目覚めた?力~後編~

 【新田俊助は、魔法が使えるようになった】


 イルシーは、『創界の言霊』は世界そのものを変える力があると言った。その力があまりにも危険だという説明もしていた。だから、自分自身に対してはモキボを使ってこなかった。しかし、今はそんな悠長なことを言っている場合ではないのだ。


 僕の力は不完全らしいから、あるいは成功しないかもしれない。だが、今はこれしか手段がないのだ。


 「何をしているか知らんが、喰らえぇぇぇ!」


 デスターク・エビルフェイズが大きな火の玉を振りかぶって投げてきた。


 「ええい!魔法を跳ね返すシールド!」


 咄嗟に魔法の名前が思い浮かばなかったので、妙に説明臭い魔法になってしまった。


 「シュンスケ!あんた原作者なんだから、もっと魔法の名前を……」


 カノンの言葉が止まった。僕の前にちょうど等身大の黒いオーラを放つ物体が出現していたのだ。


 「な、なんや、あれ?月にあるやつか?それとも声しか聞こえへん、補完計画的なあれか?」


 レリーラ……。お前、その知識をいつ仕入れ来たんだ。僕もそう思わんでもないが。


 デスターク・エビルフェイズが放った火の玉が近づくと、その物体は黒いオーラを広げ、火の玉を包み込みそのまま握りつぶすように消してしまったのだ。


 「何だそりゃ?!反則だろ!」


 キャラを忘れ、憤慨するデスターク・エビルフェイズ。これでどうだ、と無数の火の玉を投げつけてきた。


 「うわぁっ!何とかしろ、物体X!」


 僕が叫ぶと、物体Xから無数の黒い筋状のオーラが伸び、その先端が手の平のように広がり、次々と火の玉を受け止めていった。そして、そのまま火の玉を握りつぶしていく。


 「凄い……。これって、シュンスケの魔法なの?」


 僕の魔法……。どうなのだろうか?確かに僕は【新田俊助は、魔法が使えるようになった】とモキボに入力した。そして、呪文と言うよりも説明に近いことを叫ぶと、この物体Xが出現してきた。物体Xは、僕が命じたままに働いてくれた。魔法といえば魔法なのかもしれないが、僕の『創界の言霊』の作用とも言えなくもない。どちらにしろ、イルシーの言ったとおり、『創界の言霊』の力は絶大だ。使いこなせれば、何でもありになってしまう。


 「とにかく今はデスターク・エビルフェイズをやっつけないと……」


 僕は妄想する。物体Xから伸びた黒い無数のオーラが拳を作り、デスターク・エビルフェイズをぼっこぼこにするのだ。


 「いけっ!」


 命ずると、僕が妄想したとおり、物体Xから勢いよく黒いオーラがデスターク・エビルフェイズに向かって伸び、拳を作ってデスターク・エビルフェイズに襲い掛かった。


 「ふふん!こんな攻撃で負ける余ではないわ!オラオラオラオラ!」


 デスターク・エビルフェイズも拳を繰り出す。物体Xの拳とデスターク・エビルフェイズの拳がぶつかる度に激しい衝突音が響く。


 「何よ。これじゃ格闘ものじゃない」


 呆れ顔で言うカノン。お前が言うな!


 「オラオラオラ……ぐほっ、ぐはっ、げほぉぉ!」


 最初は互角に物体Xと拳を交えていたデスターク・エビルフェイズだが、次第に押されるようになった。一発、二発と立て続けに物体Xの拳を喰らい始めると攻撃することもできなくなり、デスターク・エビルフェイズは、ただ只管蛸殴りにされるだけであった。


 流石に弱者をいじめている様な気分になってきたので、それそれを終わらせてあげることにした。


 「物体X!止めだ!」


 複数あった黒いオーラが一つに集まった。その先端が大きな拳となり、デスターク・エビルフェイズに迫った。


 「うわっ!ちょ、たんま!」


 「人の妹を拉致っといて、たんまも糞もあるか!」


 僕の怒りが物体Xの拳に乗り移ったようにさらに巨大化する。そのままデスターク・エビルフェイズの全身にぶつかった。


 「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!」


 衝撃でぶっ飛ぶデスターク・エビルフェイズ。そのスピードは目で追うことができなかった。どかんどかんと壁をぶち破る音と、お兄さんと仲良くするんだよ、というよく分からない断末魔の叫びだけが聞こえた。


 壁が壊れた時に生じた砂埃が収まると、デスターク・エビルフェイズの姿はなく、壁の壊れた部分から外の景色が見えていた。


 「や、やったの?」


 「殺ってはいないと思うけど、やっつけたんだろうな」


 ひとまず安心。僕がひと息つくと、それを察したかのように物体Xは、蒸発するように消滅した。


 「結局何だったの、あれ?」


 「分からん。ま、それは後で考えよう。それよりも、カノン。足は大丈夫か?肩を貸すぞ」


 「いらないわよ。それよりもアキホでしょう」


 「分かっているよ。でも、お前だって足を挫いているんだろう?」


 「分かってないわね。今、あんたが介抱するのはアキホ。私は大丈夫よ。いざとなったら、先輩の肩を借りるから。届くかどうか分かんないけど」


 「どういう意味や!オレ、そこまで背低くないで!」


 冗談ですよ、と笑うカノン。うん。その元気さがあれば大丈夫かな。


 「先に帰っているわよ」


 「兄ちゃん、すき焼き頼むで」


 レリーラの頭に手を置き、足を引きずるようにして歩くカノン。痛々しかったが、確かに今僕がすべきは秋穂を連れて帰ることだろう。


 「家の救急箱に湿布薬あるから貼るんだぞ」


 分かったわ、とカノンの声が響いた。


 「さてと、帰るとしますか、お姫様」


 僕は秋穂の傍にしゃがみ込み、彼女の背に負ぶった。

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