第25話

 楓とポーカーをした翌日、俺はなぜかバス停の前で一人、待っていた。


 昨日、ハルに何か吹き込まれた楓は少し顔を染めながら「明日、一緒に遊びに行きましょう」と言ってきた。


 行く先は結局教えてもらえず、結局俺はいつもよりちょっとは小マシな服装をきて、約束の時間がくるのをそわそわとして待っていた。


 とはいえ、約束の時間は十一時。

 今の時間は十時。


 流石に早く来すぎたようだ。

 まるで遠足を楽しみにする子供みたいだな。


 自分の浮かれっぷりに思わず苦笑してしまう。


 まさかただのお隣さんだった楓とこうやって出かけることになるなんてな。それも今日出かけることは楓から提案してきたことだった。



「き、岸野さん!? も、もう来られていたのですか?」



 脳内で考えていると突然楓の声が聞こえ、現実に戻される。

 流石にこの時間から楓が来るはずない、とゆっくり声のした方へと振り向く。


 清楚感漂う白のシャツと青いスカート……、いや、ズボンか。

 ワイドパンツ姿という今まで見たことのない身なりでやってきた楓。


 それを見た俺は思わず声を詰まらせてしまう。



「あ、あぁ……今来たところだ……」

「流石に早すぎますよ……。まだ一時間前ですよ?」

「それを言うなら美澄も早すぎるだろう?」

「いえ、私は早めに来て岸野さんを待ちたかった……いえ、なんでもないですよ。せっかくですから出発しましょうか?」



 恥ずかしそうに頬を染める楓。

 でも、すぐに顔を背けてしまった。



「そういえばどこに行くかとか聞いてないが?」

「えっと、もちろんあの場所ですよ。この辺りで出かける場所といったら……」



 ◇



 俺たちが来たのはバスで一時間ほどのところにあるテーマパークだった。

 ただ、そこまで広い場所ではなく、乗り物も定番のジェットコースターや観覧車、あとはメリーゴーランドとかその程度しか無いような、どちらかといえばファミリー層向けの場所だった。


 それでも楓は目を輝かせていた。


 そんなに喜ぶようなところだろうか?

 俺も数回は来たことがあるが、それでも高校に上がる頃には物足りなさを感じて、来ることがなくなってしまった。



「えっと、本当にここでよかったのか? もう少し遠出をすればもっと有名で大きいところでも――」

「はい、私はその……、こう言うところに来たことがありませんでしたので」



 そういえば今もバイトをして生活費を稼いでいたんだったな。

 なるほど、ここはファミリー向けとはいえ、それなりに高い入場料を払わないといけない。



「じゃあ今日はゆっくり遊んでいくか」



 それに逆にここなら知り合いに会う心配もないだろうし、気兼ねなく遊べる気がする。



「はい!」



 ◇



 それからしばらく俺たちはアトラクションに乗り続けた。

 逆に早く着いたのがよかったかもしれない。


 それに隣には常に笑みを浮かべる楓。

 いつもは見られないこの表情を見られただけでもここに来た甲斐があっただろう。



「岸野さん、次はあれに乗りませんか?」



 大体一回りしたあとに最後に残された観覧車を指さしてくる。



「いや、このまま乗ってしまうのも良いが、先に飯にしておかないか?」

「あっ、そうでした。もうだいぶお昼を回っていますもんね」



 時間は既に十四時。

 昼ご飯を食べるには少し遅いくらいの時間帯だった。



「それじゃあどこかの店に入って……」

「いえ、お弁当を作ってきましたので、どこかのテーブルを借りて食べましょう」



 楓が可愛らしい袋包みを二つ、見せてくる。



「これを作ってたので少し遅れちゃいました……」

「全然遅れてないけどな。それならありがたく頂くよ」



 楓から弁当箱を受け取ると早速蓋を開ける。



「旨そうだな……」

「いえ、いつもと変わらないものですよ」



 楓はそういっているものの実際には明らかにいつもより豪華なものが入っている。

 というより、手間がかかるもの……だろうか。



「いや、すごくありがたいよ。作の大変だったんじゃないか?」

「そうですね、岸野さんにバレないようにするのが大変でした」

「別に堂々と作ってくれてもよかったんだぞ?」

「いえ、それだと今の驚いた顔が見られないじゃないですか」



 楓が小さく微笑んでくる。

 そんなに驚いた顔をしていたのだろうか?


 俺は自分の顔に手を当てると楓は更に笑みを浮かべた。



「それよりも早く食べましょう」



 楓が箸を差しだしてくるので、俺は苦笑しながらそれを受け取る。



「そうだな……。いただくよ」

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