妹のいる朝~寝起きの攻防~

 『好きだなんて恥ずかしくいえないから。想いをサクラに託すの。それが私達の恋愛ルール。サクラオトメジェネレーション……』


 目覚まし代わりにしている携帯電話が鳴った。赤松千尋ことチッヒーが歌う『サクラオトメジェネレーション』。アップテンポの曲なので目覚ましにはちょうどよく、ダウンロードができるようになると早速携帯電話に入れ、僕の目覚めのサポートをしてくれている。ん?でも、おかしいぞ。休みの間は惰眠を貪りたいので、携帯電話の目覚まし機能はオフにしているはずだ。


 僕は覚醒率半分以下の状態で、枕元に放置してある携帯電話に手を伸ばす。しかし、そこに触れるものは何もなかった。


 「あ……あれ?」


 いつもなら百発百中で探り当てることができるのに……。


 「はぁ、またこんな着信音を入れて……。しかも待受け画面も……。仕方のない兄さんですね。仕方がないので、待受け画面は私の画像にしておきましょう」


 「どこの世界に妹の写真を待受けにしている奴がいる!」


 僕は跳ね起きて秋穂から携帯電話を奪い返した。ベッドの腰をかけ、携帯電話で写真を撮ろうとしていた秋穂が残念そうに顔をしかめた。


 「兄さん、おはようございます。清清しい朝ですわよ」


 「待て!何気なく朝の挨拶をしているが、どうしてお前が僕の部屋にいる?どうして僕の携帯を勝手にいじっている?」


 「兄さんが悪夢にうなされていないか心配になって来てみると、ついつい兄さんの可愛らしい寝顔に夢中になってしまったんです。それで携帯電話がふと目に付いたので、兄さんがソーシャルゲームにお金をつぎ込んでいないか、怪しげなメールが来ていないかチェックしていたんです」


 「待て待て待て!問い質したところ、突っ込みどころが増えてしまったぞ!もうどこから突っ込んでいいのか分からん!」


 「まぁ、兄さん。朝から突っ込む突っ込むって……。いやらしいですわ」


 「くそぉぉ!お前、いつから下ネタオッケーになった?これ以上、突っ込みを入れる要素を増やさないでくれ!」


 「さてさて、朝の愉快な戯れをこれまでとして、起きてくださいまし。もうすぐご飯も炊けますので」


 やっぱり人をおちょくっていたのか……。兄を弄ぶとは、恐ろしい妹だ。


 「なんだ、朝飯作ってくれたのか……」


 僕はベッドから出た。パジャマのボタンが上から二つほど外れていたのが、きっと寝ている間に外れたんだ。うん。そういうことにしておこう。


 「ええ。この家にいる以上、兄さんばかりに家事をさせるわけにはいきません」


 「無理すんなよ。昨日帰ってきたばかりなんだから」


 「無理じゃありません。全然疲れていませんから」


 「そうかそうか。じゃあ家事は当番制にするかな」


 「ええ。そうしましょう」


 「後で決めよう」


 「そうですわね」


 「そろそろキッチンに戻らないか?味噌汁、吹きこぼれているんじゃない?」


 「大丈夫ですわ。ちゃんと火を止めてきましたから」


 「そうかそうか。単刀直入に言おう、僕は着替えるから部屋を出て行ってもらえまいか?」


 「大丈夫ですわ。私は気になりませんから」


 「いやいや、僕が気にする。だから、出て行ってもらえまいか?」


 「単刀直入に言いますわ。兄さんの着替え、見たいです。兄さんの素晴らしい肉体美、見たいです」


 「パジャマのボタン、外したのお前だな!しかも肉体美って!僕はそんなにいい体していないぞ!」


 「大丈夫ですわ。美的感覚なんて人それぞれですから」


 「くそっ!ああ言えばこう言う!いいから出て行け!」


 僕は秋穂を背後から持ち上げた。こうなったら強制的に退場させてやる。


 「まぁ、兄さんが意外に怪力なんですね。それでいて積極的なボディータッチ。そのままベッドに投げ捨ててもらってもいいんですよ?」


 「あーーうるさいうるさい!」


 僕はそのまま部屋の外に秋穂をつり出した。そして鍵を閉める。あれ?寝る時に鍵を閉めたはずなのに……。ま、まぁ、後でちゃんと問い詰めるか。答えるとは思えんが。


 まったく、なんて妹だ。僕の貧相な体なんか見ても、全然いいことなんかないぞ。って……ドアの隙間から感じする視線。


 「覗くな!」


 「……兄さんの意地悪」


 僕は僅かに開いていた隙間を無慈悲に閉めた。何気なく時計を見てみると、まだ午前七時前だった。

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