第249話「救」

「フフフ……レディを助けなくては紳士の名折れというものデス」

「ジャスはリリィのことダケ見てればいいんデース。でも愛しいマイブラザーのタメ、頑張っちゃいマスね!」

 二人の淫魔が前へ歩み出る。陽気な口調とは裏腹にその目は鋭く阿用郷に向けられていた。社地もゆったりと頭を下げてみせる。

「わたくしも全力でお相手させていただきます。茨木様、どうか何卒」

 黒い着物が周囲の霧に溶け込んでいる中、青白い肌がぽつんと浮かんでいるようで不気味だった。茨木が金棒を肩に担ぎ、鼻を鳴らす。すると鬼達が一斉に現れてきた。

「集団リンチとかサイテー! 堂々と戦いなよ、鬼は誇り高い生き物なんでしょー!」

「黙れ。海底に閉じこもる一族など藻屑と同じことだ」

「おやおや、わたくしどもも侮られたものでございます。念のために申し上げますが、社地家も卑弥呼の血を引くれっきとした神職でございます」

 神職という言葉に呆然としていたひかりはハッと我に返った。

「わたしも戦います」

「バーカ、ひかりにはやることがあるじゃんか。ぼくも手伝ってあげるからさ」

「ウチも! もちろんけいちんもね」

 奎介が静かに頷く。他の仲間も次々に目配せをし、微笑みを投げかけた。この二匹の強さはこの間、目にしたばかりだ。しかし皆の真っ直ぐな視線に押し出されるように踵を返す。そこにはひかり達が出てきた古い祠があった。

「ハル、どこですか!」

 脇を通り抜けて走り出す。翠やマチネ、奎介も後に続いてこの地獄と化した街へと散らばっていった。阿用郷が顔をしかめ、さすまたを振るう。

「余計な真似を」

「落ち着いてクダサイ、青鬼サン。少しくらいワタシ達と遊びまショウ」

「リリィは嫌いデスけど! リリィの言うこと聞いてくれないオトコは要らないデース」

「……ふん、まあいい。吾輩の手にかかり死ぬことを喜べ」

 さすまたの柄を握り締め、阿用郷が体勢を低くする。それを横目に盗み見ていた茨木も社地へ金棒を向けた。

「おとめ。少し、離れていて」

「でもあんた……」

「大丈夫さ。多少時間稼ぎにはなるだろう」

 両目は閉じられたまま。しかしはっきりとおとめの方へ身体を向けて、柔らかく笑いかけた。妻は大人しく下がっていったが、拳は震えていた。

「お待たせ致しました。始めましょう」

「妻と子供達を遺してしまうのか、哀れなものだ」

「現世の別れは惜しけれど、常人より近い場所に家族皆おります故」

 お札が徐々に波の音を立て始めていた。

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