ほめられても
「まったくひどいじゃないですか!二人揃ってお出かけなんて……。お姉さん、寂しかったんですよ」
「待て待て。いつものことながら、突っ込むことが多すぎるんだよ」
キャビンアテンダントの衣装に、散らかっている缶酎ハイの空き缶達。どれもこれも突っ込みを入れたいのだが、大前提としてどうしてここにいるのか突っ込みたかった。
「いやだ、俊助君。突っ込むだなんて……。セクハラですよ」
「だぁぁぁぁっ!そうじゃない!なんでここにいるんだ!」
「いいじゃないですか。折角のお休みなんで、二人とお話したいなぁと思って来たんだけど、いないんですもん。お姉さん、寂しくてついつい飲んじゃいましたよ」
手にしていた缶酎ハイを一口呷る。よく見ると卓上にはタッパーに入った茄子の漬物があった。
「勝手な食うな!」
「けちー。お姉さんを一人にした罰ですよ」
タッパーを取り上げたものの、もう一切れしか残っていなかった。くそっ、貴重な塩分供給源なのに。
「シュンスケ。ご飯にしましょうよ。もうお腹が限界」
カノンは、まるでイルシーがいないかのように振舞う。本当に腹が減っているのか、リアルに無視を決め込もうとしているのか。どっちでもいいが、カノンの意見に賛成だ。
「あっ、いいですねぇ。お漬物だけでは物足りなかったんですよ」
人の家の漬物を勝手に食べたうえに、さらに人の食料を食おうとするとは。なんて図々しい奴なんだ。
「駄目よ。これは私達の晩御飯なんだから」
イルシーをひと睨みし、お惣菜をガードするカノン。
「そうだそうだ。これは僕達の食料だ」
僕も負けじとお惣菜達の前に立ち塞がる。
けちですねぇ、と膨れっ面になるイルシー。そんな表情をしても全然可愛くないんだからね。
「それにしても、二人とも急に仲良しさんになりましたねぇ。さっきここに入ってきた時のコンビネーションなんかもなかなかのものでしたよ」
膨れっ面から一転、急に酔っ払いおやじの如く、僕とカノンのことを冷やかすイルシー。たちの悪い酒だな。
「そ、そんなんじゃないわよ。偶然よ、偶然!」
「そうですか?今日もわざわざお二人でお出かけなんてね。しかも、そんなに可愛らしい服を着ちゃって」
イルシーが嘗め回すようにカノンを見る。今日カノンが着ているのは、妹の秋穂が着ていた花柄のワンピースだ。ちょっと乙女チックな感じもしないでもないが、意外にもカノンには似合っていた。
「し、しし、仕方ないじゃない!これしか着るものがないんだから!」
秋穂の名誉のために言えば、そんなことはない。あいつは衣装持ちだから、相当数の服が残されているはずだ。
「そういえば、服選ぶのに時間かけていたな?そんなに秋穂の服って趣味に合わないか?」
だとしたら、新たにカノン用の服を買ってやる必要があるな。まぁファストファッションの店で買えばたいした出費にはならないだろう。
「……そ、そうよ。そういうことにしておきましょう」
ちょっと不服そうに唇を曲げるカノン。やっぱり新しい服を買ってやるか……。
「う~ん。まぁ、いいでしょう。お二人が仲良くやっているのは、喜ばしいことです。お姉さん、お二人をことでお腹一杯になっちゃいました」
ややふらつきながら腰をあげるイルシー。僕が手にしていたタッパーから最後の一切れを摘み取ると、口の中に放り込んだ。
「あ、てめぇ!」
「じゃあね、お二人さん。絶対仲良くするんですよ」
茄子の漬物を咀嚼しながらイルシーは消えた。ソファーの下には缶酎ハイの空き缶が転がったままだ。せめて片付けてから帰れよ。
「ね、ねぇ?私達って、仲がいいのかな?」
さっきまでお惣菜を死守すべく威勢のよかったカノンだが、急に声を潜めた。イルシーに冷やかされて、気にしているのか?
「さあな。悪くはないだろう」
魔王デスターク・エビルフェイズが現れた今となっては、仲違いをしている場合じゃないだろう。仲良くという言葉にどこまでの意味があるのか分からないが、僕とカノンが協力してこの事態に当たらなければならないのは確かだ。
「そんなことよりも飯だ、飯」
僕は卓上に並べられていたお惣菜の包みをはがした。食い意地にはったカノンも協力してくれると思ったのだが、ぼっと視界を宙に彷徨わせていた。
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