かった……のか?」

 安堵。

 だが、休む暇は無かった。


 拡張デバイスを通じて、『本艦』から連絡が来た。

 太く、しっかりとした透き通る声だった。

『機体ナンバーRS—ESP—001に搭乗している搭乗員。直ちに戻りなさい。繰り返す――――』


 多分、僕の事だ。

 勝手に機体を使ったからなぁ。

 もしかして僕、処刑されるかも?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る